「 未定 」#51 In crowd
辿り着いたこの街の名はシーレ。その特徴は芸術が盛んで多くの芸術家が集まってくることだ。歌、踊り、演劇などがこの街のどこかで催され見る人々を喜ばせている。
群衆の視線の先には若い女性が一人で踊り歌を歌っている。彼女を目当てに皆集まっているらしい。イズコも群衆の一人となり後ろの方からこれを見学することにした。
隣に立っている男に声をかける。
「すごい人気だね、彼女は誰だい?」
「お前、知らないのか。アイリーンだよ。最近有名なエルフの歌い手だよ。説明よりとにかく歌を聞いてみろって」
イズコは両手をいっぱいに広げ情感を込めて歌う彼女に釘付けになった。
こ、これは、、、なるほど。
高音は特に、人間の生み出せるものではなくこの世界に存在するものの歌声とは思えなかった。時を忘れて引き込まれている。
彼女は歌の合間に魅惑的な踊りを繰り出した。
こんなに離れているのに、まるで目の前で自分のために歌い踊ってくれているような錯覚に陥っている。
まぼろし?
そしてまるで彼女の手がそっとやさしく僕の胸に触れ、心臓の鼓動を確認しているようだ。
ボゴォォォン
突然、目の前に広がる光炎と爆発音にイズコは我に返った。前方で巻き上がる炎とともに吹き飛ばされる群衆。悲鳴が響き渡り人々は危険を感じとっさに逃げ出している。
天国から地獄へと突き落とされたような状況に何が起きたのかを理解することはできなかったが、瞬時に身体はその場を離れ退避しようとしていた。
ふと、上空を見上げるとダークグリーンの体をしたドラゴンが飛行しながら炎の塊を勢いよく吐き出していた。
「なぜ、こんなところにドラゴンが・・・」
その問いに対する答えは得ることもできず、再び炎の塊が群衆に直撃しその衝撃でイズコも2mほど吹き飛ばされてしまったのだった。