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なぜ、いまアートなのか。美術教育業界の私たちが考える、ヒトや企業のウェルビーイング。
ごあいさつ
美術出版エデュケーショナルは、主に中学校を中心に絵具などの美術画材・教材を販売している卸商です。一方で、数年前から美術教育に由来するウェルビーイングな精神を、ワークショップという形で企業に提供する研修事業をはじめました。
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今回は、美術やアートの持つ可能性にご関心のある読者の方向けに、「なぜ、いまアートなのか」について、弊社のワークショップデザイナー養成講座で使用した研修資料の導入部分を抜粋してご紹介したいと思います。
※「アートカードを使うワークショップデザイナー養成講座」に関する過去の記事はこちら☟(養成講座の次回の開催は6月予定です)
以下、「アートカードを使うワークショップデザイナー養成講座」テキストより抜粋
なぜ、いまアートなのか
⼦どもにとって、そしてわが⼦を導こうとする親にとって、知ることは感じることにくらべて半分も重要ではないと、私は⼼から思っています。事実が、やがて知識や知恵を⽣み出す種⼦だとしたら、感情や、感覚に刻まれた印象は、種⼦を育てる肥沃な⼟壌です。
未知なるものを前にしたわくわく感。見果てぬ世界を夢みる際の高揚感。
私たち人間には、好奇心と創造力という、素晴らしい資質が生まれながらに備わっています。
子どもの頃は、誰もが好奇心に駆られた「冒険」をし、創造力の産物である「夢物語」を存分に楽しんでいたことと思います。
今、私たち「大人」の多くは、この大事な資質を使うことがほとんどありません。人によっては、自分にその資質が備わっていることすら忘れてしまったかのようです。情報の渦の中で「正解」や「妥当解」を求めて彷徨っているうちに、自分が何を求めていたのか、自分がどこに立っているのか、すっかり見失ってしまっているのかもしれません。
本来、人が豊かさを求め、創造性を以て作り上げた「ロジック(論理)」が、いつのまにか気持ちの入っていない、無味乾燥なルールや窮屈な思考の枠組み程度のものに、成り下がっていないでしょうか?好奇心の抜け落ちた「生産性」や「便益」が重視され、創造力に欠けた「不寛容」や「押しつけ」が溢れていないでしょうか?わかりやすい知識がもてはやされ簡単に消費され、わからないことに対して忌避あるいは嫌悪で応じることが普通の反応になってはいないでしょうか?
そこで、好奇心や創造力を取り戻し、血の通ったロジックを取り戻しながら、生きる喜びや解放感を実感できる社会を現実のものにしていくために、今アートに改めて注目してみたいのです。
アートって実際には何の役に立つのですか?
アートのような教養を身につける余裕はありません…
アートの良さをアピールしたくても周りを納得させる材料がないんです…
‟アートに注目しています”と真剣にお話しするほど、こうしたコメントをいただくことが増えます。皆さんでしたら、こうしたコメントにどのように答えますか?
先の見えない世の中を見通すような先見性を養うことが出来る
0から1を生み出す創造力をきたえることができる
他人とは異なるユニークな発想(アイデア)を生み出すようになれる
観察力や表現力が上がりコミュニケーション力が高まる
人間としての幅が広がり本人の魅力があがる
まだまだ色々な「答え」が出てくると思います。私自身は、実はこうした“問い”や“悩み”そのものを「なかったこと」にできることこそが アートの持つ魅力であり、可能性だと思っています。しかも、それは知識として教えてもらうものではなく、身体の一部としてまさに身につけていくものです。
例えば、さまざまなアート作品とまず単純に向き合ってみる。
たったそれだけのことで、作家の好奇心や創造性に触れることができ、自分の中にもその資質があることを再発見できるかもしれません。
あるいは、誰かと一緒に鑑賞体験を共にし、感想を述べ合う。
そんな時間を共有するだけで、「対話した人同士の関係性が変わる」ことを実感するかもしれません。
さらには、アートを介した「コミュニケーション」を通じて、人と人が時空を超えて、互いの違いを認め合い、響き合うダイナミズムを体感することができるかもしれません。
本音を言えば、このように例示して説明すればするほど、あるいは「アート思考」のような言葉で定義づけすればするほど、体感で得るアートの本質からは遠ざかってしまうような気もしています。
わかりにくいですよね…
このわかりにくさを、この講座を通して実感していただき、講座が終わったときに「自分なりに」感じた・考えたこと、アートの魅力やアートに期待できそうなことを言葉にしてみてください。
それが周囲を納得させる頼もしい「材料」の1つになると確信しています。
アート単独では豊かな個人や社会に導くことはできませんが、「センス・オブ・ワンダ ー」を取り戻し、“肥沃な土壌”となって“種子”を育てることはできるのです。
株式会社 美術出版エデュケーショナル
教育 研修支援事業プロデューサー
合同会社志事創業社 代表
臼井 清
美術教育やアートの要素が、人や社会のウェルビーイングにつながる
私たちは、美術教育やアート作品、アーティストの要素や思考プロセスを分解して応用することで、ヒトやビジネス、社会の豊かさに繋げることができると考えています。
つまり、美術教育やアートの要素を活かして私たちが目指すところは、ヒトや社会のウェルビーイングの実現です。
私たちは、これからの企業や働く人々にとっても、感性や創発性、非言語的なコミュニケーションから生まれる心の豊かさなどが重要になってくると確信しています。
それは、世の中のウェルビーイングに対する関心や欲求が高まっているためだけではありません。
ロジックによる課題解決で行き詰ったとき、美術教育やアートの要素を取り入れた、感性や五感を使ったコミュニケーションツールが、人間関係・場の空気感に変化をもたらします。
それが個人の創発性や、それを発揮できる組織風土の醸成につながり、利益と豊かさの共存を図ることができるのです。
どのようにアートを活用するかについては、また別の機会にご紹介いたします。
美術出版エデュケーショナルでは、月に1度アートカードを使ったワークショップを開催しています。実際に感性が磨かれたり、多様性や創発が生まれる土壌ができていく過程をご体感いただけますので、ご興味のある方はイベント情報をご覧ください!