見出し画像

AI時代にアーティストから学ぶ~先端技術と向き合う力~_アートエデュテイメント#11

 アートエデュテイメントという視点で、主にビジネスを熱心に進められている方々を読者と想定してお話してきています。

〈画像生成AI〉

 皆さんは、画像生成AIを使用したことはありますか? 無償で利用できるものも多いので、まだ経験していないという方は、ぜひぜひお試ししてみてください。うーんと唸ること間違いないですから。
 
 やり方は極めて簡単で、「描いてみたいイメージ」を言葉にして入力して、出力結果を待つという形です。例えば、「街中にあるお洒落なゴミ箱」と入力すると…


「街中にあるおしゃれなゴミ箱」と入力された画像


 こんな画像を何枚か、数十秒もすれば出してくれるのです。非常にクリエイティブ(創造的)ですね。

 入力内容(プロンプト)をさらに工夫すると、より自分にしっくりする「作品」を出力してくれるようになります。絵心が無い私のようなものでも、優秀なデザイナーを専属でお抱えしている感じ。…ということは、デザイナーとして食べている方の仕事って、どんどん減っちゃうのでは? そんな疑問が当然のようにわいてきます。


〈テクノロジーがアートを育てる?〉

 1874年、パリで『画家、彫刻家、版画家などによる共同出資会社第1回展』が開催されました。
 え? アート好きではないので、そんな展覧会知りませんか? この展覧会が後に『第1回印象派展』と呼ばれるものです、と説明を加えると「ああ、印象派ね」って、急に身近に感じられるのではないでしょうか。モネやルノワール、ドガ等々、思い浮かぶ画家や作品、満載ですよね。
 この印象派が生まれる大きな背景の一つに、テクノロジーの進化があったことは、いまや定説です。そう、カメラ(写真)の発明です。


1839年に発明されたダゲレオタイプ(銀板写真)


 1839年に発明されたダゲレオタイプ(銀板写真)は、それまでの画家の多くの仕事を奪う、驚異的なテクノロジーでした。何せ、見た目に近いもの(≒写実)を描く技術を売りにしていた当時の画家たちを、はるかに凌駕する写実力で画像を残すことのできる技術が、生まれてしまったのですから。

 今の画像生成AI登場のインパクト同様、あるいはそれ以上だったかもしれません。「これから一体、何を描いていけばよいのか?」当時の画家たちは真剣にこの問いに向き合う必要があったわけです。

 そこで出した方向性の一つが。「カメラではとらえられない(≒描けない)世界を描く」ということ。それが印象派につながっていったわけです。

 勿論、こんな短い文章で言い切れるほど単純な一本路線でつながっていたわけはないのですが、アーティストたちの何人かが、先端技術(≒わからないもの)から逃げたり、反発したりするだけではなく、真正面に向き合った経緯があることは間違いありません。


〈画像生成AIは画家の競合。それとも…?〉

 先日、『AI時代のアーティスト』というテーマで、AIと「合作」されている、現役芸大生の作家さんをゲストにお招きして、ワークショップを開催しました。

 アーティストが、どういう思考のプロセスを経て作品に仕上げていくのかを、参加者皆さんと一緒にその場で体験していくプログラムです。作品を仕上げ、発表し終わった後に、ゲスト作家さんから、「実は、今体験したプロセスを、AIはアルゴリズムとして実行しているだけなんです」というご説明。一瞬きょとんとしてしまいましたが、要は、AIって人間の思考プロセスに似せて作られているので、まぁ作家仲間がもう一人増えるだけってイメージなのかなと。

 ただ、そのお仲間、度を越えたオタクで、世界中のありとあらゆる「知識」をかき集めて取捨選択することを一瞬でこなしてしまうという…。   

 じゃぁ、自分はそっちではなくて、どこを目指そうかなと…これに向き合っているのが、AI時代のアーティストなのだなと思ったしだいです。


〈技術に振り回される前に〉

 クラウド、IoT、メタバース、Web3.0 、DX、AI、…

 ビジネスパーソンが知っておかねばならないような技術トレンドが、次から次へと押し寄せてきます。その度に、必死に追いつこうと努力したり、逆に、無視して距離を置いたりするのですが、その前に「このわからんものを、どう扱うのがいいのかなぁ」と、じっくりと腰を据えて考える時間を取るのが良さそうです。大きな流れなのか、泡沫のブームなのか。

「単なる落書き!」
「観るに値しない未完成品!」
「壁紙みたい!」
「印象を描いただけ!」

(印象派の作品に向けられた当時の批評家の辛辣なコメント)

 乱暴な言説に打ち勝ち、時代(次代)に残る、印象派のような価値を新たに生み出すことにつなげられるのは、思索の時間をしっかり持った人たちだけではないでしょうか。

 「タイパ」、「生産性」、「損得」だけではたどり着けない世界を、たまに美術館などに行って「鑑賞」してくるのも、先端技術トレンドに辟易している身をリフレッシュしてくれることと思います。

 先ほどのワークショップで、「科学の粋を集めた美術館の不思議な外観」と参加者の皆さんに「プロンプト」して身体を使って作品として表現してもらいました。「生成プロセス」の間の皆さんの笑顔が、とても印象的。画像生成AIは、残念ながらこの楽しみを知らないでしょうねぇ。明らかに、私たちのほうが〟創造性〟を使いこなしているようです(笑)


プロンプト「科学の粋を集めた美術館の不思議な外観」


<筆者紹介>
臼井 清(うすい きよし)
株式会社 美術出版エデュケーショナル 教育研修支援事業プロデューサー
合同会社 志事創業社 代表 事業開発アーティスト
<プロフィール>
セイコーエプソン入社後、国内や台湾、英国、ドイツでマーケティングと人材資源管理(HRM)を中心に多くの経験を積む。2014年「人生を豊かにするチャレンジ」を応援するコンサルティング会社 志事創業社(しごとそうぎょうしゃ)を設立。各種研修・セミナーのプロデュース、ファシリテーション、顧客開拓マーケティング、企画運営などを手掛ける。美術出版エデュケーショナルの教育研修支援事業プロデューサーとして、アートのビジネスシーンでの活用も推進中。日経BP総研講師、丸の内プラチナ大学講師、(公財)パブリックリソース財団シニアフェロー。一般社団法人美術検定協会アートナビゲーター1級。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?