京都っていいよね・・・vol.3【学生時代の壮絶エピソード】
京都の大学に通っていた頃に僕が住んでいたのは学生専用のオートロックマンションで、オートロックというと聞こえはいいが、正面玄関、いわゆるエントランス以外なら低い塀を乗り越えてどこからでも入ることができて、ほぼ防犯の意味はなかった。まぁそれはいいとして、間取りは7畳の1kユニットバス。時代は既に高校生や大学生が携帯電話を持ちはじめた頃頃だったが、部屋にはホテルにあるような備え付けの固定電話がついていて、一般回線の他に各号室ともやり取りができるようになっているのだけれど、使うことなんかあるのだろうか。しかも、入居者が変わっても電話番号は変わらないもんだから、しょっちゅう以前の住人への電話がかかってきた。
当時の僕は大音量で音楽を聴くし、ギターも弾く、大声で歌う。下の住人からはほぼ毎日苦情が来た(角部屋で逆隣は大学の友人だった)。ここぞとばかりに前述したアパートの内線で苦情が来た。でもこればっかりは僕に原因があるので苦情が来たら「すみません、気をつけます」と丁寧に謝り、その日は少し静かにしているように心がけていた。
ある日、僕は家で静かに物書きにふけっていると電話がかかってきた。下の住人だ。今日は静かにしているのにな、何かな?と思って話を聞くと。「今トランペット吹いてましたよね?静かにしてもらえませんか?」と。
ちょっと待ってくれ。僕はTVもつけていなければ、音楽も聴いていない。室内は無音に等しいのに…。しかもトランペットって…。持ってないし…。僕は唖然として、ただ苦笑するしかなかった。「い、いや…僕トランペット持ってないんで…」と言って電話を切って、しばらく気にせずに物書きの続きを始めたのだが、ふと僕の頭をある仮説が横切った。
もしかしたら、今まで下の住人は僕の部屋ではない部屋の騒音を、僕だと勘違いしているのではないか。いや、もしかしたら、下の住人は何か聞こえてはいけない音が聞こえるタイプの人間なんじゃないか?だんだん後者の疑いが勝手に強くなってきて、同時に腹も立ってきて、僕は下の住人がどんな人か見たくなってきた。ずっと電話での苦情で、実際に会ったことはないのだ。会ったら文句のひとつでも言ってやろうと思った。
後日、僕が階段を降りていると偶然下の部屋から住人がでてきた。女のヒトだとは電話口でも知っていたが…。
可愛いじゃないか…。
僕は「どうも、いつもうるさくしてすみません」とヘラヘラと謝り、その日から、下の住人に対する猜疑心が何処かへいってしまったのと、僕の部屋全体の音量が下がったことは言うまでもない。