『デカメロン』読書メモ 第8日目
第8日目のテーマは「女が男に悪さをした話」というか、男が女を騙す、あるいは女性が酷い目にあう話を集めたらしい。"男たちが信じている相手から愚弄されることは多々あることですが、同様に男とても自分を信用している女どもを愚弄することはあるのです"……皮肉な書き方をしてはいるけど、表面的にはミソジニーそのものな話が多くて読むのがなかなかつらかった。
第一話で騙される女性は、一応「性悪だから」という理由がついてるけど。お金を借りておいて、相手の弱みをついて借金を帳消しにさせる、というトリック自体のおもしろさはある。
第二話も生臭坊主が女に手を出して、追いつめられるけど機転を効かせて逆転する話。
第三話は落語の与太郎みたいな男が友人に騙される話だけど、落語だと与太郎が勝手に失敗するかんじだけど、こちらは騙す側の悪意がはっきりしてるので笑えない。しかも最後に騙された男が、妻を全身あざだらけになるぐらいぼこぼこに殴るという……。
第四話は第二話と同じく生臭坊主の話だけど、今度は生臭坊主が懲らしめられる。言い寄られる女性はひどい目にあわないけど、テーマ的には生臭坊主にしつこく言い寄られて対策を取らなきゃならなくなったこと自体が愚弄・侮辱、ひどい目ということなのかな。
第五話は第三話に出てきたマーゾが再登場。判事のズボンをずり下げるという昭和のコントみたいな悪戯をする話。最後に当時の政治的風刺(と偏見?)がちょっとだけ落語のサゲみたいについてる。
第六話も第三話のカランドリーノが騙される話。やっぱりカランドリーノは一方的な被害者で、後代の笑い話や落とし噺はこういうところからだんだん洗練されていったんだろうな。
第七話の感想が長くなってしまったので別記事にした。
https://note.com/brzbb01/n/ncdba2c516c08
第八話の冒頭で、第七話について「御立腹とはいえ学者様の酷薄な仕打ちいくらなんでも非道すぎると皆さま惻隠の情に心動かされたご様子、ではここでなにか少し楽しいお話をして皆さまの苦りきったお気持ちをなごめたく存じます」とか「復讐をするにしても度を越して相手を傷つけてはいけないということを弁えるべきだ」と書いているのをみると、著者は第七話の復讐の強烈さを認識してるし、それに対して読者がどう反応するかもかなり気にしているっぽい。
第八話の内容は、2人の友人同士の男がいて、2人とも結婚してるんだけど一方の男が相手の男の妻と寝てしまう。それに気づいたもう一方の男が、報復として相手の妻を寝取り返す。シンメトリーな復讐という点では第七話と同じだ。結局、話の結末では二組の夫婦は、4人でお互いの夫と妻を共有して幸せに暮らしましたとなるんだけど、もちろんそういう形の愛もありうるとは思うけど、「俺たち二人の間で違うのは家内だけだった。これからはそれも共有することにしようじゃないか」という台詞だけで済まされてしまうので、どうしても妻は夫の財産か所有物として扱われる感が強い。
第九話は、第三話と第六話に出てきたブルーノとブッファルマッコのコンビが登場。フィレンツェからの留学帰りの医学博士がこの二人に騙される。第七話では学者様をなめるなよと書いていたけど、この話では欲に目がくらんで簡単に騙されている様子を描いている。ブルーノとブッファルマッコは、金も女も思いのままになる秘密結社みたいなものがあると信じこませるんだけど、その入会の儀式に悪魔(変装だけど)が出てきて、どうやら悪魔崇拝の秘密結社らしいのがおもしろかった。
第十話は、表向きはかたぎだけど裏では人から金を騙し取っている女に、男が金を騙し取られるけど倍返しする話。浴場で密会する場面のディテールがおもしろい。女は騙し取った金額の倍額を逆に取られるんだけど、悔しがるだけで破滅するわけじゃないし、最後だからか軽い後味の話だった。