『デカメロン』読書メモ 第5日目
5日目のテーマは「さまざまな過酷な事件や不運な出来事に遭った後、結局幸せになる恋人の話」
第1話:野人のような青年が恋に目覚めて知的になり社会的に洗練される(フランケンシュタインの怪物を思わせる)んだけど、恋した相手からは完全に拒絶され、結局力づくで奪おうとする。いったんは失敗するんだけど、もう一人力づくで恋人を奪おうとしている男がいてそいつと協力して女を略奪することができてめでたしめでたし、となってるんだけど女性二人の気持ちは完全に無視である。破滅する結末だけがないピカレスクロマンみたいな話。
第2話:相思相愛の相手の男が死んでしまったと思って、自分も死のうと小舟で海に出て難破するのを待つんだけど寝てる間に無事に浜辺に着いてしまうというのがユーモラス。波乱万丈の展開ではあるんだけど、バイオレンスもエロもなくて、いままでの話がR18だとするとPG12というかんじ……。
第3話:相思相愛の二人が駆け落ちの途中で離ればなれになってしまうんだけど、やっぱりバイオレンスもエロも抑えめで馬が狼に食い殺されるくらい。
第4話:結婚前の恋人同士が素っ裸で抱き合って寝ているところを彼女の父親に見つかってしまうけど、父親は二人を結婚させて丸く収まる。他の話では同じような状況で実の娘を殺そうとする話もあったのに、こちらはまったくほのぼのとしている。彼女が寝ながら握っている男のイチモツを、小夜鳴き鳥(ナイチンゲール)に例えるギャグ(?)がこの話の核というかそれしかないというか。
第5話:一人の娘を二人の男が取り合う。二人とも娘を力づくでさらおうとするが、襲撃が同じ日になって鉢合わせすることになったり、娘の実の親が判明し感動の対面があったり、取り合った二人の男の片方が娘の兄であることがわかったり。細部を膨らませればそのまま近代的な長編小説になりそう。
第6話:相思相愛の男女がいて、娘のほうが海賊に拉致誘拐される。娘を巡って仲間割れが起きそうになったので娘は王に献上される。王が病気で手が出せないでいるうちに、恋人の男のほうは娘のゆくえを探し当てる。娘が囚われている部屋で裸で抱き合ってるところを王に見つかってしまい、二人とも杙に縛られて火あぶりにされそうになる。間一髪のところで、娘も彼氏のほうも実は王の恩人の娘、息子であることが判明して、すべてが丸く収まる。恋人は間に合うのかとか、火あぶりにされてしまうのかとか、サスペンスにけっこうはらはらする。
第7話:子どものときに奴隷として連れてこられた男が主人の娘と恋仲になり妊娠させてしまう。男は絞首刑にされることになり、娘も実の父親によって短剣か毒薬で自害するように命令される。男が実は貴族の息子であることが判明して刑は取り消され、間一髪のところで娘の命も助かる。この話もサスペンスフル。
第8話:身分の高い女性に片思いする男がいて、でもどんなことをしても恋は成就しない。ある日林の中を歩いていると、全裸の美女が悲鳴をあげながらこちらに必死に走ってくる。2頭の犬に追いかけられ、噛みつかれて倒されたところに、馬に乗った騎士が現れる。騎士が言うには、2人ともすでに死んでいて、生前、騎士はこの美女に片思いしていたが、何をしても女のほうは騎士に靡かなかった。騎士が仕込み杖で自害したあと、女のほうはそれが嬉しすぎて死んでしまった。騎士は女を追いかけて仕込み杖で刺し殺し、内臓を取り出して犬に食わせる。すると女は元の姿に戻ってまた逃げ出し、それを騎士が追いかける。地獄に落ちた二人はそれを何度も何度も繰り返しているというのだ。それを聞いた男は、これを自分が片思いしている女に見せて震え上がらせ、心変わりさせる。
いきなり林の中を走ってくる美女、無惨に殺される残酷絵のような趣向、怪異を複数の人間で鑑賞するという落語の「お菊の皿」みたいなおもしろさはあるんだけど、自分の恋心に応えない女に復讐し、罰して、戒める、というミソジニー色が強い話。
第9話:語り手も指摘するように8話と似ている話で、やはり男が片思いするが恋は成就しない。男は没落して貧乏暮らしをしている。財産をほとんど失くしたけど、鷹狩りの鷹だけが残ってそれが生きがいのようになっている。片思いしていた女性が、息子といっしょに男が住んでいる地所の近くに避暑にやってくる。息子は男と仲良くなり、鷹を気に入る。そのうちに息子が病気になってしまいどうしても治らない。何か欲しいものがあるかと息子に訊ねると、あの鷹がもらえれば元気になる気がするという。かつて自分が冷たく振った相手に、さらに鷹をくれというのは……と躊躇するが、息子の命がかかっているので、しかたなく頼みに行く。男のほうは、8話の男とは違って女のことを恨んではいない。自分に長所があるとしたらそれはあなたを愛したことによるものです、などという。しかし貧乏暮らしをしていておもてなしすることができない。それで鷹を料理して出してしまう。その後二人は結婚するんだけど、息子は病死してしまうし、アイロニカルな悲劇。ボッカチョはとにかく恋の邪魔をする、愛に応えないものが許せないらしい。
第10話:同性愛者の男が世間体のために結婚する。男は妻にはまったく興味がないので、妻は欲求不満になってこちらも浮気しようということになるんだけど、相談する相手が唐突に登場する「聖女」で、とにかく女性は若いうちに欲求のままに好きなことをするべきだ! と熱弁して、男をどんどん紹介する。ある日、自宅で男と密会しているところに夫が突然帰ってくる。男が見つかってしまうんだけど、それは夫のほうがかつて追いかけたが降られた美青年だった。夫は妻を責めるかわりに3人で仲良く食事し、寝室では3Pすることにして(はっきりとは描かれないけど)、すべて丸く収まる。
同性愛は罪、と作中では一応書かれてるけど、実際に夫が作中で罰せられたりひどいめにあうことはまったくないし、「聖女」は浮気を推奨するし、とにかく恋愛至上主義というかセックス至上主義というか……。下巻の解説で訳者はこの話の結末が気に入らないみたいだけど、第1話なんかよりはるかに明るいハッピーな結末だと思う。不倫の話はいっぱいあったけど、同性愛はほとんど出てこなかったような。訳者が受け入れられないのは3Pのせいか、同性愛嫌悪のせい?
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