DNの話 (オチは劇場版Zガンダム)
アニメの現場でで良くこのカットは「DN」だから丁寧に作業してくださいって言われることがあります。
今回の記事は「DN」の話です。
DNの意味
DNは本当はDuplicateNegaFilm(複製ネガフィルム)って意味です。
映画の映写用プリントフィルム(最近はほとんどデータですが)を量産するとき、オリジナルのネガ原板を使うと損耗が激しいので量産用に複製したネガのことを言います。
実際はオリジナルのネガ原板からマスターポジを作りそれをもう1回ネガに焼いた物がDNフィルムと呼ばれます。昔の映画はすべてDNから焼かれたプリントフィルムで映写していたんですね。
よくDNは毎回使うから丁寧に作るカットって意味でよく使われて、「このカットはDNカットになります。でも、衣装(デザイン)が少しずつ替わるので毎回再撮影します」って言われて一瞬頭が?状態になったことあります。デジタル撮影になってDNって言葉はもはや本来の意味を失った感じです。今や慣れっこです。
アニメの現場では
合体シーンや変身シーンと毎回同じ物はそのたびに作業するのは大変なのでDNがよく使われます。
僕が現場にいたときは実際はCRIフィルムというマスターポジを焼かなくて直接ネガが焼ける特別なフィルムでネガを複製していたので厳密にはDNではないのです。CRIフィルムは1工程なくなってるので、値段も安く画質も良かったのでよく使われてましたが、フィルムベースが違うのでフィルムの繋ぎが旨くいかない・傷がつきやすい・劣化がはやいと僕自身は大嫌いでした。その為なのか早い段階で販売中止となって、元のDNだけしか使えなくなると値段の高さからDN自体が使われなくなり再撮影が増えました。まぁ、すぐにフィルム自体もなくなりましたが。
DNはいつ頃から
アニメは実写と違い再撮が出来たので、初期の虫プロ(鉄腕アトムの時代ですね)ではOP/EDを除けばほとんどDNは使われなかったみたいです。
しかしタツノコプロでは、スタッフが実写流れの人が多くいたのでDNは結構使われていたらしいです。僕自身の記憶では「みつばちハッチ」とかでいやに画質の悪いカットがあったので多分それがDNカットだったのでしょう。「タイムボカン」も出発シーンは最初からDNでした。
顕著なのは前話階層や回想シーンはタツノコではDNが多かった気がします。実写から来た人が多かったタツノコはそういうカットはDNでって流れがあったのでしょう(ホントかはしらない)
他の会社特に虫プロ系ではやはり高額って事もあったので再撮が主だったと聞きます。
再撮すると当時はセルだったので前の話数と透過光の色が違う・セル傷が増えてるとか撮影がミスってるとかいろいろ面白い現象が起きてました。
回想シーンとかはセルがもう使えないのでDNを焼いて使う事が多かったのです。DN特有の画質の悪さが回想シーンとしてちょうど良かったって聞いたこともあります。
逆に再撮で回想シーンをする場合、パラがけとか「回想フィルタ」が必要になって逆に手間かかったとか。
回想フィルタがダメージ系(ぼけ・ノイズ・退職)のエフェクトが多いのはDNによる画質の劣化の再現がもともとあったからなんですね。
鉄腕アトムのDN回
DNって画質が悪くなるから早い時期から35mmフィルムで撮影して画質の劣化とかないようにしてて、DNの時はTVの撮影担当会社が16mmしか撮影台がないので、別の撮影会社で取ることも多かったです(OP/EDも同様)
16mmを元にDNにすることってそんなになかったって聞いてます。
鉄腕アトムで制作スケジュールが危機的になりDNを使って新規エピソードを作った事があります。有名な富野さん(ガンダムの監督)の演出エピソードですね。
虫プロ自体は制作スケジュールの悪さで仕方なくやっているって感じだったそうですが、僕の記憶ではロボット(キャラ)が普段よりいっぱい出てきて話もいいテンポだったので面白かったです(多分美化されてる)
富野さんはその後自分の監督作品「ザンボット3」や「ダイターン3」でDNだけで新規エピソードを作ってたりしてました。今からして思うに最終回に備えての制作リソースの調整をしてたんですね。
劇場版ガンダム
富野さんは「機動戦士ガンダム」では何故かDN使った新規エピソード回を作っていないので、どうしたんだろうと放送当時僕は思ってました。
で、きたのが「劇場版ガンダム」
DNでTVシリーズの1話をでっち上げるのではなく、総集編として劇場公開って話です。当時は東映まんが祭りとかでテレビをそのまま劇場で流すことはありましたが、劇場は新作が基本でTVと別の実写系の人が監督するってパターンでお金がかかります。
劇場版ガンダムは16mmフィルムをブローアップして劇場で公開するって凄い企画です。多分制作費は新作映画よりかなり低かったでしょう。
僕もプロになりフィルムのことが分かると16mmを劇場公開って凄いナンセンスな事って理解してびびりました。
しかも、ネガ原板は16mmで映写用のプリント段階で拡大したとか。
まぁ結果は大ヒットです。
それに味を占めたのかその後しばらくTVシリーズの劇場化が増えたんですですね。流石に他の会社はそんなことはしなかったですが。
「あしたのジョー」とかすでに劇場が決まっていた作品はもともとTVも35mmで撮ってましたし、やはり映画は新作って事に落ち着くことになります。
当時の日本サンライズ(ガンダム作ってる会社、現バンダイナムコフィルムワークス)の事は僕はよく知りませんが、劇場作品を作る力はその当時はなくてDNでTVシリーズを使い回すのが精一杯だったんだと思います。凄い英断です。今だと絶対に通らない企画ですね。数年後には完全新作の劇場作品を作るくらいにはなってますが。
劇場ガンダムは今からして見ると本当に新作カットが少なくて重要なシーンやTVで出来なかったこと(ホワイトベースって戦艦の回り込み等)を作った位です。三作目で人気作となってアニメーションディレクターの安彦良和さんが後半参加していなかったこともあり新作カットが増えたましたが、依然DNで、しかも16mm撮影のままでした(初志貫徹ですね)
ガンダム後の「伝説巨神イデオン」の劇場版では打ち切り食らって制作できなかったラスト4話を劇場でってコンセプトだったせいか総集編としてはかなりおざなりでしたが、ネガ原板は35mmでラスト4話分にあたる後半は新作画、35mm撮影で極めて美しいアニメになってました。逆に言うと16mm部分の画質のアラはかなり気になりました。本当に最後4話の為の映画でした。だから見るときはTVシリーズを全部見終わってから見ることをおすすめします。それだけでかなり印象変わります。超名作です。
劇場Zガンダム
で時代変わっていきなりZガンダムのDVDが販売され大ヒットして劇場になることになったのですが、まさかの再度16mmのDNによる総集編ですよ。
もうデジタルに切り替わりつつあった時代に昭和復活です。
当初はDVDでの販売だったらしいのですが、劇場公開にまで、しかも3部作になるとは僕びっくりでした。
まぁ最新の技術で画質の補正でフィルムは綺麗にするのですが、新作カットは「エイジング処理」って奴で画質を落とすって事してるそうです。
そこまでしてDN使いたいのか!(厳密にはDNではないですが気にしないで)
最後に
DNってフィルムを複製する技術なんですが、これがなかったら今の「ガンダム」「ガンプラ」とかなかったと思うとなんか感慨深いです。
今後打ち合わせで「このカットDNになります」って言われても気にしないで「はい!頑張ります」ってこたえることにします。