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【MLB】2022年「Hall Of Fame」問題【ステロイド時代】【殿堂入り】
ニューヨーク州クーパーズタウンに佇むレンガ造りの建物,アメリカ野球殿堂(National Baseball Hall of Fame and Museum)は1939年の開館以来,数多のMLB選手を迎え入れてきた。
ベーブ・ルースやタイ・カッブに始まり,2020年にはデレク・ジーターやラリー・ウォーカーといった大選手がアメリカ野球殿堂入りとしてレリーフに飾られている。
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★アメリカ野球殿堂入りの条件★
殿堂入り選考の対象となるのは、MLBで10年以上プレーした選手のうち、引退後5年以上が経過した選手。
選考対象となった選手は全米野球記者協会(BBWAA)の適性審査委員会で殿堂入り候補者とするか否かが議論される。候補者として認められると、殿堂入りの可否を問う投票にかけられる。BBWAAに10年以上所属している記者に投票資格が与えられ、通常25~40人の候補者のうち最大10人までの名前を書いて投票する。得票率75%以上の候補者が殿堂入りとなる。得票率5%以下の候補者はその回限りで候補から外される。得票率5~75%の候補者は次年度の審査・選考に持ち越されるが、10回目までに75%の得票が得られなければ11回目からは候補から外される。この候補者については一定期間を経た後、ベテランズ委員会で殿堂入りが審査されることになる。
2021年1月にも同様にBBWAAによる候補者への投票が行われたわけだが,誰1人として殿堂入りをすることが叶わなかった。これは2013年以来8年ぶりの出来事である。
ただ,2021年度において投票の対象になっていた顔ぶれを見るに,殿堂入りゼロについて「やっぱりな」と思った人は多いのではないか。
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スコット・ローレンやオマー・ビスケル,ビリー・ワグナーらの名誉のために言っておくが,ここに名前の挙がっている多くの選手は素晴らしい実績を積み上げ,今後も得票を受けるに値する選手だろう。アンドリュー・ジョーンズは言わずものがな,9.5%の得票に終わっているトリー・ハンターも日米野球での活躍などから,日本での知名度も高い。
渦中の,議論の種は上位や中位を占める選手にある。1位のカート・シリング,2位のバリー・ボンズ,3位のロジャー・クレメンスを筆頭に,8位ゲイリー・シェフィールド,11位のマニー・ラミレス,12位のサミー・ソーサである。彼らは実績のみを勘案するならば殿堂入りに相応しい選手ばかりであるが,残念ながら今日に至るまでクーパーズタウンの入口で足踏みをしている。
MLBファンであれば周知の事実でもあるが,彼らは現役時代に身体能力の向上を目的とした禁止薬物を使用したと"されている"。(もっとも,シリングは別の理由で敬遠されているため,今回のnoteでは触れません)そのため,BBWAAの多くの記者が彼らに投票をしないスタンスを貫くことで「違反者」たちの殿堂入りを阻止してきた。
その中でも来年2022年の投票にてラストチャンスとなる10回目の投票を迎えるのがバリー・ボンズ,ロジャー・クレメンス,サミー・ソーサの3人だ。それぞれの実績と,禁止薬物との関連を振り返ってみよう。
【バリー・ボンズ】
2986試合 打率.298(9847-2935)762HR 1996打点 514盗塁 2558四球 出塁率.444 OPS1.051 173wRC+ rWAR162.7
【受賞歴】
ナショナルリーグMVP×7回,首位打者×2回,本塁打王×2回,オールスター×14回,ゴールドグラブ賞×8回,シルバースラッガー賞×12回
【禁止薬物との関わり】
栄養補助食品売買を業としていたバルコ(BALCO)が提供した筋肉増強剤(アナボリック・ステロイド)を使用したとされている。(通称バルコ・スキャンダル)
ボンズ自身,提供された薬物の使用は認めていたものの,それが筋肉増強剤だとは認知していなかったと述べた。
多くの証言からも禁止薬物を使用していたことは濃厚だが,ステロイドの陽性反応検出や出場停止処分などは受けたことはない。(ただし,アンフェタミン(興奮剤)の陽性反応検出を2007年に受けている。)
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/63536557/picture_pc_91c2c86cba432f7570a35a27acc12ba3.jpg?width=1200)
【ロジャー・クレメンス】
709登板 4916.2投球回 354勝 184敗 防御率3.12 4672奪三振 被打率.229 FIP3.09 rWAR139.2
【受賞歴】
アメリカンリーグMVP×1回,サイヤング賞×7回,最優秀防御率7回(内,投手三冠3回),オールスター×11回
【禁止薬物との関わり】
元アメリカ合衆国上院議員のジョージ・J・ミッチェルがMLBからの勅令で禁止薬物の使用者の調査をまとめた報告書「ミッチェル・レポート」(2007年12月)において複数のアナボリックステロイドなどの投与を受けていたとされている。報告書にはクレメンスのトレーナーであったブライアン・マクナミーの証言で使用経緯が明確に記載されている。
ただし,クレメンス自身は使用を否定しており,薬物検査での陽性及び出場停止は一度もない。
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/63536628/picture_pc_9cd97930be7da4d88b7b8c9e0178c854.jpg?width=1200)
【サミー・ソーサ】
2354試合 打率.273(8813-2408)609HR 1667打点 234盗塁 929四球 出塁率.344 OPS.878 124wRC+ rWAR58.6
【受賞歴】
ナショナルリーグMVP×1回,本塁打王×2回,オールスター×7回,シルバースラッガー賞×6回
【禁止薬物との関わり】
禁止薬物を使用していると思われる一部の選手名を綴ったホセ・カンセコ著「禁断の肉体改造」が発端となり,2005年3月に下院公聴会へ召喚されるも禁止薬物使用を否定。
しかし2009年にニューヨーク・タイムズ紙公開の「2003年に陽性診断を受けた選手リスト」に名前が挙がっている。
![画像6](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/63536682/picture_pc_f258070919111490c315fde761005821.jpg?width=1200)
何度も言うが,スタッツのみで言えば既に殿堂入りを果たした選手らよりもインパクトを残している3名は,いずれも上に挙げたような禁止薬物との関わりによって75%の壁を越えることができておらず,このまま来年度も殿堂入りできない場合はBBWAAを介してのアメリカ野球殿堂入りのチャンスが潰えることとなる。
では2022年度の投票はそのとおりに事が進むのだろうか。ここが「2022年問題」のミソであり,本題でもある。
BBWAAの投票システムは「引退後5年経過した選手」というのが一つの条件であり,来年度には2016年に引退した選手が資格を得ることとなる。
この年にユニフォームを脱いだ選手といえば,通算409HRのマーク・テシェイラや2455安打&470盗塁のジミー・ロリンズなどが名を連ねるが,やはり二大巨頭はアレックス・ロドリゲスとデビッド・オルティスであろう。両名ともにスタッツが突出しているものの,先述の3名同様に禁止薬物との関わりがあるとされている。振り返ってみよう。
【アレックス・ロドリゲス】
2784試合 打率.295(10566-3115)696HR 2086打点 329盗塁 1338四球 出塁率.380 OPS.930 141wRC+ rWAR117.5
【受賞歴】
アメリカンリーグMVP×3回,首位打者×1回,本塁打王×5回,オールスター×14回,ゴールドグラブ賞×2回,シルバースラッガー賞×10回
【禁止薬物との関わり】
ソーサ同様に「2003年に陽性診断を受けた選手リスト」に名前が挙がっており,当時禁止薬物を使用していたことを認めて謝罪。
しかしバイオジェネシス・クリニックからヒト成長ホルモン(HGH)を購入していたことが2013年に明らかになると1年間の試合出場停止処分を受ける。(バイオジェネシス・スキャンダル)
MLBの調査へマフィアなどを使って妨害工作を行ったともされており,非常に悪質であった。
![画像7](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/63536817/picture_pc_95f59bc547eb1228c533a50cd704b73e.jpg?width=1200)
【デビッド・オルティス】
2408試合 打率.286(8640-2472)541HR 1768打点 1319四球 出塁率.380 OPS.931 140wRC+ rWAR55.3
【受賞歴】
本塁打王×1回,オールスター×10回,シルバースラッガー賞×7回
【禁止薬物との関わり】
ソーサ,A-ROD同様に2009年の「2003年に陽性診断を受けた選手リスト」に名前が挙がっているが本人は全面否定。もちろん出場停止処分なども受けたことはない。
![画像8](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/63536840/picture_pc_6c728584d78024ac5d10e9855193cb85.jpg?width=1200)
まず,スポーツ史に残る大スキャンダルに関わったA-RODと,今ほど検査精度に信頼性の低い検査で1度しか陽性反応が検出されなかったオルティスでは,禁止薬物との関わりの「度合い」が大きく異なる点だけ断っておく。
あえて「度合い」という極めて抽象的な単語を使わせてもらったが,この「記者投票」という特異なシステムにおいては何ら支障はないだろう。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/63508107/picture_pc_51b44f84964c0ee5f5eb7b6d91b727ce.png?width=1200)
私の考える5名の「度合い」は上記のとおりだ。抽象的・感覚的事項にはこういう図が一番落とし込みやすい。
「本人が使用を認めている」&「出場停止処分」&「再犯」という観点から見てもA-RODは限りなく100%に近い黒だろう。
また,筋肉増強剤の陽性反応検出はされていないものの,数々の証言や証拠に基けばボンズとクレメンスは黒に近いグレーと言えよう。
読者と見解が最も割れるのはソーサとオルティスを同じ度合いとしている点だろうか。ソーサはステロイド時代を象徴する暗い影を持つ選手とされており,対称にオルティスは2000年代でレッドソックスを3度の世界一に導いた人気者のイメージで博しているからだ。
しかし2人は件の「2003年に陽性診断を受けた選手リスト」にて名前の挙がった選手であり,それ以外の薬物検査で陽性反応が検出されたことがないという共通点を踏まえれば,同等に扱うのが妥当なのではないか。(あくまで私の見解です)
それを踏まえても,「オルティスとソーサの位置はもっと白寄り(左寄り)なのでは?」という意見もあるだろう。これにも私が何度も主張している理由がある。
現在の検査に比べ,精度や信頼性が低いとされている「2003年の検査」が詰まるところの争点であるが,この検査で陽性反応が検出されたA-RODやマニー・ラミレスはその後に実際に禁止薬物を使っていたとされていることからも,ある程度の信憑性があることは確かなのだ。
そして,信憑性が担保されていたと仮定すると,同じ検査で陽性となったオルティス&ソーサも黒であった可能性は捨てきれないと考え,結果的に中間の度合いに置くこととしたのだ。
そして,これから語ることは今挙げた前提を踏まえないと先に進めないためご理解いただきたい。
◇ ◇ ◇
![画像9](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/66342898/picture_pc_a005a65874aebfb6fbc25ed793c5ed85.png?width=1200)
あなたがBBWAAに所属する野球記者だとする。手元には2022年度アメリカ野球殿堂の投票用紙があり,今年は誰をクーパーズタウンに送るか頭を抱えている。用紙には
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□ バリー・ボンズ
□ ロジャー・クレメンス
□ サミー・ソーサ
□ アレックス・ロドリゲス
□ デビッド・オルティス
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といったビッグネームが列挙している。
ここであなたは誰に票を投じるだろうか。
先ほどの前提を踏まえると想定される投票パターンは絞られる。
①禁止薬物によって出場停止処分を受けた選手には投票しない
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☑ バリー・ボンズ
☑ ロジャー・クレメンス
☑ サミー・ソーサ
× アレックス・ロドリゲス
☑ デビッド・オルティス
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これは一見単純に見えて,なかなか複雑なパターンである。そもそも出場停止処分は禁止薬物における規制が開始された2005年以降の検査において陽性反応が検出された「100%黒」の選手にのみ課されるものであり,2003年の検査で陽性だった選手(ソーサ&オルティス)や,陽性の検出はなくとも多くの証言や証拠がある選手(ボンズ&クレメンス)には出場停止処分は課されてこなかった。
また,A-RODの場合は陽性による試合出場停止処分ではないものの,隠蔽工作などによる推定有罪から1年間の処分を受けている。
記者達にとってはこの判断が最も気楽といえる。なぜなら投票の理由を「MLBが出場停止処分を行ったか選手か否か」に責任を委ねることができるため,個人の思想を極力省いた結果を生むことができるからだ。
②禁止薬物の嫌疑が少しでもあった選手には投票しない
ーーーーーーーーーーーー
× バリー・ボンズ
× ロジャー・クレメンス
× サミー・ソーサ
× アレックス・ロドリゲス
× デビッド・オルティス
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単純なのはこれだろう。2005年以前の検査であっても陽性反応が検出された場合には投票しない。また陽性反応が検出されていない選手であっても,バルコ・スキャンダルやミッチェル・レポートにて名前の挙がった選手には投票しない。
これは記者個人の思想であっても一番筋が通っているものであり,野球ファンからの理解も得られやすいだろう。
懸念点は「勇気」のただ1点だろうか。あなたが記者だとしたらボンズやクレメンス,ソーサを失格させる勇気があるだろうか。「ここに来て感情論か!」と言われても仕方ないが,記者も人間。最終年となる来年に手のひらを返す記者が続出するのではと内心楽しみにしている。
③禁止薬物の嫌疑に関わらず,実績のみで投票する
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☑ バリー・ボンズ
☑ ロジャー・クレメンス
☑ サミー・ソーサ
☑ アレックス・ロドリゲス
☑ デビッド・オルティス
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これも単純ではあるが,なかなかに思い切ったやり方だろう。①②との最大の違いはアレックス・ロドリゲスへ投票を行うことだ。「度合い」でも一番右に置いたが,私にとって彼は最も黒に近いという認識だ。この投票を行うからには「禁止薬物がパフォーマンスへ影響を与えなかった」または「禁止薬物を使用しても殿堂入りには何も問題無い」という主張を伴わなくてはいけないだろう。
アンチ・ドーピングを貫くMLBの姿勢とは全く相容れない主張をする別の「勇気」が必要だ。
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以上の3通りが主な予想であるが,争点は他にもある。
実績のみで投票するならソーサには入れないという人もいるかもしれない。個人的には3度の優勝という実績を除けばオルティスと同等の成績であったと認識しており,十分に投票に値する選手と感じている。オルティスに投票し,ソーサに投票しないのであれば私としてはやや疑問が残る。オルティスとソーサにいずれも投票しないのであればそれは納得だ。(実際にはソーサの得票率が低く推移しており,殿堂入りは厳しい予想)
ソーサはナリーグでキャリアを過ごしたために守備機会を得ていたが,オルティスは指名打者として鳴らしたアリーグの打者。オルティスよりWARを10以上も積み上げたエドガー・マルティネスが最終年まで75%を得られなかったことを考えると,実績のみでの殿堂入りも難しいのかもしれない。
また,③においてボンズ,クレメンス,A-RODに投票する前提で事を進めたが,これに異を唱える野球ファンはいるだろうか。実績のみを勘案して,彼らを超える実績を残した選手が野球史に何人いたのか?という話になってしまう。私にとって,この3名はそれほどまでに比類無き実績を残した選手という認識だ。
一番やってほしくはない投票パターンとしては
ーーーーーーーーーーーー
☑ バリー・ボンズ
☑ ロジャー・クレメンス
☑ サミー・ソーサ
□ アレックス・ロドリゲス
□ デビッド・オルティス
ーーーーーーーーーーーー
という整合性に著しく欠く投票だろうか。失格目前の選手を突き落とす度胸もなく,はたまたA-RODとオルティスには一考の余地ありと日和見する様である。こんな記者がいたら私は信用したくありませんが。
【2021/11追記:「整合性に著しく欠く投票」と断定していましたが,先述のパターン①で『A-RODに入れない』かつ『スタッツによってオルティスに入れない』という判断をすれば,このパターンも全然ありえる話でしたね。むしろ理想に近いのかも,,,。かっこつけて能書きを垂れた時に限ってボロが出るものです】
(以下,本note投稿後に作成した補足です。)
最後に
さて来年度投票を行う記者は誰にクーパーズタウンへの切符を渡すのでしょうか。「2022年問題」と大見得を切りましたが,私にとってはそのくらい興味のあるイベントです。自分の予想としてはボンズ&クレメンスがギリギリ殿堂入り。ソーサは余裕で失格。オルティスは得票率60%,A-RODは30%程度と踏んでいます。ぶっちゃけボンズ&クレメンスが失格しても驚きません。答え合わせは来年に。皆さんの予想も教えてください
☆今回のネタは以下2つのNoteでも取り上げていました。内容はやや被りますが是非ご覧下さい。