【MLB】混沌、「大谷翔平あと払い」の激震!
日本時間12月10日の早朝にFAの大谷翔平が、ロサンゼルス・ドジャースと10年総額700MMというスポーツ史上最高額での契約を果たしたことは周知の事実でしたが、同時に関心を集めていたのがその給与支払方法。詳細は不明でしたが、給与の大部分を契約期間終了後に支払うというものでありました。
これによって大谷のAAVが70MMを大きく下回るのとの見解がされていました。ここの理論と方法については後ほど修正UPするであろうKZillaさんの記事を参考にしてください。後払い期間の総額を現代価値で勘案して除する形です。
そして今朝、その詳細な後払いの内訳が公表されたわけですが、あまりにも衝撃的な内容でありました。
なんと、契約総額700MMのうち、契約期間中の10年で得るのはたったの20MM(年2MM)のみであり、残りの680MMが2034年から2043年の10年間で支払われるとのこと。また、本来後払いにおいては現在価値との埋め合わせを目的とした利子もかけないことが判明しており、最終的にドジャースにかかるAAVはわずか46MMという額に留まったのです。
さらに、全米屈指の重税州であるカルフォルニアにおいても、後払い期間に日本にいれば大幅な節税も見込めるとされており、あまりにもドジャースと大谷にとってパーフェクトな内容になっているなと感じました。
ただ、この一連の流れを「ドジャースのナイスムーブ!」「大谷の配慮によってチーム負担が減った」「ルールを熟知した契約」といった評価をするファンはあまりおらず、相当数の疑念の声が挙がっているのも事実です。
簡単に要約すると
・戦力均衡を目的とするはずの贅沢税が、大幅なAAV引き下げによって意味を成さなくなるのでは
というものでしょうか。
これには私も同意するところであり、例えば今回ディスカウントとなったAAV24MMはスター選手のサラリーを大部分補填するには十分すぎるものであり、今なお山本由伸のトップランナーとしてドジャースの名前が挙がっているのは無関係でないと言えます。一体全体、この贅沢税という制度、後払いという「抜け道」はどのようになるのでしょうか。
そもそも贅沢税の目的とは
せっかくなので贅沢税(Luxuary Tax)の成り立ちをおさらいしていきます。1976年にスポーツ史上初となる「フリーエージェント制度」がMLBにもたらされたことによって選手の自由移籍が巻き起こり、FA戦線を札束でぶん殴ったNYYのWS連覇や、選手年俸の高騰、球団間での収入格差といった事象が顕著になっていきます。
ここに不平不満を並べたのが件のスモールマーケット球団のオーナーであり、1990年の労使交渉においては球団のサラリー上限を定める「サラリーキャップ制度」の導入が検討されるほどの事態に。これについては選手年俸の抑制に繋がることで選手会の猛反発を招いたことや、ロックアウトの長期化を危惧した当時コミッショナーのFay Vincentによって仲介が成されたことによって一度は白紙に。
しかし1994年の労使交渉にて、再びオーナー側からサラリーキャップ制度の導入が目論まれたことによって「1994-95年ストライキ」に突入。MLB史において僅か2回しかないワールドシリーズ中止という最悪の影響をもたらしました。
ここでストライキ解決を目的として提案されたのが「贅沢税(Luxuary Tax)」という制度になります。当時ロッキーズのオーナーであったJerry McMorrisが矢面に立って選手会との基盤設計に奔走します。この労使交渉において贅沢税導入は実現しなかったものの、1997年には以下の内容で合意。今なお続く贅沢税制度が実現しました。
これは現行の贅沢税制度にもいえますが、巧みなシステムによって、単なる戦力均衡のみならず、収益分配の側面を有していることもスモールマーケット球団にとって納得感のあるものに。
(この辺のおおまかな流れに興味がある方は、是非下記noteを読んでくだされば幸いです。)
ただ、みんなが万々歳な制度かというと、それは間違いかもしれません。実際、贅沢税が導入されて以降に連覇を果たしたチームは1998-2000年のヤンキース以降では一度もなく、強大な戦力を一部のチームが保持することは年々難しくなっています。
更に現行の贅沢税制度は当初プランよりもどんどん複雑化してきており、贅沢税のしきい値を超えた場合のペナルティも見過ごせないレベルに変貌。(以下、とてもわかりやすいので是非)
私の応援しているニューヨーク・ヤンキースも贅沢税のしきい値をどこまで超えるかが毎年オフの争点になるほど、チームの補強戦略に影響を与えているといえます。
なぜ「大谷後払い」は批判されているのか
上記の内容を改めて踏まえると、
・贅沢税は戦力均衡を目的としている(FAスターの乱獲を難しくするストッパー的役割)
・特に大規模球団は贅沢税のペナルティに四苦八苦している
といった前提がありますよね。
そんな中で飛び込んできたのは大谷と代理人Nez Baleloによる大幅な後払い作戦。繰り返しになりますが、これによってドジャースにおける贅沢税計算上の年俸は46MMとなり、実際の10年700MMという数字との乖離が大きいものになっています。
ここで大谷(&Joe Kelly)契約前後のドジャースペイロールを振り返ってみましょう。
そもそも大谷契約以前にぴったりしきい値まで70MM程度の余暇があったことに驚いていますが、(2)と(3)の差異も恐ろしいものです。
たとえばドジャースが山本由伸を8年総額240MM(AAV30MM)で獲得すると仮定しましょう。すると(A)と(B)の贅沢税支払総額でどれほどまでに差が生まれるのでしょうか。
AAV総額は大谷の70MM-46MM=24MM分の差異が生まれるだけになりましたが、贅沢税総額については13.8MMもの差が生じた結果に。「年間13.8MMってそこまで大きな数字じゃないのでは」との疑問があるかと思いますが、ここもドジャースにとっては絶妙なラインといえます。
実は贅沢税の第一課税ラインである237MMを40MM超過、つまりAAV総額が277MMを超過した場合には次年度のドラフト1巡指名権が10位降格となるペナルティがあり、もしパターン(A)となればAAV277MMギリギリとなるため、ドジャースの補強戦略の足枷となることは間違いありませんでした。
しかし、今回の試算どおりであれば山本獲得後にも大幅な余裕があり、例えばその後にMax Muncyなどのサラリーダンプを講じれば贅沢税の第一課税ラインすら下回る計算に。
長くなりましたが、先ほどの
・戦力均衡という大義
・贅沢税のペナルティ
といった、他のライバル球団が苦しんでいる点をまるっと一掃してしまう可能性を秘めているのがこの大谷後払いというビッグバンなのです。
では、大谷は批判されるべき?
様々な報道によれば、そもそもこの後払いについては大谷サイドからドジャースへ提案されたとの見立てが強いです。ドジャースの中長期的な補強戦略になるべく影響を与えないようにしたのでしょうかね。
もちろん、上記のドジャースにもたらされたメリットがあるからこと、特に他球団のファンからしてみればたまったもんじゃないでしょう。オフに大谷と山本を両獲りしてなお、贅沢税を支払わない可能性だって生じているのですから。贔屓球団の優勝が遠のくパーセンテージが幾何かアップしたわけですよ。
ただ前提として、この後払い自体は現行CBA上では規制されておらず、MLB機構や選手会が待ったをかけなかったのも事実なのです。
例えばLindsey Adler記者のツイートでは以下の見解が示されています。
雑多に要約すると、「2021年オフのCBA交渉でも後払いに関して規制をかけるかが検討されていたけど、選手会側が今回みたいなケースも見越した上で規制をかけなかった」とのこと。
確かに、選手会としては以下のメリットがあるように思います。
「じゃあMLBがストップをかけなきゃいけないのでは」という意見もあります。例えば昨オフにフリーエージェントとなったAaron Judgeでしたが、パドレスが14年総額400MM規模の契約を提示していたことが明らかとなりましたが、これにJudgeがサインしていた場合、MLBがAAVを恣意的に引き下げるものとして許可しなかったと言われています。確かにルールを遵守しているとはいえ、この点の整合性を説明してもいいのかなとは思います。(ソース)
また、実際に山本由伸のような大型契約が再びドジャースにもたらされるのであれば、やはり戦力均衡は成り立たず、現行制度をある程度規制することは理に叶っているでしょうか。この点で提案者としての大谷およびNez Baleloが批判される、ということはある程度起こりえるのかなと思いました。もちろん大谷自身もドジャースが強大なパワーを持ち続けることを自認した上での提案だと思いますし、ここを覆すことは、2010年にLeBron Jamesらが徒党を組んでBIG3を結成したことを「批判するなよ!」と言われるくらいの無理筋です。
ただ、こんなことは当たり前ですが、批判と誹謗中傷は別物と思います。「大谷がMLBのバランスを偏らせている」という批判は起こりえますが、それに対して暴言を吐くのは同意できません。ドジャースや大谷が気に入らないことの感情が混じっている気がします。
そんなこんなで、2024年シーズンはStantonにちゃんと年俸をはらっているニューヨーク・ヤンキースを応援してはいかがでしょうか。