【MLB】バイオジェネシス・スキャンダルから10年【Short】
2013年シーズンといえば,いまやアメリカン・リーグ最強球団に君臨しているヒューストン・アストロズがリーグ再編によって初めてアメリカン・リーグでプレーした年。それまでナショナル・リーグ中地区に配属されていたため,ALWは4球団,NLCが6球団という歪な編成となっていました。この出来事について当時コミッショナーのBud Seligは「歴史的」と評価。
しかし,この年のSeligは”そんなこと”よりも対処にあたるべき重大事案がありました。
2013年1月29日,マイアミ・ニュータイムズ紙が「A Miami Clinic Supplies Drugs to Sports' Biggest Names(マイアミのクリニックがスポーツ界の大物選手に禁止薬物を提供)」という見出しの大告発を行います。(参照)
その後の調査でも新たにMLB選手のPED購入が明るみとなり,最終的には14名の選手が出場停止処分を受けることとなりました。
Anthony Boschという無免許医が営むマイアミのアンチエイジング専門,バイオジェネシス・クリニックでは数年に渡ってヒト成長ホルモン(hGH)の供与を行っていたとされており,調査によればプロアスリート以外にも地元の高校生・大学生へドーピング剤を処方していたことも明らかになっています。
告発のきっかけとなったのはクリニックの経営悪化。無給状態となっていた従業員の1人,”Porter Fischer”という男が顧客リストをマスコミに流したことでメジャーリーグ,ひいては全米に衝撃を与える結果となりました。
記事にもあるように,このPED事件で特筆すべきは「中南米&マイアミにコネクションを持つ選手」が多数関わっていたということ。ドミニカ共和国出身のA-ROD,Melky,Colon,Cruzらに加えてマイアミ大学の英雄Ryan Braun,処分は受けませんでしたがマイアミ出身のDanny Valenciaらの名もありました。
特に中南米とドーピング剤の関係は今日においても取り沙汰されており,昨年3月11日にESPNが投稿した「'Something needs to be done': Why an MLB international draft is such a big deal(何とかしなければいけない:国際ドラフト導入が重要な理由)」という記事は非常にショッキングなものでした。
2010年代前半,国際フリーエージェントにボーナスプールを導入したものの,こういった現状は変わっていないことが読み取れます。結局,昨年のCBAで”検討課題”として7月まで審議は行われていたものの選手会・オーナー陣双方で合意に至らず。国際ドラフト実施の目処は次回CBAまで付かずに,現行の国際FAが継続される見込みです。個人的にはFernando Tatis Jr.のような中南米出身のスーパースターが禁止薬物使用によって処分を受けることとなった今,予断は許されないと思っています。(子どもたちのPED使用に留まらず,仲介人が大きなマージンを得ているといった内容等にも触れてあります。必見です。)
バイオジェネシス・スキャンダルにおいて,主役となったのはやはりA-RODであり,2014年シーズンの全試合を出場停止となったことは通算700HRへ僅かに及ばなかった要因にもなっています。
そしてこのA-RODの影に隠れがちですが,事件の2年前にMVPを獲得したRyan Braunの存在は衝撃ですよね。実はBraunはスキャンダル発覚前から議論を引き起こしていました。
2005年ドラフトでBraunは大学最高の選手として全体5位指名を受けると,2年後の2007年にはMLBデビュー。ルーキーから3年連続での30HR,そしてキャリア2度の3割-30HR-30盗塁達成は投高打低を迎えつつあった球界に活気を与えるものでした。
しかしMVPを受賞した2011年10月,Braunは禁止薬物検査でテストステロン値の陽性となっていたことが判明。通常であれば当時の規定に則り50試合の出場停止処分が科せられるはずでしたが,ここでトラブルが起きます。
当時,Braunの尿検体を採取したDino Laurenzi Jr.氏が研究所に尿検体を送る際,ナイター後であったこともあり時間も遅く,配送会社FedExの営業時間を過ぎていたため,自宅の冷蔵庫で1日保管。これに対してBraun側が「Laurenzi Jr.氏が検体を不適切に取り扱った」として検査結果が無効であることを上訴。翌2012年2月にこの訴えが認められてしまい,Braunは全く処分を受けることなくシーズンを迎えることとなりました。
そしてあろうことかBraunはLaurenzi Jr.氏を「反ユダヤ主義のカブスファンであり,尿検体を改ざんした」と糾弾するに至りました。
のちにDino Laurenzi Jr.氏が語っているように,尿検体は「2本採取され,密閉保管される」「そもそも改ざん防止シールが貼ってある」とのことで,保管方法の一点によって陽性そのものが覆されるべきだったかは今でも疑問が尽きません。
結局,この1年後にはスキャンダルが発覚し,Braunの名前がバイオジェネシス・クリニックの顧客リストに載っていたことも判明。かくして,Braunによる最悪の嘘が暴かれたのです。
この一連の騒動で怒り心頭であったのはMatt Kemp。BraunがMVPを受賞した2011年,Kempは本塁打・打点で2冠王を獲得したものの投票で2位に終わっていました。その後BraunのPED使用が発覚したこともあって,Kempは「盗まれたMVP」と主張しました。
そして2021年限りでBraunは現役引退。ブリュワーズ一筋でキャリアを貫いた一方,通算350本塁打-200盗塁という希有な才能がアスタリスクで括られてしまうのはなんとも寂しく感じます。
そしてNelson Cruzも名前のあった1人。スキャンダル時点でも32歳とベテランに差し掛かっていましたが,43歳となる2023年シーズンもパドレスと契約。未だに現役生活が続くことは賞賛に値します。一方で,このスキャンダルで処分を受けたA-ROD,Colon,そしてCruzが40歳になってもなおMLBの舞台に立ち続けていられるのは何故なのかという疑問も尽きないばかりです。
最後に
「スクリューボール」を見返そうと思っていたらもうNetFlixでは観れないようです。真面目にみとけば良かったと反省・・。偉そうにまとめたものの,当時を全く知らないので誤りがあればコメントください。
本スキャンダルに関しては前回の記事でも触れているので是非ご覧ください。