【NYY】ドジャースのロスター整理をアシスト
日本時間12月12日深夜、ドジャースとのトレードが発表されました。前日の段階で2チームによるDealが成立するとの報道があり、ようやくパッケージが公表されました。
ドジャースとしては先の大谷翔平・Joe Kelly獲得によって、すでに満員であった40人ロスターを2人分整理する必要がありました。その為に、ヤンキース側が放出するアセットは40人ロスター外のプロスペクトになることは確実でありましたが、その交替要員となったのは2021年ドラフト1巡目にて獲得したTrey Sweeneyでありました。今回のnoteではトレードを簡潔に振り返っていきます。
(1)枯渇した左腕リリーバーを確保
上記にて大体のアセットは予想がついていたと記載しましたが、対価としてある程度バリューを有するリリーバーを獲得することについても大方の予想どおりでありました。
まず本トレードの大前提としてはドジャースが大谷&KellyとのDealを成立するために、40manロスターの削減が絶対に必要なプロセスであったということ。この時点で他の29球団が必死になる必要が無くなりますので当然セルハイにはならず、野手が渋滞しているヤンキースが名乗りを挙げたことでバリューブルな投手獲得という読みができます。なおかつ、LADも先発投手の確保に余裕がない中でしたので中継ぎ投手で間違いないという結論に至りました。(だからこそVivasの使い所云々が…これは後ほど)
その中でヤンキースが獲得したのがVictor Gonzalezであり、2年近くブルペンを支えたWandy Peraltaの穴を埋める人選としてはパーフェクトであったように思います。
Gonzalezといえば短縮シーズンの2020年にデビューを果たすと、15試合でERA1.33 WHIP0.74と大活躍し、ワールドシリーズでも4登板の大車輪の働きで優勝に貢献。
2021年はやや数字を落とし、昨年は4月に左肘を負傷したことでシーズン全休に。今季はERA4点台と傑出しているようには見えないものの、xERA3.21はリーグ上位20%程度の数字であり、まだまだアップサイドは期待できそう。
同じ左腕というだけでなく、GonzalezのプロファイルはPeralta(&2021後半に在籍したJoely Rodriguez)に似通っている気もします。90mph中盤のシンカーでウィークコンタクトを引き出し、スライダーとチェンジアップによって空振りを奪う投球スタイルはまさにPeralta。これでLADがPeralta獲得したらちょっと面白いですよね。
どの球種も優れたxwOBAが立ち並びますが、私が特に興味を持ったのがGonzalezのスライダーです。今流行のスイーパーとは異なる一方、通常のスライダーから見てもユニークなもの。
Baseball Savantによれば今季投じたスライダーのActive Spinは僅か8%に留まっており、この数字を見たときに「やたら低いな」と感じて調べたところ、やはり今季スライダーを50球以上投じた517名の全投手中、最もActive Spinの低いスライダーに位置していました。
Active Spinとは「ボールの回転数に占めるTrue Spin」の割合であり、基本的にTrue Spin(サイドスピンやトップスピン)の割合が高いスライダーは大きく曲がるのが特徴です。GonzalezのようにActive Spinの低いスライダーはTrue Spinの割合が小さいため、マグヌス効果による揚力を受けづらいジャイロ回転気味のボールとなっており、空気抵抗も小さいとされています。
言葉で説明するだけだと分かりにくいため、当方にて雑多に作成した回転のシミュレーションを見てみます。ここではActive Spin 62%のスライダーを投じる左投手のChris Saleを比較対象にします。(これが正しいかも分からないけど…)
これがどういう状態かというと、このモデルを真上から見た場合、ボールに対して時計回りのサイドスピンがかかっており、Saleのような横滑りするスライダー特有の変化を作り出します。
一方、Active Spinの極めて低いGonzalezのスライダーはサイドスピンはあまりかかっておらず、ドリルのようなジャイロ回転が目につきますよね。
先ほど記載したとおり、本来ボールに変化をもたらすTrue Spinの要素が全選手中最低値となっているのがGonzalezのスライダーでありますが、xBA.221 xwOBA.261といった数値から見てもちゃんとした効力を発揮していることがわかります。
これは何故かについては推測になりますが、主に2つ挙げたいと思います。
1つ目はスライダーの球速で、平均86.1mphは100球以上投じた左投手の中では上位25%に位置する速度となっています。ここで球速を支える一助となっているのがスライダーのジャイロ回転。通常、サイドスピンがある程度かかっているスライダーは縫い目などの空気抵抗を受けて減速しますが、Gonzalezのようなジャイロ回転であればActive Spinの多い投手よりも高速に打者の手元へ進むことが可能と思われます。
2つ目はサイドスピン成分の追加。ジャイロ回転はTrue Spinの影響を受けにくいため、基本的には揚力の影響を受けずに重力に従って落ちていきます。ただ、Gonzalezが当初リリースしたような先ほどのGif画像の回転で進み続けるわけではなく、重力によってボールが下向きにドロップする過程で、投手側から見た回転軸が上向きとなり、下図のようにサイドスピンがかかりはじめると思われます。
すると、打者から見た場合には以下の様に変化していくのではないでしょうか。
以上は私の推測ベースに留めて頂ければ幸いですが、基本的に回転数やActive Spin、回転軸といった要素は「これが優れている」「これが正しい」というよりも、いかに他の選手から外れ値であるかが重要だなと改めて思いました。
かなり脱線してしまいましたが、こういったユニークスライダーを武器にするGonzalezを獲得できたことは、ブルペン全体のピッチングレパートリーの面でもGoodかと。NYYにはもう1人ユニークスライダーを投じるIan Hamiltonもおり、このDuoは少し楽しみですね。
来季は調停1年目であり、年俸は約1MM程度に収まる予定。2026年までの3年間は彼を計算できるのは大きいなと感じます。現クローザーのClay Holmesが来季FAとなる中で、EffrossやHamiltonといった保有年数の長い中継ぎを安価に保有することはチームの財政面的にもいいことだと思います。かつてのChapmanやBrittonといった投手に20M近いお金を支払う力は残っていないので。
(2)内野有望株の役割を見いだせるか
Gonzalezとともに加入したのは内野手のJorbit Vivas 22歳であり、Everson Pereiraと同じベネズエラ出身の2017年IntFA組。契約当時はPereiraの方が格上のプロスペクトでありましたが、ティーンエイジャーながら非凡なアプローチを残し続け、現在では走攻守バランスのとれた有望株としてLAD10位につけていました。
ただ、こちらもPereira同様に2021年にロスター入りを果たしており、すでに残りのマイナーオプションは1つという状況で、ドジャースとしてもVargasやBuschといった同ポジションのプロスペクトを抱える中では優先順位の低い若手であったのかもしれません。
私個人としては、MiLB全体でも稀有なアプローチの良さに加えて、年10-20HRも狙えるGame Powerといった点は非常に魅力に映りますし、是非MLBでも見たいところ。
ですが、ことNYYにおいて必要な選手なのかは多いに疑問符が付くところであり、Torres・LeMahieu・Volpe・Peraza・Cabreraといった2B/3Bが渋滞している中で来季FAとなるのはTorresのみ。そもそもPerazaの出場機会すら危ぶまれている中で、Vivasのチャンスが多いようには思えません。
ただ、2通りの予測を立ててみました。
パターン①としてはオプション切れのPerazaを放出し、バックアップ内野手としてVivasを起用する方法。まだValueのあるPerazaを中心としたパッケージで先発投手の確保に動き、オプションのあるVivasには再来年以降にMLBで戦力となってもらう案です。これは今季VolpeがGG賞に輝く予想外の適応もあって、「守備力の高いPerazaをSSに置くプランではなく、このままVolpeをSS起用して良いのでは」という基板があります。VivasはBB/Kなどのアプローチ面でPerazaより優れており、NYY視点のフィットからすればかなり有りなのではと思っています。2B守備についても今季2AでRDA+3.0を残しており、一定の水準はクリアできているように思います。
そしてパターン②はPerazaは保有し続け、このオフにVivasを放出するプラン。概略は上記と同じく先発投手の確保のため。Volpeの守備負担面でPerazaのバックアップはある程度の効力を見いだせますし、変化を嫌い続けたNYY首脳陣が好みそうな案ですよね。
いずれにせよ、今オフに両選手どちらかが放出される可能性は結構高いんじゃないかと思っています。それこそEstevan Florialと抱き合わせなんてことも。(おふざけじゃなくフロちゃんの名前を使える日が来るとはおもわなんだ)僕はパターン①のほうが好きです。
(3)すべてこなせる男?Trey Sweeney!
放出したプロスペクトを誉めるのも癪ですが、Sweeneyほど器用なプロスペクトはNYY傘下にいないんじゃないかなと。
当社比ではK/BBに富んだアプローチ、恵まれた体格から発揮されるパワー、20-30SBできる走力、三遊間をカバーできる強力なアームとディフェンス、挙げればキリがありません。ただ、これはそれぞれが平均を上回っているよという感覚であり、実際飛び抜けたツールはアームくらいでしょうか。
カレッジ時代は投低打高のリーグでOPS1.000超えのスタッツを残していたこともあり媒体によっては評価が180°異なった有望株。当時30位指名権を有していたヤンキースがポテンシャルを買って指名に踏み切った訳ですが、一部では「最も過小評価された有望株」としてカルト的人気も得ていた記憶。
これはカレッジ時代の打球関連指標が突出していたことが大きな要因と思われますが、昨季および今季は110wRC+前後の成績に終始しており、ドラフト1位としては少し物足りないといった評価も。
逆に守備面では、指名後不安視されていた遊撃守備でも平均を上回る好成績を残しており、やはり圧巻なのはそのArm。三遊間の深いところからでも90mph後半の送球で打者を仕留めることができます。それもあり、確実視されていた三塁等への転向については成されておらず、来季のポジションは個人的に注目していたところでした。
NYYとしてはSweeneyの前後に、よりアップサイドのある遊撃手(Volpe・Peraza・Serna・Arias等)が控えていた点や、来季ルール5イリジブルとなる点での放出となりますでしょうか。
一方LADとしては、Vivasほどではないにしろアプローチに優れ、将来的なバックアップ三遊間と成り得るSweeneyを、彼と入れ替える形で獲得できた最高のトレードかと思いました。もちろんMLBで既に通用している&保有年数3年のGonzalezも付けたことでNYY有利な形もしますが、大損をこく結果にはならない気がします。
最後に
ハリーポッターに出てくるダンブルドア先生の不死鳥がいるじゃないですか。死に際に燃え尽きたかと思えば、その死灰からヒナ鳥となって甦ると。今の僕はそんな感じですよって言おうとしましたが、どう考えてもそんな格好いいものじゃないですね。燃えカスが風で飛んでいったというところでしょうか。
<以下、参考>
途中で使用した回転軸モデルのGif貼り付けアイデアの着想はNamikiさんのnoteからきています。一応私も1からモデルを作成しましたが、正確性に欠けるのが不安です。。。間違えてたらご容赦ください。
Namikiさんの下記noteは、昨今急上昇中のSweeperを理解する上でバイブル的なものかと思いますので是非!
https://note.com/baseball_namiki/n/n9fdb8fab3aa2