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【NYY】新たなる掘り出し物? Ian Hamilton【Short】

突然ですがクイズです。
みなさんはこの投手が投げたのは何という変化球だと思いますか?

Bryan Hoch御大のツイートにも正解が書かれていますが,これは”slambio(スランビオ)”というニックネームが付けられたIan Hamiltonの魔球。”Slider”とスペイン語で”変化”という意味を持つ”Cambio”という単語を混ぜた名将Booneの発案だそうな。
私は初見で「カットボールなのかな」と思っていましたが,Baseball Savantにおいてはスライダーに分類されています。

Ian Hamiltonとは

そもそもいきなりNYYで頭角を現したHamiltonって誰やねんって話なので,少しだけ触れたいと思います。
HamiltonはNCAAのPAC-12カンファレンスに所属していたワシントン州立大学出身であり,フレッシュマンのシーズンから有望な中継ぎ投手として好成績を収めます。2年次夏のケープコッドリーグでは木製バットの環境であったことは無視できませんが,先発も務めながら40.1回でERA0.89を記録。これは今やMILのエース・Corbin Burnesらを差し置いてのリーグ2位となる好成績であり,少なくともスカウト陣の目を引いたでしょうか。(ちな,1位となるERA0.21を記録していたのは後にOAKに指名されたMitchell Jordan)

NCAA3年目には不調を迎えたものの,シカゴ・ホワイトソックスから2016年のドラフトにて11巡指名を受けてプロ入り。中継ぎ一本で順調なスタートを切ります。
ドラフトされてから僅か2年で3Aに到達したHamiltonはERA1.71を記録し実力を証明。2018年8月にMLBデビューを果たすなど早熟といえるMLBキャリアが幕を開けました。

しかしここからHamiltonのキャリアに暗雲が立ちこめます。翌2019年2月に,彼が運転する自動車を巻き込む交通事故が発生し右肩を負傷。これにより開幕を故障者リストで迎えます。
夏にはマイナーで順調にリハビリを開始しますが,6月末の試合でピッチャーライナーが顔面に直撃し複数箇所を骨折。歯も折れてしまうという悲劇に見舞われます。

翌2020年にはMLB復帰を果たしましたが結果を残せずにホワイトソックスからDFA。そこから各球団を転々とし,昨年11月にガーディアンズからマイナーFAとなっています。

すでに年齢は27を数え,ヤンキースの招待生として臨んだ今季のスプリングトレーニングは,彼にとってラストチャンスとも言えたのかもしれません。ここでHamiltonは95mphの直球と先のSlambioのコンビネーションで好投を連発。終わってみれば8登板で1度の失点も許さず,中継ぎ投手に怪我人が多く出つつあったヤンキースの開幕ロスターに滑り込みました。
開幕後もモップアップがメインでありましたがイニング跨ぎも軽くこなしており,本日までで6登板(10.2回)でERA1.69 15奪三振の好成績を収めています。

Baseball Savantより引用

今のところxStatsも非常に優秀であり,唯一の課題である制球も克服できれば一気に勝ちパターンへ押し上がれる存在でしょうか。

魔球”Slambio”とは

ここまでHamiltonの投球を支えているのは怪我明けになかなか戻らなかった直球の球速が95mph程度まで復活したのも一因ですが,やはりユニークなポテンシャルを持つ”Slambio”の話は避けて通れません。

この動画が一番グリップも分かりやすいですが,変化方向としては横にBreakせず,縦にしっかりとDropしているのが伺えます。実際にデータを見ても横変化平均が2インチ程度なのに対し,縦変化平均は32インチほど動いています。一方で平均球速は88mph程度なため,一般的なスライダーよりも高速。
現在大流行しているSweeperが大きく横滑りし,縦に落ちないものだとすればSlambioはその対極にある変化球と言えるでしょうか。

とはいえ,SlambioもSweeper同様にSeam Shifted Wakeの影響を受けている球種と言われており,Baseball Savantで公開されているSpin-Based Movement(本来の回転軸から予想できる変化方向)とObserved Movement(実際に観測された変化方向)に大きな偏差(Deviation)があることが見てとれます。

Baseball Savantより引用

通常,右投手がSweeperを投じる場合には8:00-9:00に回転軸を持って行きますが,HamiltonのSlambioは12:00辺りのSpin-Basedが10:30辺りにズレて観測されています。
偏差の向きが逆回転であることから,恐らく4シーム系の握り,ただし映像を見るとチェンジアップのようなグリップにも思えます。このジャイロ回転が偏差に与えている影響も気になるところ。

数日前にこのSlambioについてFangraphsに寄稿したAlex Eisert氏は,スライダーやチェンジアップよりも,スプリッターに近似を見いだしています。

Fangraphsより引用

こういったポテンシャルを有するSlambioですが,実際のStatsも恐ろしい数字を叩き出しています。4/20までで計82球のSlambioを投じていますが,被打率.148 wOBA.166という値を記録。xBA.139 xwOBA.188 Whiff%=51.1という成績からもこれが決してフロックでないことを表しています。

基本的には低めのSlambioと高めの4SFを主体としていますが,ボール先行の場面にはSlambioを全く投じていないことから,制球が盤石でないことが伺えますが,何度も言うようにここがクリアできれば一気にセットアップへ駆け上がれる存在かと思います。

まだシーズンは始まったばかりですので,Hamiltonの行く末を気長に見守りたいと思います。

最後に

こういう分野,とても苦手なので間違いがあったら誰か教えて・・。そして私に全てを与えて・・。

<以下,参考文献>


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