![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51851036/rectangle_large_type_2_af32719be7ac9ada7338e1ff77f3a2b2.jpg?width=1200)
【ピリカ文庫】タツナミソウ【ショートショート800字】
「ねぇ、この花なんだろう?」
「うーん、わかんない。なんだろう?」
雄二にふと川沿いに群生していた紫色の花の名前を尋ねられたが、洋子は答えられなかった。
「綺麗だね。いっぱい咲いてるし、ちょっと摘んで持って帰ろうか。これ、押し花使えるっしょ?」
「えっ、うん」
洋子は周りを気にしながらも、ずっと花の名前を考えていた。最近、押し花教室に通い始めたこともあって、知らないと恥ずかしいような気がしたのだ。しかし、いくら考えてもでてくるわけがなかった。今までに見たことはあったかもしれないが、初めて意識した花だ。
あいにく2人とも、新居にスマホを置きっぱなしにしていたので調べることもできなかった。雄二はそんなことすっかり忘れて、夕飯について話している。
雄二の好物のメンチカツが食べたいとのリクエスト、2人で食卓を囲んだあと、昼間に拾ってきた花を押し花にしようかな、その前に名前調べてみようと立ち上がると、携帯の通知が鳴った。
友達の恵理からのLINEには、偶然にも昼間摘んできた花が映っていた。
"タツナミソウ"
親切にも、花の名前も書いてくれていたが、初耳だった。
雄二にも教えてあげようと、顔を上げると目の前には、花と指輪を持った彼が立っていた。
「花言葉は"命を捧げます"。遅くなってしまったけれど、結婚してくれてありがとう」
結婚してもう10年になるが、彼が、もともとタツナミソウのことを知っていたかはわからないままだ。