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【恋愛】人生で一番好きになった男に10年ぶりに再会したら、とんでもないクズになっていた話(回想編)

暑い日が続いているものの、少しずつ秋の気配を感じるこの頃。
秋になると、思い出すことがある。

それは数年前、人生で一番好きになった人に10年ぶりに再会した時のことだ。


この人を幸せにしてあげたい、と本気で思った初恋

彼、仮にここではリョウさんと呼ぼう。
リョウさんとは、私が大学生だった頃に、習い事の先生と生徒として出会った。
リョウさんは30歳手前の男性で、口元にたくわえた髭がトレードマークだった。いつも口を大きく開けて大きな声でワハハハッと豪快に笑う人。

いわゆるイケメンとは言い難い風貌。しかし、どこか色気のある人だった。

少しハスキーな声。広い肩幅。逞しい腕。タバコを美味しそうに吸う横顔。
周りの同級生にはない、未知の男らしさに溢れていた。

そして何よりも香りだ。
リョウさんと距離が近くなるたびにほんの少し、それでいて一度嗅いだら決して忘れないような特徴的でセクシーな香り。あの香水ほどいい香りを私は知らない。

若かった私にとって、リョウさんはまさに大人の男性だったのだ。

初対面のときに感じた淡い気持ちのざわつきは、週に一度、顔を合わしほぼマンツーマンで指導を受けるうちに確信に変わり、私はどんどんリョウさんに惹かれていった。

もちろん、向こうはこちらの好意に気づいていただろう。
今から思えば、思い出したくもないくらい恥ずかしいが、一生懸命コンタクトを取ろうとしていた気がする。決死の思いで連絡先を聞いたり、お茶に誘ってみたり。

その甲斐もあって、何度か飲みに行ったり、遊びに行ったり、時には夜中に長電話したりした。そのたびに向こうはつかず離れず大人の余裕で、軽くこちらのことをあしらっていたように思う。

しかし当時の私は、リョウさんの豪快な笑い声とちょっとハスキーな声が聞ければそれで十分だったのだ。

あるとき、お酒の力もあったのだろう。
リョウさんが家族のことを話してくれたことがあった。3人兄弟の末っ子で自分はお母さん子の甘えん坊だったこと。そのお母さんが、リョウさんが大学生の時にガンに侵され余命宣告を受けてまもなく亡くなってしまったこと。

関東にある実家とはお母さんが亡くなって以来疎遠となり、ほとんど一人で生きてきた。淡々と話すリョウさんの姿に、私は人生で初めて「この人に家族をつくってあげたい」という気持ちが強く湧いたことを今でも覚えている。

その後、何人かの男性とお付き合いしたがここまで強くこんなふうに感じたのは後にも先にもこの時だけ。リョウさんを超える男性は未だおらず、私にとっては正真正銘の初恋の相手だったのだと年齢を重ねるほどに確信している。

大学卒業を機に習い事はやめたが、リョウさんへの気持ちは消えず何度か遊びに行ったりした。しかし、リョウさんはいわゆる“脈なし”のような行動が多く、ついに告白する勇気は出なかった。そのうちに私の転勤などもあり、次第に会うこともなくなった。

しかし、いわゆる忘れらない恋というやつだろうか。
恋人がいる時もそうでない時も、リョウさんは常に憧れの人として私の心の片隅にあった。

リョウさんの香りの正体

リョウさんと会わなくなって数年後、ふとリョウさんのことが懐かしくなった私は、すでに廃盤になっていた思い出の香水をネットショップで探し出した。細長いシルバーのボトルに入った琥珀色の香水。

ドキドキしながら蓋を開けて香りを嗅ぐ。
ふわっと香ったその一瞬でリョウさんとの思い出が蘇り、胸が熱くなった。

今度は、恐る恐る自分で香りを纏ってみた。
やはり思い切り吸い込んで、身体中に行き渡らせたいほどいい香りだ。

しかし、何かが違った。
いい香りだが、それだけなのだ。ただの香水の匂い。

何が違うのだろう。つける場所、時間が経った時の香りの変化。
いろいろと試してみたが、リョウさんから感じた通りの香りにはならなかった。

きっと香水とタバコの匂いがリョウさんの体温でまじって、ちゃんと「リョウさんの香り」になっていたのだろう。やはりセクシーだったのは香水だけではなかったのだ。

そう思えば思うほど、私のなかでまたリョウさんに会いたいという気持ちが少しずつ大きくなり始めていた。

運命を感じずにはいられない人生のタイミング

ちょうど今から2年ほど前。婚約破棄をして傷心だった私は、一人でも人生を楽しめるんだと証明するように趣味や旅行に没頭した。もちろん、なんとか新たな運を切り開こうと、運気を上げる努力や美容、自分磨きも。

そんなとき、不意にリョウさんから連絡が来たのだ。
数年ぶりなのに、なんてことのない近況を尋ねるメール。

懐かしさと嬉しさが込み上げて、興奮して何度もメールを見返した。気のせいかもしれないと思ってメールを返信すると電話がかかってきた。

おそらく声を聞くのは10年ぶり。にも関わらず、リョウさんの声は相変わらずハスキーで笑い声もそのままだった。反してリョウさんは、私の声を聞いて「子どもの声じゃなくなってるね」と驚いていた。

やはり、20代の私はリョウさんにとって子どもだったのだ。
そう思うと同時に、もしも今会ったら、アラフォーになった私のことをどう思うだろうと心配になった。それでも、リョウさんの声が心地よくて時間が経つのも忘れて話し続けた。

夜もふけた頃、翌朝は出張で朝が早いと告げると、リョウさんは「早く言いなよ。もう寝なきゃ」と言って気遣ってくれた。いい年になってそんなふうに心配されることも少なくなってきたアラフォーにとって、どこかくすぐったくて温かいやりとり。

なんとか今度は飲みに行こうと約束を取り付けられたことで、安心して電話を切った。ベッドに入ってからも妙に冴えて興奮した頭で、婚約破棄したのはリョウさんと再会するためだったんだと妙な確信を持って眠りについた。






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