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【HONEY COMB】

 ショーパブ「HONEY COMB」バックヤード。
 事務所の長机を挟んで、派手柄ワンピースのマダム・ウィリーと、紺色一色で仏頂面の女は暫く話し込んでいた。

 二つ折りで差し出されたA3ディスプレイペーパーには、【「HONEY COMB」雇用契約書】と書かれた表紙が光っている。女は躊躇せずそれを受け取った。
 読み込む間中、くっきりと濃い目鼻立ちの美女に正面から注視され、整ってはいるが化粧っ気も無く地味な女の眉間に皺が寄った。
「何か?」
「目を弄ってるわね。凄く似てる人がいるの」
「ああその件は……ちょっと」
「今訊かないわ。いずれね」
 契約書を読み進める女は、小さく何度も頷いた。 
 先程聞いた話とほぼ同じ。
 同じ顔を装着した群舞チームの一員として結構厳しい練習がある。ショーダンサー兼店員で勤務。週休2日シフト制。チップは個人の収入。顔面換装代は2年で償却、顔面連動のメイク用アプリ使用必須。寮あり。衣装は店持ち。
 付記事項、先程から深刻な顔で話し込んだ本題。
 阿漕な仲介所が寄越してくる用心棒を、契約を切って乗り換える件。
 解決するまでは店・店主の護衛を兼務する。
 いかつい稼業が長すぎて接客業に向かないと心配した分は、兼務もあって研修期間が長めに設定してある。
 そして、賃金経費想定ぴったり。
「本件なる早で片付けます」
 目を細めてにっこりした顔を見て、ウィリーも大輪の花のような笑顔を見せた。
「その顔よ、カワイイの! 怖いお顔は預かるから、笑顔の練習してね」
「本業、愛想多めで仕事したら怖いって苦情出て」
 ケラケラ笑う美女にはにかんで見せ、長机にペーパーを広げて当該箇所に左掌を圧し当て、署名捺印がなされた。
 ウィリー・イラニ。以下住所等。
 パイリン・ユウチンナイ。以下住所等。

「雄鎮内……?」
「何か」
「ううん。早速だけど明日からよろしくね。顔屋さん呼ぶから、朝9時出勤でお願い」

【続く】

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朝昼兼
(軽い気持ちで投げ銭をお勧めします。おいしいコーヒーをありがとう)