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夏の思い出
プールで溺れたことがある。
たぶん、小学1年か2年。そう、このことがあって、母はわたしにスイミングスクールに通わせたのです。
プールで遊んでいた。そんなにしょっちゅう夏のレジャーに行く家庭ではなかったので、場所は限られてると思うけど、どこのプールか覚えていない。
わたしは浮き輪に捕まってぷかぷかしていた。誰か大人の人と一緒にいたけどその大人から離れてしまい、なにかの拍子でわたしは浮き輪から外れてしまったのです。
そこは子どもにとって足がつかない水深のところ。泳げないわたしは、プールの底にいったん沈んで、プールの床を蹴って水面に顔をあげて息を吸い、また再びプールの底に沈んでいって床を蹴って水面に顔をあげて息をして…こうして、息継ぎしていけばいつかプールサイドにたどり着くから大丈夫だと思っていた。
3、4回くらい繰り返したあたりから体が重たく感じてきて、プールの底と水面の往復の速度が徐々に遅くなっていった。苦しいというよりも、気が遠くなっていく感じ。体力の限界に近くなると、脳はもう頑張ったから休んでいいよといわんばかり体じゅうの感覚機能を止めていった。見えるのはうす明るい透明が少し濁った世界。
静かに無重力に身を委ねていると、ひとすじの長い光がはるか遠くに見えた。あれはなんだろうと疑問に思いながら、苦しくはなく、もういいんだねと聞かれたような気がして、自由を奪われ、なるがままに身を任せた。そうしたらとても楽に軽くなった気がした。
バサーンと突然大きな音がして、体中に衝撃が走った。誰かがわたしを包みこみ体は空間を破って別世界に連れられたみたいだった。やわらかいふわふわした感触の世界から一転、風と音と重みと暑さ、息苦しさを感じる世界へ。ガヤガヤ騒がしい声がすると思い、目が覚めた。知らない真っ黒に日焼けした顔の男の人がわたしに向かって真剣に呼びかけていた。溺れかけていたわたしはレスキュー隊の一人に助けてもらい、プールサイドに引き上げられていたのでした。
水は飲んでいなくて、すぐに意識が戻ったから大事には至らなかったが、わたしはそこで命拾いをしたのかもしれない。
夏の思い出、ふと、記憶が蘇りました。
ルコ