HER2陽性乳がんとHER2低発現乳がんで異なるエンハーツの位置づけ 【進行再発乳癌】
エンハーツは基本的にはHER2陽性乳癌の薬です。それはハーセプチンに抗がん剤がくっついている構造からみても明らかです。HER2低発現乳癌でも効果があったということは少しでもHER2発現を認める細胞があれば、それをターゲットにこの薬剤が到達して、周りの細胞も攻撃するバイスタンダード効果を発揮する可能性があることを示唆していると思います。
しかし、何度も言っているようにホルモン陽性乳癌はホルモン治療が最も効果的です。手を変え品を変えホルモン治療継続が効果的です。どうしても効果がなくなった場合抗癌剤を試します。経口の抗癌剤を使った場合 ホルモン剤に戻して効くことも良くあります。ホルモン剤がどうしても効かなくなった場合静注抗癌剤に移行します。
日本の場合は1次化学療法にパクリタキセル+ベバシズマブが現在、広く使用されておりエンハーツのPFS中央値13.2カ月とほぼ同じです。そのため使い分けはどうするのかというところは議論になっていきます。
エンハーツの副作用は、吐き気と倦怠感がありますし、1割の方に間質性肺炎が軽度ですが出ることには注意しなければいけないでしょう。HER2陽性の場合はエンハーツの治療成績がかなり良くインパクトが高かったですが、HER2陰性においては効果と安全性のバランスから見たときに、絶対的にエンハーツしかないという状況ではないという気もしました。あくまでTPCと比べたらエンハーツが良かったという結果であり、OSも現時点では有意差も出ていませんので、治療選択肢が一つ増えたという認識なのではないかと私は思っています。HER2陽性とHER2陰性は違うのだなということを改めてこの試験結果から感じたところです。
HER2陰性に関しては、タキサン系抗癌薬やカペシタビンが有効ですから、いくつかの選択肢の中の一つにT-DXdが加わり、その中でタキサン系抗癌薬、カペシタビンと比べて、PFSや奏効率という観点でより優れたお薬が出てきたという位置づけです。ですから、このお薬が出てきたことで、本当にOSを延ばす工夫をするかというところが今後の大事なポイントかと思います。
なお、パクリタキセル+ベバシズマブは決して新しい治療法ではないため、若い先生方はパクリタキセル+ベバシズマブの切れ味を知りません。その意味ではT-DXdが選択される可能性はありますが、間質性肺炎が出た方のその後の治療をどうするかが大事です。間質性肺炎が出たときに、パクリタキセル+ベバシズマブをはじめ、基本的にはほかの抗癌薬を使っても大丈夫なはずですが、主治医も患者さんもおそらく「また次に出たら困る」と考えて慎重になり、後の治療の強度が下がるリスクがあります。1次治療は間質性肺炎を起こさないことが一番重要な点だと思います。今後、そのリスク予測などの研究成果に期待したいと思います。
副作用等考えますとホルモン陽性HER2低発現では安易にエンハーツを使用しないことが大事です。