コンビニと俺たち
「食べたらやみつき?」
ミキオがチョコのパッケージを手に取りながら言った。
「チョコなんかでやみつきになるのかね?」
ミキオはいぶかしそうに顔をしかめた。
「やみつきって止められなくなるほど夢中になるってことだからな」
カズがボソッという。
「なんかさぁ、大げさすぎる表現ってあるよね」
タクローが横のチョコを手に取りながら言う。
「"〇〇と〇〇のハーモニー"って言うじゃん。なんか嘘臭いよね」
「あぁ、わかる。音奏でてるのか、って感じ」
ミキオが体をよじらせて笑う。
「テレビでもさ、"この後〇〇が"とか何回もやってネタバレしてる時ない?」
「あるある。なんかいざそのシーンになると、そんなに驚きがないっていうか」
タクローとミキオは商品のことなどそっちのけで会話している。
「"カリスマ"って言葉もそうだよな」
カズがボソッと言う。
「どういうこと?」
タクローが聞く。
「今、"カリスマ美容師"だの"女子高生のカリスマ"っていう表現たくさん見るだろ?カリスマがたくさんいるなぁって」
「確かに。カリスマってそうそう現れないからカリスマなのにね」
タクローが身をよじらせて笑う。
「はは、今巷じゃ街中カリスマだらけだな」
ミキオもつられて笑う。
「こういうのって気を引かせたいのか、ホントにそう思っているのか、どっちなんだろうね?」
タクローがミキオに尋ねる。
「そりゃ、自社の製品をマズイとは言わないだろうから、本心で言ってるんじゃねぇか?」
ミキオが首を捻りながら言う。
「でも、本心で言ってるんならこんな大げさな表現使わないでしょ」
「それもそうか…」
ミキオはしばらく宙を見つめた後、
「校長のあいさつみたいなことじゃねぇか?」
と唐突に言った。
「ミキオ、例えが斜め上だよ」
タクローが呆れて言った。
「要するにさ、私たちはこんな商品を作ったんでよろしくお願いします的なことなんだよ」
「なんか合ってるようで違うんだよなぁ」
「さすがに俺も違うと思うぞ」
タクローとカズの意見を聞いてないかのように、
「いや、絶対そうだ!」
とミキオは自分の意見を押し通した。
「ミキオが一番大げさじゃん」
タクローは呆れ気味にミキオを見つめた。
「おい!何が大げさなんだよ!」
ミキオはタクローに食ってかかった。
「うわ!大げさに振り回さないで!」
「うるせぇ!」
すると、店員が二人の前にやってきて、
「これ、大げさなことじゃなくて次騒いだら出入り禁止にしますよ」
と言った。
「は、はい…」
二人は静かになった。カズはパンを選んでいた。