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ジャズ雑記 〜Hank Jones〜

ジャズは調和の音楽、と私の敬愛するジャズリスナーである友人が以前何気なしに放った一言がずっと頭にある。

その通りだと思う。
様々な人種や文化の内包、自己主張・芸術と商業の均衡、その他いろんな意味で調和の音楽だ。

そんな中でもシンプルに演奏者同士の調和という点で見てみよう。
ジャズは人間同士の会話なので、いろいろな調和の取り方がある。

何もジャズでなくとも、人間が何人か集まったときのことを考えてみてほしい。
全員が和やかに同じベクトルで話をするのはもちろん、お喋りな人が話しているとき、周りが一歩引いたり、良い相槌を打ったり、より盛り上げて話を促したりするのも良い調和の形と言えるだろう。
ジャズでも演奏の中でそういったことが常に起こっていて、どのような形であれ上手く調和が取れた場合、名演と呼ばれることが多い。

ジャズではリズムセクションと言われる、ピアノ、ギター、ベース、ドラムといった楽器は伴奏をするので、必然的に調和を生み出す役割を担う割合・場合が多いと感じる。
そしてジャズジャイアントと呼ばれるレジェンドプレーヤー達は、恐ろしく相槌(コンピングなどと言う)のセンスが良いのだ。

今回はそんなレジェンド達の中でも特に、調和の権化とも言えそうなピアニスト、ハンク・ジョーンズを取り上げようと思う。

個人的にはサヴォイというレーベルにケニー・クラーク(ドラム)らと名を連ねた録音群が好みだが、ハンク・ジョーンズが参加したアルバムで最も有名なものの一つ、キャノンボール・アダレイ(アルトサックス)名義のブルーノートレーベルから出たアルバム「サムシン・エルス」を題材にしたいと思う。(ブルーノートレーベルはピアノの音がかなり独特なのでどうかと思ったが)
ちなみに私はキャノンボールのジャズというよりファンクフィールが強すぎる演奏、彼の語り口が好みではないので(恐らく人間性が好きではないのだ)、頻繁に聴くアルバムではない。それでも聴くたびに新たな発見があり、音楽的感動がある。名盤とはそういうものだ。

さて、レコードでいうA面1曲目、ジャズスタンダードとしても有名な枯葉を、ハンク・ジョーンズの伴奏を意識して聴いてみよう。
(ちなみにこの印象的なイントロはアーマッド・ジャマル(ピアノ)・トリオのアレンジの引用だと言われている)

どうだろう、完璧なタッチ・タイム・音量感・ヴォイシング(和音の積み方)、どこまでも美しくエレガントな音で、ソロをとっている奏者に最良のコンピングを提供していると感じないだろうか。

レーベルとの契約の関係でキャノンボール名義のアルバムとなっているが実質的なリーダー、マイルス・デイヴィス(トランペット)の洗練された音楽性を汲み取り、少し飛び道具的なキャノンボール、野生味溢れるサム・ジョーンズ(ベース)&アート・ブレイキー(ドラム)の調和を見事に取っていると私は感じる。
それも決して口数は少なくなく、ともすればお喋りで煩くなりそうな音使いなのだが、圧倒的なセンスと品格でそうはならず、まとめ上げている。

理想的なピアニストだ。
ピアニストはこうであってほしい。

ここで少し小言を言わせてもらおう。
今のピアニストはこういうセンスや品格に欠ける割に弾きすぎる。聴いているこっちは煩くて仕方ない。喋りたければ自分の番で喋ればいい。ピアノという楽器は音数が多くなりがちで音域も広く、かなりのセンスが求められるのを肝に銘じてほしい。それができないなら7割くらい音を減らして弾いてほしい。
更に言えば、これはピアニストだけでないが、ソロを取っている人に付いて行きすぎだ。
ポジション関係なくボールに群がる小学生サッカーや、下品なやたらデカい声でどっと盛り上がるしかないつまらない飲み会を彷彿させ辟易する。ジャズはもっと親密な大人の会話であってほしい。

さて、些か過激な思想が出過ぎてしまったのでハンク・ジョーンズの話しに戻りたいが、今回注意深く聴いていて思ったことがある。

それは、彼のプレイは結構厳格な頑固親父ではないかということだ。しかも自分は意外と遊んでいるタイプの。
前から父性のようなものは強く感じていた。優しく包み込んでくれるような父性、と思っていたが、実は自分の思い描いている道に結構強引に連れて行っているような気がしてきたのだ。あくまでエレガントで嫌味のないな語り口なのでコロっといってしまうが、かなり芯が強く曲者だなと。ここまで書いておきながら純粋に調和の人なのかわからなくなってきた。
「サムシン・エルス」を支配しているのはハンク・ジョーンズかもしれない・・・

少し恐ろしくなってきたので、今回はこの辺にしておこう。

最後に、ここに書いたものは全て、あくまで私の個人的な見解にすぎない。
是非、自分の意見をしっかり持ってハンク・ジョーンズやジャズと向き合ってみてほしい。
こんな風に自分の価値観で好き勝手に何かに向き合うって結構愉しいから。

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