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カラフルな羽根

居候先にはインコが4羽か5羽いる。
いた。

末っ子がどこかで気まぐれに買ってきて、実際面倒をみるのはおばあちゃん。
よくある話。

この鳥誰の?
僕、おばあちゃんに買ってきてあげたんだよ。
私はもらってないよ、あんたのだよ。この鳥誰の?
……僕の。

この家同様、立派な大きさの鳥かごに近づいて中を覗き込む。
あれだけお喋りをしていた鳥たちが一斉に静まる。

この鳥たちは誰かには懐いてるんですか?
誰も面倒をみないんだから懐くわけないじゃない。
私がこうして毎日少しだけ籠を日向に移動するだけよ。

そう言って大きな籠を広いダイニングの端から反対側の陽のあたる窓際にえっちらおっちら運ぶ。
ここの家族はみな圧倒的な犬派だが、おばあちゃんは犬はもちろん、野良猫も野鳥もこまめに面倒を見ている。
特別可愛がられなくても、愛想を振りまかなくとも、籠の中にさえいれば、飢えることもなく安全に暮らしていける………はずだった。

今日は珍しく「社交」の日。
家主と共に貼り付けた笑顔と立ちっぱなしの脚にぐったりしながら、互いに「社交」への不平を言いながら帰宅。

車寄せで末っ子が父に駆け寄る。
「ああでね、こうでね、ポチ(仮名)が食べちゃったの」
肝心な部分はエンジンや門の閉まる音で聞こえなかった。
それでも何か悪いことが起きた様子だけはわかる。

ポチ(仮名)は虐待をされて育ったのを引き取ったそうだ。
虐待が理由かは判らないが、抑制の効きにくい若い中型犬だ。

うんうん、と、冷静に末っ子の話を聞く家主をよそに、家の中へと向かう。
入り口で乳母がしゃがみこんで何かをしている。
鳥の羽根を拾っていた。

青、緑、黄色、ひと揃いの、とても大きな部分の太い羽根だ。
青、緑、黄色、確かにその三色がいた。
どの色が何羽いたのかは曖昧だ。

数自体、4羽だったような、5羽だったような、と、家族ですら曖昧だ。
曖昧な記憶の中で、つがいなるには数が合わないな、と思った気がするので5羽だったのかもしれない。

拾われた羽根の根元はどれも、カラフルな羽先とは対象的に赤黒く見える。
拾った羽根を手元で揃えながら乳母が立ち上がる。
「悲しい。救えたのは1羽だけ。」
彼女は以前、動物シェルターでも働いていたと聞いた。
二ヶ月前も、凧糸に絡まって傷ついた野生の鳶を動物病院へ連れて行っていた。
ここの凧は基本、喧嘩凧なので、凧糸にはガラスの粉がついている。

家主の奥さんがやって来た。
事態が発覚して見に来るも、悲しい姿を見つけたのは1羽。
無事だったのは1羽。
他は影も形もない。
「だからね、みんな外に逃げ放ったんだと思っておきたいの」

そもそもどうしてこんな事になったのだろう。
若犬が鳥かごの扉を開けられるとも思えない。
昨日今日に鳥かごがやってきたわけでもない。
若犬がここに来る前から鳥たちはいたはずだ。
何があったのかはわからないが、嫌な事というのは、嫌な偶然が絶妙に重なって起きるものだ。

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browneyes
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