ある母ちゃんの珈琲記 vol.1 Kids in the park
夕方の公園に響く子供達の声。
虫取りに熱中し、クマバチを虫カゴの中で溺れさせている子。泥水をぶちこみ、まだ死なないと言って、ゴミ箱から拾ってきたペットボトルに移し、フタをして遊具に叩きつける。
ポテトチップスの空き袋に水をためて何やらやっている子もいる。覗いてみると、たくさんアリを入れ、やはり溺れさせている。
バッタの足をもいでアリに食わせる子もいる。
以前、父に言われた言葉を思い出す。
「子供が虫を殺してても途中でやめさせないこと」
確か「やってやって、自分で可哀想だなって気付かないと、ほんとの気持ちがわからないから」という理由だった気がする。それが合っているのかはわからないけど、今のところ口出しはしていない。
私は見てて可哀想だなと思う。でも、蚊とかゴキブリは殺していいのに、ハチやアリはダメだという理由も分からない。それに、なぜかイモムシとかかたつむりは絶対に殺さないで可愛がっている。
ともかく、水と虫は、子供たちの顔をいつも輝かせる。
次は鬼ごっこ。幼稚園児ばかりオニにして、近づくとずるい顔してタイムをする小学生。幼稚園児は必死でお兄ちゃんとその友達を追いかける。悔しそうに、でも足は小学生より遅いから、ただただいっしょうけんめい。
ブルーハーツの歌が耳に流れてくるような気がする。
答えはきっと奥の方 心のずっと奥の方
そのうちにあまりにも捕まえられないので俺にタッチしろ、変わってやる!という子が現れる。
息子の友達が走ってきて、私のリュックの中を、何かお菓子ないのとまさぐる。中から缶を見つけ、
「ジュースだ!飲みたい!」
「ブラックコーヒーだよ。苦いけどいい?」
「いい、いい!」
他の子も駆けてきて、
「俺もコーヒー飲める!家で青い缶のやつ飲んでる」
などと言いみんなで缶を開けキャッキャと回し始める。
最初に飲んだ子はブェ〜〜〜〜と水飲み場に吐きに行った。
2番目に飲んだ子は、青い缶を家で飲んでるという強者、腕にイモムシを這わせて余裕の飲みっぷり。
3番目に飲んだ息子は、一口飲んでは拾ったプリングルスの容器に吐き、飲んでは吐き、とうがいのような謎の動作を繰り返していた。
今度はみんなで走って木登りに行った。幼稚園児も後ろから必死について行く。木の上の葉っぱに虫コブを見つけて「きもちわりー!」と興奮している。
こんなに眩しいコーヒーと、時間にはこの先出会えないだろうなと思った。大人になったって、さっきみんなが水飲み場の蛇口を全開にして吹き出させた水みたいなキラキラは消えないよ。
全身で笑って、全身で泣いて、力いっぱいこの時間を過ごしてほしい。
帰り道、幼稚園児はもっと遊びたかったー、といった。
鬼ごっこでタイムばかりしてた小学生は、小さな女の子の三輪車を押してくれた。
私は、早く帰って飲み損ねたコーヒーを飲みたいと思っていた。
家では、生きてる虫も死んでる虫も色々入った虫カゴが、帰りを待っているね。
みんなが大人になってほんとうにコーヒーを飲む時、今日のこの光景を見せてあげたい。