飲みそこねたコーヒー
ヤン・オーレ・ゲルスター監督の「コーヒーをめぐる冒険」という映画は、ある朝恋人の家でコーヒーを飲みそこねた青年ニコが、その日一日様々な人に出会いながらも、ことごとくコーヒーを飲めないというお話。モノクロの映像に、淡々とした時間の流れを感じます。
映画を観ながらついつい一人で「人がよすぎるんだよニコは」と呟いてしまいます。
お互いにとって通りすがりであろう相手の話も、ちゃんと聞いてしまうニコ。
相手を傷つけずに、それでいてわりと的確な返しをするニコ。
タバコの火をいつも人にもらうニコ。
ニコニコするわけでもなく、わりと困り顔のニコ。
何となくアンラッキーな一日。でも、そのアンラッキーな出来事に対する主人公の抗わない姿勢が、個人的には好感を持てます。いつもなら何かをリセットしてくれるはずのコーヒーが逃げていく。なかなかそのループから抜け出せない…果たしてニコはいつコーヒーを飲めるのか?
それにしてもモノクロ映画の中のコーヒーってなんで美味しそうなんでしょう。
この映画ほどの冒険はしていないのに、なぜだかコーヒーを飲めない日もあると思います。
ポットでお湯を沸かし…そのお湯がいつのまにか冷めている。スプーンでカップにインスタントの粉を入れたのに、お湯を注ぐところまでいかない。コーヒーを淹れた!牛乳も入れた!そしてスプーンがささったままぬるくなっていく…。一口しか飲んでいないコーヒーに、気づくと何か浮かんでいる…。
時にコーヒーと鬼ごっこの一日もありますね。
でも、いつか当たり前のようにコーヒーブレイクができるようになった時。
この冷めたコーヒーや、なかなかコーヒーにたどり着けない日のことを愛おしく感じるんじゃないかな。
ニコも、きっと同じ。
「コーヒーをめぐる冒険」(原題OH BOY)
2012 ドイツ