記憶と情景
この春、桜が散るのを待たずして小中の同級生を亡くしました。
ごく一般の人には、至極の絶景に思える神宮外苑の黄金色の銀杏並木の風景が、時事ニュースの映像や再開発問題の報道で流されるたび、オレは彼女のことが思い出されて胸が締めつけられます。
同様に代々木公園から新宿へと続く青白くライトアップされた街路もヤバいです。
思い出は、その時の情景の映像記憶とリンクされてオレの脳にアーカイブされているようです。
それゆえ、本来なら心華やぐはずのクリスマス仕様の街の風景が、オレにとっては追憶と喪失の感覚を呼び起こすトリガーになります。
オレは何かの被害者団体や反差別関係者でもないので、だから配慮してほしいなんてことを言うつもりは微塵もないですけどね。
十年以上前、ご長男のラグビー部が大学選手権を勝ち上がり、準決勝の秩父宮ラグビー場へガイドして随伴した記憶。時は外苑銀杏まつりのまっ最中。
無事に勝利を納め、年明けの旧国立競技場での決勝が決まった興奮の中、青梅街道沿いのビジネスホテルへ送る道中、陽が落ちて聖夜モードのイルミネーションでカップルだらけの新宿サザンテラスを所在無げに先導するオレの後ろを付かず離れず歩いて追ってきてた彼女の記憶。
偶然見つけた、あからさまな集客狙いで手を繋ぎくぐると幸せになると謳われていたハート型のLEDモニュメントをおたがい「相手が違ってゴメン。でも、どうせだったらやっておこう…」と、運動会のフォークダンス以外では触れたこともないはずの手をためらいがちに握り、通り抜けた記憶。
見慣れたはずのヒルトン近くのLOVEオブジェすら、オレたち二人を冷やかしているような気がした師走の西新宿の街路。
目にすれば、カップルだけに限らず世間の大半が高揚するはずの景色にオレの感情がそれと同調することは、生涯とは断言できずとも、しばらくない気がします。
最後の電話で一頻り笑いあえて会話を締め括れた記憶も含め、もしかしたら来春の桜の開花の報に触れてもオレはちょっと複雑な顔をしてしまうかもですが、他の皆さんはあまりお気になさらず。
こうして還暦まで生きてると、むしろ何事もなく生きている現実の方こそが奇跡的であり、善人は早死にするという話もなくはないなと思うと同時に、振り返れば己の罪深い生き様がやたら醜く思えて遣る瀬なくなってしまいます。
もののついでに告白しておくと、オレは実はバレンタインデー前夜にも些かのトラウマがあり、気づくと情緒不安定傾向になりがちですが、何はともあれ人生はケセラセラです。
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