Maybe next time
夕暮れ時。
僕は横浜方面に車を走らせていた。
シティポップなら何をかけても合いそうだった。
湾岸線。
助手席の君は窓を開けて風を見ていた。だから君は海を被っているように見えた。
「別に送ってくれなくてもいいのに」
「君のために何かしたくて」
僕はオートマのシフトレバーを用もなく握った。
恋人じゃない。確かにそうさ。
君を送り届けた後に、何か書けそうな気がした。
少し寒くないか聞いた。君は首を振った。
青い案内表示板の下を通り抜ける。
行き先はひとつだ。
君の小さい顔には大きすぎるサングラスが夕陽の色に染まっていて、君は頬杖をやめた。
「ねえ、あたしのことをあなたの小説に出してくれる?」
「もう出てるよ」
「そう……、今度読むわ」
── 今度 読むわ。
「いつか君の夜をほんの少しくれよ」
── ほんの少し。
「夜と別れたらね」
渋滞もなく空いていた。
僕が君といっしょにいられるのはいつだって陽が沈むその瞬間までさ。
君を待つ他の誰かの元へ僕は君を送る。
ヘミングウェイがそのタイプ音が聞こえてきそうなほど正確無比な文章で、たしかこんな状況を書いてた。
“すなわち男ってそういうもんでしょ”的に……。
スピードを上げた。君が曲を変えた。
迷子みたいな海鳥が遠くに見えた。
終