君はカルアミルク
月曜が土曜なら、君はカルアミルク。
全面ガラス張りの窓からは東京タワーと、それ以外の夜が見えてた。
僕は運良く、君の隣を手に入れることができた。君とはここで初めて会った。
グラスを重ねて、二人で夜を見ていた。
「素敵なことが起こりそうな時って、あまり酔わないものね」
「僕はずっと金曜ロードショーのオープニングみたいだよ」
君はカルアミルク。僕はただの脇役。ドリームポップミュージック。沈黙まで楽しめる。それってSDGs?
楽しい時間が終わる。I have a crush on you 店を出る。タクシーを拾う。そこまで送るよ。
また会いたくなってしまう人に出会ったときの寂しさっていくつになっても慣れない。
後部座席。君の今の横顔が君の本当の横顔に見える。
「今度遊ぼうよ」
「今度っていつ?」
「いちばん素敵な夜に」
「初めて会った今夜は2番目なのね」
「君と今夜出会えて、今夜がずっと終わらなくなりそうだよ」
冷たいムーンライト。街のネオンライト。
天現寺橋の交差点を僕らの乗ったタクシーは曲がる。
ウインカーの音は鼓動の音。
君の名はカルアミルク。それはさっき聞いた。だから君だけがカルアミルク。恋のシュプール。僕のカルアミルク。
「そこで降りるわ」
「また会えるよね」
「知ってた?東京って狭いのよ」
「僕の夜は広がっちまった」
ドアが開く。足を揃えた降り方で、君は降りる。その手をとって引き止められるほど、僕は男じゃない。
「今日楽しかったわ」
ドアが閉まる。君は指を波うたせるバイバイをして離れた。
タクシーが走り出す。大事なものから遠ざかったことだけわかる。どこに向かうかまだ言ってもいない。そうだ、次また会えるまでこれに乗ってよう。
火曜が水曜でも、べつにどうでもいい。
GOOD good-by
君はカルアミルクで
僕はそれ以外だ。