
ぼくなりの、お仕事図鑑。
ぼくのお仕事は遊ぶことだと思ってた。
まだ、ちびっ子だから。
ところが違った。
この前のテストの点を見た親が、朝っぱらから怒った。ぼくの仕事は遊ぶことではなく、学生なのだから勉強なのだと言った。
「日々遊びを研究していますよ、ぼくは」
ぼくは大人が遊ぶことも知っている。
「そういうことはきちんと仕事したらすることだ」
それでぼくは、「じゃあ、そちらさんがたのお仕事はなに?」って両親に尋ねた。
そしたら、「ぼくをちゃんと躾けることが仕事」だってさ。
では会社は副業ということなのだろうか。
ぼくちょっとご機嫌ななめ。パジャマ逆さま。
さっさと朝ごはんを食べよう。牛乳を飲もう。
終わってない宿題をランドセルに入れて、玄関から風のよう去る。
そして学校へ。
さっそく教室にいたクラス一の物知り博士くんに聞いた。
「ねえ、君は何でそんなにいろいろ知っているの?」
「知ることが仕事だからさ」
へー、てっきり学級委員が仕事だと思っていた。
つづいてクラスのマドンナちゃんに聞く。マドンナちゃんはバレエが上手でしかも踊りながら同時にピアノが弾けた。
もうこれは完全なる仕事だ。
「ねえ、なんでキミはいつも誰かを好きになっているの?」
マドンナちゃんはいつも違う男子に恋していた。
「それがわたしの仕事だからよ」
踊りながらそう答えてくれた。
へー。そっちなんだー。
担任の先生登場。
サッカーの指導が熱い男の先生だ。
紫色のジャージ上下を着ていて、サンダルを履いている。
「先生教えてください。先生の仕事って何ですか?」
「学ぶことだよ」
「先生なのに?」
「いっしょに学ぶのが仕事なんだよ」
へー。
もしかしたらぼくはずっと大きな勘違いをして、これまで生きてきたのかもしれない。
どうやら、みんなそれぞれが、ぼくが知らない仕事をしているようだ。
てっきり仕事というのはもっと目に見えやすいものだと思っていた。意外。
そうだ!もっともっと調べて図鑑にしよう。
ぼくなりのお仕事図鑑だ。
さっそくぼくは放課後に、近くの会社の社長を尋ねた。
受付にて簡単なやり取り。
「アポイントメントはお取りですか?」
「はい、それがぼくの仕事ですから」
ぼくは社長室へ通された。何の会社なんだろうか。
「あのー、社長さん。お聞きしたいのですが」
「ああ、いいとも」
「社長さんはどうして社員さんみたいに仕事をしないんですか」
「仕事をしないことが仕事なんだよ」
「なるほどです」
メモメモ。
会社を出てからすぐ横の役所に入った。
いろいろな部署をたらい回しにされたので、なぜそうするのかを聞いてみた。
「それが仕事だからだよ」
「なるほどー」
たしかにたらい回すこと以外はとても丁寧だった。
どんどん図鑑が出来上がっていく。すごいぞー。
一気に行きたくなって、商店街へ。
駄菓子屋の店番のおばあちゃんのとこへ。そこのおばあちゃんはすごく怖くて、買うか買わないかモタモタしてる子供にめちゃくちゃ怒る。
「ねぇ、おばあちゃん、聞いてもいい?」
「買うのかい?買わないのかい?」
やはり怒っている。
「これを買います。だから教えて、なぜそんなに怒るの?」
「怒る人がほかにおらんからやろ、聞くな」
「仕事なんだね、それが」
「わかればええ」
また図鑑が埋まった。おばあちゃんのページはカラーにしよう。
威勢のいい掛け声のバナナの叩き売りさん。なぜそんなに声を張るのか。
「それが仕事だからだよ」
「今日はバナナ売れた?」
「売れねーよ」
カキカキ。
図鑑に足される。
今日はこれくらいでいっか。
夕日が沈む。それが太陽の仕事だから。
川沿いの道。
いつもの野良猫。
大きなあくび。
「それがキミの仕事だもんね」
「にゃー」
家に帰る。
ただいまー。
親に説明するのはめんどくさい。詳しくは図鑑を見てよ。
ぼくはぼくの今日の仕事をちゃんとやり終えたわけだからね。
終