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小説は見た目が10割



自慢じゃないが僕は小説執筆歴イコール年齢だ。

そんな感じでカノジョいない歴みたいに言うと、カノジョいないんだなと思われがちだ。

実際は社会人になってから書き始めた。

社会人になりたくないという思いが原動力となった。

以来ずっと長い間小説を書き続けて、文学新人賞に応募してきたけど、まるで日の目をみない。

それはまるで天地開闢以来の不変かのようだ……。

省察するに、僕は小説内で論陣を張りすぎていた。何かの夏の陣か冬の陣みたいに書いていたのだ。

村上春樹が“僕はなかなかできないんだけど”と断った上で、こう書いていた。

『ほんとうに良い小説とは誰も死なないし、誰もセックスしないものだ』と。

僕の書いたものを改めて読み返して見て、気づいたことは、僕の小説では登場すべき登場人物が、登場していないと言うことだった。

つまり、誰も何もしてなかった。

出番を待っているのかわからないけど、とにかく登場人物が出てきていない。

My Foolish Heart

こんなことをもし誰かに言ったら、シンプルにやばいやつだと思われそうなので、もちろん言ったことはない。

人は見た目だけが見た目なのだ。

そんな折、商店街の抽選会のガラガラで2等を出した。

カランカランとベルが鳴り、『小説セミナーの受講券』をゲットできた。

2等だけは滅多に出ないんだそうだ。ツイてる。

僕はその手のものには行ったことがなかったのだけども、この際、この機会をなにかの起爆剤として利用しようと思い、参加することに決めた。

受講日までに1本短編の新作を書いて、あわよくば読んでいただこうと、それを持参して当日セミナー会場へ出向いた。

100人くらい入る講堂は満席。僕の周りはみんな文学部卒みたいな人ばかりだ。僕の論陣なんて円月殺法でやられてしまいそうだ。

チャイムが鳴り、ガラガラとスライド扉を開けて、本日の講師が入ってきた。

アインシュタインみたいな髪型で、ブラックジャックみたいなコート姿だ。

何か閃いたらしく自分のTシャツにメモしている。天才の振る舞いが許されるのは天才だけなのだ。

彼の名はいりたまご

天才に相応しい名前だ。おでこにという字が入っている。内面を見つめるということなのだろう。

“いりたまご先生”と人は彼を呼ぶ。

いま日本でもっとも世界に近い作家と言われているすごい人だ。

彼は、夢オチしか書けないのにノーベル文学賞候補になった初の男でもある。

こんな偉大な方に教えていただけるなんて光栄だ。

今日は余すことなくメモして吸収しよう。

僕は襟を正し座り直す。

いりたまご先生は壇上でお辞儀した後、黒板の方へ向きチョークで力強く僕らに向けたメッセージを書いた。

小説は見た目が10割

「今日はこれだけ覚えて帰ってください」

そう言うと後はもう何も言わなかった。

少しうとうとし出している。複数の関係者によると、先生は秘技の『眠り書き』ができると言われている。だから全て夢オチになってしまうのだ。

いっさいの質問を寄せ付けない何かがあった。

僕ら全員、早々にメモし終えた。

確かに小説は読み物だから見た目が10割なんだろう。

少し変な空気になったあとで、

そうっと、ひとりづつ、先生を起こさないようにみんな退室した。

次回作に悪影響があってはいけない。

改めて天才と僕との差に気づかされた1日だった。

それだけでも受講した価値ありだ。



                      終

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