続・僕の彼女は風俗嬢#1
さて、第三章の開幕。
僕たちの縛りが解けてはじめてのLINEはどちらからなのか。
出来れば待ちたかった。
でもそれで来ないのも耐えられない。
非情に悶々としていた。
実はこの期間に僕は一度だけLINEを送ってしまった。
というのも、クリスマスの予定についてだ。
都心の人気がある高級レストランは11月の内、下手したら10月から予約しておかないと間に合わない。
僕が思い立ったのは11月の頭だったが、それでも埋まっていた。
でも一緒に過ごす初めてのクリスマス。そして紗耶香ちゃんの誕生日。
どうしても素敵なものにしたかったので近場のレストランは嫌だった。
24日と25日。
今年は運よく土日なこともあり、僕はどちらも紗耶香ちゃんと一緒に過ごしたかった。
だから予約の為にどちらも予定を空けてもらえないか打診のLINEを送った。
しかし返事は返ってこなかった。
既読もつかない。
これまでの傾向的に紗耶香ちゃんは既読がついてからが長いタイプだった。
今回は3日以上未読。
きっと僕のことを考えないようにブロックしてるのかなって思った。
もしくはLINEに気付いているけど見ないようにしている。
実際僕の行動はルール違反。
紗耶香ちゃんが100%正しい。
僕はそっと送ったメッセージを消去した。
相手の画面上は残るのか。削除されたことだけが伝わるのか。
うろ覚えだったが、なんだか恥ずかしくなって勢いで消した。
別に予約して予定が合わなかったらキャンセルすればいいかと開き直った。
僕の稼ぎからすればかなりの額なので内心ビビってはいたが…。
そんなこんなで僕は自分から連絡することに恐れを抱いている。
もしかしたらこのまま縁を切るつもりなのか。
なんて浅い悲劇を妄想していた。
冷静に考えれば紗耶香ちゃんがそんな不義理をするはずがない。
本来は約束を破った謝罪も兼ねて僕から送るべきなのか…。
その方が男らしいか…。
兎にも角にも紗耶香ちゃんは生活が一変する。
仕事を辞めたからといって沢山会えるかと問われたら恐らく逆だ。
より忙しくなるだろうし、出勤スケジュール的に最後まで安定して週5くらい朝5時頃まで働き詰めだったので就活をしている余裕は無かったと思われる。
以前ちらっと聞いた自分のマッサージ店(エステ?エロくないやつ)を立ち上げたいって話も頑張って欲しいなと思ってる。
役に立てることがあれば何でもするし、本業で培った人脈でサポートだって可能だ。
色んな面で頼って欲しい。
その分これからは僕のことだけ見てて欲しい。
そんな需要と供給が成り立てばいいなぁなんて思っている。
この2か月間。
長かった。
日に日に出勤スケジュールの「〇」が消えていき、「‐」で埋め尽くされていく。
もう「×」で心を痛めることも無くなる。
12月になる直前。
僕はこの物語を読み返した。
だんだん余裕がなくなっていく男の姿が無様だなって思った。
最初は彼女の仕事も初めから分かっていれば案外平気じゃんと余裕をかましていた。
でも一緒に同じ時を重ねていく内に苦しみが膨らむ。
好きになればなるほど心が蝕まれていく。
仕事頑張ってて偉いなぁって思っていたのも本心。
もう頑張らないで欲しいと思ったのも本心。
人の心は移り変わる。
僕は紗耶香ちゃんを人生ごと振り回してしまった。
でもそれに付いてこようとしてくれている。
こんな健気な彼女を愛さずにいられようか。
残すところ後3日。
あと3日で全てのスケジュールが「‐」で埋まる。
そう思っていた矢先の出来事。
彼女の出勤スケジュールが「〇」で埋め尽くされている。
僕は個人でなくお店のスケジュールを見てしまったんだと思い、再度確認する。
しかしこれは彼女個人のスケジュールで間違いなかった。
僕の中で秒針が止まった。
何が起きているか分からない。
子供の頃、砂浜で作り上げたお城が波に一瞬で攫われるような。
そんな気分だ。
気が動転した。
眩暈がした。
理解するのに数分を要したが、その後も冷静になれなかった。
待ちわびたこの2か月。
全てが水の泡となった。
未だに連絡は返ってこず、既読にすらならない。
なぜ約束を破ったのか。
なぜ何も言ってくれないのか。
僕のことを今どう思っているのか。
何も分からずただ呆気にとられていた。
仕事を辞める時はお客さんへの義理を通すのに
彼女を辞める時は彼氏への義理を通さないの?
そんな風に思った。
仕事を続けたい理由、続けなくちゃいけない理由があるのかもしれない。
それなら別に話は聞くのに。
何より連絡を無視されたことが解せない。
予定を空けられるか聞いたときに言えたはず。
言いにくかったのかもしれないけど。
そこでこそ大人の対応をして欲しかったと切に思う。
僕は既読のつかないLINEに何故こんなことになっているのか尋ねた。
すると翌々日返事がきた。
直接会って話すことになった。