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なぜ銀座Johanでパンを買いたくなるか
三越のデパ地下の定番
銀座に行くと三越の地下にあるJohan(ジョアン)でパンを買うことが多い。ジョアンは全国に展開するチェーンだが、私が利用するのはほとんどこの銀座店だけである。ここに来ると商品がどれも美味しそうに見えるので不思議だった。この店では普段他のパン店では手が伸びないような種類のものも美味しそうに見えて、買いたい気持ちを喚起させられる。例えば、シナモンロールなどは普段なら買いたいリストにはほとんど入ってこないパンなのだが、ここで見ると「たまには買ってみるか」という気になったりするのである。そのデザインが特別というわけではなく、どちらかと言えばオーソドックスな外見の仕上がりであるのに、そんな気分になる。他のパンについても似たようなことを感じることがある。そこで、ショッパーという立場をちょっと離れて観察者の視点で店の中をチェックしてみた。
アクリルケースで差別化
この店の特徴は商品を区分して透明アクリルの小型の箱に入れていることだ。この小箱の中には3種類以上は置かない。アンパンとかコロネとかカレーパンとか“日本の昔からのパン趣向の中の定番”とも言えるようなものは数種類まとまめて水平タイプのケースに入れている。小箱に区分されて展示されているのは、ナッツやフルーツを入れた定番的なパン、フランス、イタリア、ドイツを代表するようなリッチなパンらしいパン、季節の素材を生かした期間限定もののパン、「売り」のあるパンである。本格的なパンのあることを全面に出しているのだろう。
回遊を楽しむ動線
ショップフロントでは専任のスタッフが焼き上がったばかりの山盛りの人気パン(コーンパンなど)を前にして販売している。その後ろには透明アクリル箱が腰から上の位置で二列に並んでおり、その間を抜けるように動線が走っている。左に凝ったリッチ志向のパンや季節ものなどの企画品、右に親しみのある定番的で単価の低いパンの水平ケースという配分だ。
賑やかさは数で演出する
動線の先にはトースト、パン・ドゥミ類だけを纏め置く低い台と背の高めの棚がある。低い台ではパンの焼き面(外皮、クラスト)からクラムと呼ばれる柔らかい面(クラム、内相)の全体が見られる。背の高い棚ではクラムをこちら側に向けるかたちで整然とトーストが置かれている。余談だが、ここのトーストは安価で添加物もなさそう。よくはける回転率の良い商品なのではないだろうか。そういうものは数多く堆積させて、賑やかさを演出し、ショッパーの気分をなにげなく盛り上げる。
自分で選んだ箱から取り出す
先ほどの述べたアクリル箱に話を戻すと、この小箱が個々の商品の差別化になっているのはいうまでもない。手の込んだオーソドックスなパンを焼いて供していることを示すショーケースになっていて、そこにはフタがあり、そこから“自分で取り出して”買いやすい。
水平に並べるだけでは商品が均一化
この店には、他店(特に店舗面積があまりない店や菓子メインの店など)では、よく見かける幅のある床上から上までのフルレングスの大きなショーケースは置いていない。かといって、これもよくあるスタイルだが、ファサードのガラス面を含めた壁面沿いの水平棚をメインにほとんどの商品をイーブンに置くこともしていない。エスカレーターが脇にあり、立地的にガラス面で外に訴求することができない条件になっているのでやむをえない部分もあるが。壁面に沿ったその展示方法では商品を差別化しない代わりに商品の個性が出にくくなる。ジョアン銀座には客が順々に見ながら「これは面白い、食べてみたい」という個性のパレードがある。
銀座ジョアンでは、このちょっとした回遊性と差別化のための小型ショーケースの林立が買いたい気持ちを盛り上げてくれるのである。
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