UEFA EURO 2024 グループB スペインvsクロアチア 〜持ち物検査の洗礼〜
スターティングメンバー
この試合の1週間前に行われた親善試合のポルトガルvsクロアチアを見た上で記事を書いています。ポルトガルのオエイラスとかいう地(リスボン近郊の海辺の村らしいです)のJ3みたいな長閑なスタジアムで行われたゲームでしたが、モドリッチを筆頭にクロアチアはベストメンバーだったようです。このEURO初戦も1週間前と同じスタメンを送り込んでいます。
スペインは故障を繰り返していたペドリが間に合ってスタメン。健康なキャリアを送って欲しいのですが(ポジションは違うけど、怪我がちながら割とビッグトーナメントには縁があった)クリスティアン・ヴィエリのようなキャリアになってしまうのでしょうか。あとは左CBはパウトーレスが外れてナチョがスタメンというのもびっくりでした(それぞれの選手の直近のパフォーマンスはよく知らないのですが)。
試合展開
ベースとなる力関係が見える
まず力関係としては、クロアチアはGKがあまりバックパス処理のうまくないリバコビッチ、CBはボールを運ぶ能力はまずまずくらいに見えましたが、スペインのpressingと本気で向き合うまではしない、ということで、序盤はスペインがボールを保持することが多くなります。
あとは、相手がボールを持っている時のpressingについても、スペインは序盤からリトリートせず即時奪回、相手GKから始まる際はハイプレスを仕掛けるという感じで、ほとんどクロアチアにボールを持たせないような選択をしていたのに対し、クロアチアはある程度スペインがボールを保持することを念頭においた試合の入り方というか、ハイプレスを仕掛けるのも序盤は様子見をしつつ、といったところでした。
スペインの共通理解の凄さ
なのでスペインのボール保持から整理する方がわかりやすいと思うのでそうします。構図は↓で、クロアチアはコバチッチがロドリに対しマンマークに近い対応。他は基本的にはスペースを守っていることが多かったと思います。
スペインは定石通り、数的優位のGKとCBのところからボールを持ち出す。この際いわゆる”サポート”というか、ボールホルダーの状況に応じて中央でパスコースを作ってプレス回避をするのは、ロドリとファビアンルイスが大半で、他の選手はほぼ定位置から動かずじっと待っている、最低限の人数だけでpressingを回避しようと試みていたのがスペインの特徴でもあるしその凄さでしょうか。
スペインはウイングのヤマルとニコに渡して、彼らがクロアチアのSBに向かってゆっくりドリブルして、SBとその前のSHを引きつける。そこからバックパスしてまたサイドを変えてやり直し…という、マンチェスターシティとかがよくやるプレーを繰り返す。
これは現象としては別に真新しいとかはないのですけど、皆が狙いや意図をわかっていてselfishな振る舞いをする選手が全然いないのが彼らの凄さというか、AIを搭載しているみたいな精密さを感じます(AIの方がもっと遊び心みたいなのがあるのでは)。
クロアチアの変化から均衡が破れる
対するクロアチア。まずクロアチアは直前の親善試合(vsポルトガル)とはかなり雰囲気が変わっていました。
ポルトガル戦ではブロゾビッチ、モドリッチ、コバチッチがかなり低い位置からスタートしてCBからボールを引き取る、その分SBが高い位置を最初からとっていて、『ブ・モ・コ』の個人能力でボールを奪われないようにキープしつつ、サイドのスペースにロングフィードをしてサイドから攻撃していました。
そしてボールを失った後は、クロアチアは即時奪回はせず毎回撤退するのですが、その戻りはポルトガルの片田舎に妙にマッチしているくらい牧歌的というかゆったりしていて、ヨーロッパのチームにしては局面が分離している感じがしていました。リトリートは1-4-3-3か1-4-5-1で、相手CBやアンカーにはボールを持たせてもOK、最後のところで跳ね返すという対応が目立ちました。
それがこの日は完全にEuroモードというか、親善試合とはギアを完全に入れ替えていて、先述のようにロドリにマンマーク気味の対応を使いながらスペインのボール保持を消します。
そしてボールを持ったら、序盤はFWのブディミルに放り込んで”リセット”というか、リスクを考えた対応からスタート。これはクロアチアがリスク回避したかったのもあるし、スペインのpressingが強烈だったのもありますが、ポルトガル戦で最初から低い位置にいてボールを積極的に引き取っていたモドリッチが、なるべく高めの位置にいて我慢していたのを踏まえると、序盤はある程度ボールを捨てることを決めていたのではないかと思います。
クロアチアが変化したのは15分前後くらいでしょうか。
配置としてはブロゾビッチが下がって、ウイングが中央に絞って1-3-4-3みたいな陣形に。スペインはペドリがブロゾビッチを見ながら2CBにもプレスをかけようとしますが、『ブ・モ・コ』のうちコバチッチも下がって援軍に駆けつけます。この2人の個人能力というかプレス回避能力ならスペイン相手にも互角にやれちゃうのがクロアチアのすごいところですが、特にコバチッチにはスペインも複数人で対応してもボールを失わない、簡単にリリースしないでターンもできる、という具合で、スペインがずっとボールを保持する展開ではなくなってきます。
あとはクロアチアの特徴は、ボールを落ち着かせる時は大外で浮いているSBを使う。ウイングのクラマリッチとマイエルはかなり中央に絞っていてシャドー化しますが、場合によっては左右のサイドが入れ替わるくらいポジションを崩すのは日本代表で言うところの堂安とか、往年の中村俊さんのイメージに近いかもしれません。
この中央に絞っている3人にボールを当てて、ちょっと強引だけど数の力で強引にキープからサイドのスペースを突く、みたいな感じで徐々にクロアチアがボールを持てるようになります。スペインもおそらくハイプレスの時間を決めていたのもあったでしょう。
しかしクロアチアがギアチェンジしたことで、かえってスペインの凄さが際立ったような先制点だったと思うのですが、29分のこのプレーはクロアチアのDFがFWブディミルに放り込んだところから。このボールにクロアチアは中央で3~4人が絡もうとしますがククレジャがクリア。そうするとクロアチアは中央がオープンになって、そこを見逃さずファビアンルイスのスルーパス…というもの。
スペインはこれがこの試合最初のスルーパス、中央でモラタが前を向いたプレーだったと思いますし、シュートもそれまで1本あったかどうかだったとおもうのですが、とにかく彼らは徹底して自分たちのバランスを維持しながら相手が崩れるのを待っている。よくいう試合巧者タイプのクロアチアが崩れるのをこの29分までずっと待つ展開でしたが、一瞬オープンになると途端にスピードアップする、選手の共通理解みたいなものが、ボールの扱いが上手いこと以上にスペインの凄さなのかなと思います。
32分にはヤマルの仕掛けからスペインが追加点。ヤマルの仕掛けも、スコアが動いて少しオープンになって初めて解禁されます(このシチュエーションになるまでずっと仕掛けずにボールキープして待てる賢さと技術のあるウイングが16歳のわけないだろとか思っちゃいましたが…)
その後はセットプレーから前半ATにカルバハルが決めて3-0。
スペインは撤退が怪しいのもあって、クロアチアは大外で余っているSBへのフィードなどで何度かチャンスを作ります。が、ウナイシモンのビッグセーブ、後半のククレジャのブロック、後半のPK失敗などミスもあってゴールを奪えず。62分にモドリッチとコバチッチはピッチを後にしていますが、この時点でゲームとしてはほぼ完敗に近かったと思います。
雑感
皆さんごきげんよう。EUROの男のことアジアンべコムです。今回クロアチアの試合を担当することになりました。
そのクロアチアの事前の印象は不老、というか、すごい得意な形があるわけでもないがなんでもできるチームで、かつそのサイクルが10年くらい続いている謎のチーム、ベンジャミンバトンみたいな印象だったのですが、記事でも書いたポルトガル戦の感じだと、今のクロアチアはpressingもbuild-upもちょっときつそうだな…という不安はなくはなかったです。
加えてスペインという完成度が極めて高いチームが初戦の相手だったことで、このチームは何ができるのか?という、厳しい水準での持ち物検査をさせられているかのような展開になりました。
なんというか、Euroという大会自体がFIFAワールドカップと異なり、欧州圏内のチームである程度特徴を見知った、かつ共通トレンドが幾分かある中でのコンペティションなので、ソシャゲでいうところの"持ち物検査"みたいな空気はあるのかもしれません。いや、スペインが厳しすぎるだけなのかもしれませんが。
ともかく、クロアチアは事前の印象通り、ベテランのキープレイヤーへの依存度が大きくて、この点でpressingやbuild-upといった基礎的な部分での”サッカー持ち物検査”はトップ通過ではないだろうなとは思います。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。