UEFA EURO 2024 グループB クロアチアvsアルバニア 〜持ち物検査その2〜

スターティングメンバー

  • クロアチアは初戦からFWのブディミル→ペトコビッチ、グヴァルディオルを左SBからCBにスライドさせ、左SBにペリシッチ。2戦目がアルバニアというのはターンオーバーしやすい日程なようにも感じますが、コアな選手は入れ替えず最小限にとどめています。

  • アルバニアは初戦のイタリア戦で、左インサイドハーフに入っていた⑩バイラミが左ウイングに。インサイドハーフにはラチを起用。FWはブロヤから⑦マナイに変更。ジムシティとヒサイしか知らなかったのですが、このマナイはインテルやバルサBでのキャリアを持つなど西ヨーロッパ各国でのプレー経験のある選手が並んでいるようです。

試合展開

ボールはクロアチア、舵取りはアルバニア

  • 前半のボール支配率はクロアチアが60%を超えるくらいで、どちらかというとボールを持たされる展開だったと思います。なので、クロアチアがボールを持っている時の展開から見ていきます。

  • 一応アルバニアは、クロアチアがボールを持っている時に前からはめて制限をかけていく方法は明確になっていました。構図を↓に示しますが、サイドで2v2の関係を活かしてマンマークに近い対応をします。モドリッチが落ちた時に、14ラチがついていったのでここもマンマークに近いでしょうか。中継映像やスポナビでは1-4-1-2-3のシステム表記ですが、21アスラ二が前に出て1-4-4-2に、配置としては近いです。

  • クロアチアは、SBが高い位置を取ってウイングがシャドーないしはフリーマンっぽくなる。ボール運びはブ・モ・コに任せる、という、親善試合のポルトガル戦と似たアプローチをとります。そこからロングフィードで敵陣侵入が多くなる(≒言い換えるとあまり地上戦でボールを丁寧に運ぶ感じはない)のもポルトガル戦と同じでした。

  • ただアルバニアはロングフィードや長めの縦パスを跳ね返したりカットするのは得意なようで、クロアチアはFWのペトコビッチも、ウイングのマイエルといった選手もボールが収まらず、アルバニアがブロックを作る前にゴールに迫る試みはほぼ失敗してしまいました。

アルバニアのゴール前の強度と持ち物不足感のあるクロアチア

  • ただアルバニアはセカンドボールを拾えない時などの撤退の判断が早く、それによってクロアチアはアルバニア陣内に侵入すること自体はできていたと思います。

  • アルバニアは自陣では1-4-5-1っぽい形で撤退を開始し、中央を固めてサイドに展開させ、サイドではSBとSHでクロアチアのSBまたはウイングを挟み込む対応を徹底。

  • この際、SBが出たスペースにCB(↓の図では5アイエティ)がスライドしたら、アンカーの20ラマダニがCB6ジムシティと5アイエティの間に入ってスペースを埋め、マークとスペース管理の役割も受け渡すなどゴール前の対応は非常に丁寧でした。

  • クロアチアが敵陣で苦戦したのは、ウイングやサイドバックがいずれもregate(ドリブル突破)があまり得意なタイプではないことがまず大きい。かといってサイドでボールを持ってハーフスペースや中央を突くとか、一気に反対サイドに展開するとかもなく、特にハーフスペースにスピードに乗った状態でウイングなのか、インサイドハーフなのかが飛び出すとよかったかもしれませんが、インサイドハーフのキャラクター的にもクロアチアは、そうしたアクションの量も質も非常に乏しかったと思います。

  • なのでこの状態でアルバニアを崩せないが、クロアチアのSBは高い位置を取って背後にスペースがある状態。アルバニアはボールを拾うと、クロアチアのこのSB背後のスペースを突いてカウンターを試みます。

  • といってもあんまりアルバニアの前線にスピードスターがいないのもあって、単騎突撃が何度も成功するほどではなかったです。30分の21アスラニが抜け出してビッグチャンスとなった場面なんかは、クロアチアDFにボールが当たってコースが変わるラッキーもありました。この時はGKリバコビッチがビッグセーブでクロアチアを救います。

  • どちらかというと、速攻よりもアルバニアは遅攻というか、後方のロングフィードから始まる攻撃をうまく使ってコントロールしていた面もあったかもしれません。

  • センターFWの7マナイがグヴァルディオル、シュタロを背負った状態で、ロングフィードのターゲットとしてボールキープ、ないしは簡単にボールを相手ボールにしないプレー(CBのブロック?)を徹底していて、アルバニアがボールを捨てても後半途中まではバランスが崩れなかったのは、彼や前線の選手の頑張りが大きかったと思います。

続・持ち物検査

  • 11分のアルバニアの先制点は、クロアチア陣内深くでボールキープに成功し、この試合初めてアルバニアのSBが高い位置を取ることに成功。クロアチアとしては撤退して守るフェーズになるのですが、アルバニアとは対照的に、クロアチアは撤退時の対応が整理されていないのか、ウイングが戻るのも都度判断で、クロアチアのウイングはアルバニアの同じ役割の選手ほどプレスバックには積極的ではないのもあって、右ウイングの9アサニのカットインからのインスイングクロスを繰り出すには容易なシチュエーションでした。

  • クロスに飛び込んだのは左インサイドハーフの14ラチ。左の下り目の位置からかなり長い距離を走ってスペースにタイミングよく顔を出しましたが、このスペースへのランもアルバニアにあってクロアチアにはない要素。

  • SBヒサイの攻撃参加に釣られたグヴァルディオルの判断ミス(多分クロアチアの守り方的にあそこで出る意味はなかったと思います)もありましたが、「アルバニアにあってクロアチアにないもの」がこれだけあると、選手のクオリティやネームバリューの差を(少なくとも一時的には)覆すには十分だったと思います。

  • 30分過ぎくらいからはクロアチアは右サイドで役割を少し変えていて、ウイングのマイエルが大外にいることが多くなります。最初からSB-CB間のスペースを空けるようにして、そこに誰か走ってくれという意図だったと思いますが、右SBのユラノビッチが何度かその役割を遂行します。ただ全体的にロングパス主体(ペリシッチへの放り込みが多かった)のクロアチアにおいて、そのスペースをどう使うかはまだよく見えない状況でした。

後半はクロアチアペースに

  • 後半頭にクロアチアは2枚替え。ブロゾビッチとマイエルがアウトで、右にスチッチ、トップ下気味にパシャリッチ。英語実況もこの2人(いずれも本来はセンターの選手)を混同気味でしたが、左利きのスチッチがアウトサイドで間違いないはずです。

  • 徐々に、というか後半は頭からクロアチアペースでした。

  • キックオフの際に、ペリシッチが高い位置を取る前からアルバニアの左ウイング9アサニは大外、右SBヒサイの外側に下がっていて、アルバニアとしては後半はそうしてリトリートでスペースを埋めることを念頭に置いていたんじゃないかと思いますが、これによってクロアチアはピッチ中央でほとんどアルバニアのプレッシャーを受けない状態で、SBを高い位置にキープして押し込む形を作ることができました。

  • 加えてアンカーのブロゾビッチを下げて、攻撃的MFのパサリッチを入れてフリーマンっぽく運用したことは、アルバニアがpressingをほとんど行わなくなったのでアンカーのブロゾビッチは必須ではなくなったといえます。

  • その分を前に割くという点で合理的でしたし、特に同じ右利きでプレーエリアがやや被り気味に見えるクラマリッチとパサリッチがポジションチェンジをしながら、どちらかがアルバニアDFとMFの間のスペースに遅れて現れるというのは、単純なマンマーク気味の守り方では対処が難しく、アルバニアDFの負荷を増大させることになったと思います。

  • 49分にはモドリッチの縦パスをぺトコビッチがフリック、パサリッチがスルーしてスチッチの左足シュート、という前半にはなかった複数選手が連動する形でアルバニアゴールを脅かします。

  • ほか、後半はペリシッチや大外に陣取る選手からシンプルなクロスボールが多くなり、かつそれらの多くはアルバニアDFは体を寄せて対処はしていたものの、クロアチアのターゲットが頭に当てるシーンは幾度も見られ、ちょっとずつアルバニアが苦しそうな雰囲気にはなっていたと思います。

  • そしてクロアチアがシュートで終わって、アルバニアのゴールキックになると、アルバニアはFW7マナイがクロアチアのCB相手にある程度ボールをキープしたりブロックして時間を作ってくれる前提で長いボールを蹴るのですが、マナイがちょっと疲れたのかそのプレーの成功率が後半は下がっていて、クロアチアのターンが続くようになります。

  • 64分にアルバニアは右ウイングの9アサニ→15セフェリ。ペリシッチの対面を守る選手をフレッシュな選手に入れ替えます。69分にクロアチアはFWのペトコビッチ→ブディミル。72分にアルバニアは左インサイドハーフの14ラチ→8ギャスラ。こちらはボール保持の際に最初にボールを握ることが多かった、モドリッチを中心とする右サイド〜中央を守る選手を投入します。

疲労からエラー誘発

  • 74分にクロアチアは待望の同点ゴール。直前のプレーでアルバニアがボールを拾って、左の10バイラミからペナルティエリア付近まで侵入するカウンターが発動します。

  • が、この時間帯すでにアルバニアは体力的にきつそうで、中央に攻撃参加していたFWの7マナイ、投入されたばかりの15セフェリを使わないでミドルシュートを選択した(力なきシュートはリバコビッチが難なくキャッチからのカウンター発動)バイラミの選択は非常にチープだったのですが、かなり疲れていたと思いますので判断も難しくなっていたとは思います。

  • ともかくアルバニアの軽率なプレーからクロアチアが速攻。コバチッチが中央で引きつけてブディミルのポストプレー、リトリートが間に合わないアルバニアに生じたスペースでクラマリッチが浮いているのを見て右SBの4ヒサイがインターセプトを試みますが、ここでクラマリッチに逆をとられ切り返しからシュートを許してしまいます。先制点のグヴァルディオルとはちょっと違いますが、こちらも実績のあるDFが食いついてしまうミスで命取りでした。

  • 直後のプレーで中央でブディミルが裏抜け、パサリッチがシュート…というビッグチャンスを経て、31分にクラマリッチがアルバニアのSB-CB-右SH-インサイドハーフの四角形の中心でターンからのブディミルがまたもDF背後に裏抜け。最後はアルバニアのGK23ストラコシャの判断ミスかと思いますが、飛び出したところをブディミルが折り返し、オウンゴールを誘ってクロアチアが逆転に成功します。

  • アルバニアは疲労もありましたし、2点目の際にSHのセフェリが並んでしまって右サイドで対応が曖昧になったのは浮き足立っていたという見方になるかもしれません。

試合巧者がクローズに失敗

  • 2-1となってクロアチアはSBを元の高さに戻します。クロアチアのSBが高い位置を取って、アルバニアのSHまたはウイングがそれを見るためにDFに近い地まで下がる、という相互理解?の上に成り立っていたゲームバランスはこれで幾分か崩れ、クロアチアのこの判断は、ゲームクローズとしては普通なんでしょうけど、前に出ていきたいアルバニアを助けることになったと思います。

  • 84-85分にそれぞれ2選手を交代。クロアチアは同じポジションでの交代を2ヶ所で、左SBペリシッチ→ソサ、左ウイングクラマリッチ→ディナモの10番バトゥリナ。アルバニアは1-4-4-2に変更。FWの7マナイ→長身FWの19ダク、アンカーの20ラマダニ→26(FW登録だが情報が全然ない)ホッジャ。

  • 多分この布陣でした↓。クロアチアは時間を使い切るのか否かはっきりせず、バトゥリナはボックス付近にカットインからシュートを放ちますがGKがキャッチしてカウンターになります。そしてアルバニアの左に入ったホッジャがユラノビッチを圧倒する(膝が万全な宮市亮のような)パワフルな突破で、10分程度のプレイタイムでクロアチアゴールに何度も迫ります。

  • 終了間際のAT90+5分に、ホッジャが左で引きつけて左SBミタイがアンダーラップ。これも定石通りというかマイナスのグラウンダークロスをギャスラが合わせてクロアチアは痛恨の失点。


雑感

  • 2試合続けて同じことを書いてしまって恐縮ですが、これくらいハイレベルなトーナメントは持ち物検査みたいだな、という印象でした。

  • クロアチアはモドリッチという稀代の天才、グヴァルディオル、コバチッチといったスター選手を擁しかつての基準だと”持つ者”の側だったかもしれませんが、今日のUEFAスタンダードともいうべきサッカーの基準だと、クロアチアのウイングやインサイドハーフが持っていない武器や要素が要求される面は少なからずあるなと感じました。

  • 具体的には、ウイング(ワイドFW)が大外で受けて相手のSBとSHの2人を引きつけるドリブル、カットインからの空いたら小さいモーションでのインスイングクロス(シュートよりもクロスの方が使用頻度は高い)、ファー詰め、プレスバック。

  • インサイドハーフは前線のスペースへのチャネルランを繰り返す走力や、前が空いた時に枠内にミドルシュートを飛ばす(相手のカウンターにならないようにする)能力、build-upにおけるアンカーとのタスクチェンジによる1列目突破…などです。モドリッチはそう何回もスペースにスプリントを繰り返せないし、ウイングもそこまで戻れないとするならクロアチアはかなり戦いの幅が狭まるチームだな、という感想でした。

  • 対照的にアルバニアは、90分持たないのは予想通りでしたが(夏の昼のゲームということもあってきつそうです)、それでも持ち物検査への合格度はクロアチアをむしろ上回っていたかもしれず、イタリア戦に続く善戦はフロックではないでしょう。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。


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