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2024年 6/3(月)「アイヌ音楽と伊福部昭」演奏会、開催報告(6/9)

「アイヌ音楽と伊福部昭」ご報告とお礼

2024年6月1日、伊福部昭記念館(鳥取市)の伊福部昭氏書斎再現部屋にて、本演奏会のチラシ(記念館の方でパネルにして展示してくださり誠にありがとうございます)

・2024年6月3日、札幌市スカーツコートで開催した「アイヌ音楽と伊福部昭」演奏会はほぼ100人以上のお客様をお迎えして盛況のうちに終わりました。ご来場の皆様、誠にありがとうございます。また様々な形でご支援いただいた皆様にも改めてお礼を申し上げます。

・演奏会はプログラム通り第一部―江原千咲子のピアノ演奏からスタートしました。若い世代による、しかし10年来の伊福部音楽への探求がつまった、伊福部昭「ピアノ組曲」の演奏は「日本人が書いたピアノ曲」という枠を超え、完全に音楽だけができる別次元の空間に聴衆を引っ張っていきました。

・江原による、スコアの中から純粋に早坂文雄の音楽を深めた処女作「君子の庵」の演奏。そして札幌山鼻教会時代の作品で「この曲を演奏したい!」という熱意からプログラムに組み込まれた「エヴォカシオンⅡ」が彼女自身の解説を交えて演奏されました。従来の伊福部と早坂の比較という次元ではない、札幌が生んだ音楽世界という時空を超えたものが会場で生まれました。

・休憩を挟み日高地方出身のアイヌ民族であるスズサップノ良子と有志一同という形でアイヌ音楽が披露されました。有志を構成するアイヌ民族は、出身地は道東、道央、日高方面、東北地方にわたり、それぞれの地域のアイヌ文化を伝承してきた若い世代です。

・スズサップノ良子が最初に歌ったヤイサマは安東ウメ子さんがよく披露していたもので、筆者は昔からこのメロディを聴くとすぐ涙してしまいます。その後、女性たちが歌と踊りに加わり歌と踊り:「トノトアカル」〜「ウタリオプンパレワ」〜「サランペニ」〜「スチョチョイ」〜「フミウスヤイサマ」が次々と披露されます。伊福部「ピアノ組曲」が生み出した大地の空間ではピアノの前での踊り・歌は何も違和感はありません。伊福部とアイヌ音楽の関係を最も感じたのはこの瞬間だったのかもしれません。

・ムックリを演奏する若い青年は自由自在に音を操り、即興音楽としてのムックリ演奏の可能性を大きく感じさせてくれました。

・男性一人による踊り「ク・リㇺセ」はピアノと客席の間で本来踊る場所よりも狭いという制約がありました。しかしこの制約が逆にゆったりと堂々とした踊りになり、カムイに捧げるという意味でとても厳粛な雰囲気になりました。

・再び女性たちによる「サロルンリㇺセ」。鶴の舞です。アイヌ民族衣装を優雅に動かす二人の踊り手に、歌い手はホロㇿセ(舌を活用して鶴の声を再現する独特の掛け声)で応えます。その掛け声が踊り手の気分をさらに高揚させ、全員一体の歌・踊りになりました。

・アイヌ音楽最後はスズサップノ良子による子守唄。千歳方面では「イヨンノッカ」、道東方面では「イフンケ」と呼ばれています。彼女の独唱演目の中でも人気が高いものです。最後の「イフンケ」は安東ウメ子さんが2000年に同タイトルCDを出して異例のヒットを記録したものと同じ。奇しくも安東さん伝承の「ヤイサマ」から始まり「イフンケ」でアイヌ音楽の部は終わります。

・その後、スズサップノ良子と江原千咲子によるミニトーク。スズサップノが「大好きな曲」と紹介し、江原による伊福部昭「シンフォニア・タプカーラ」第1楽章・ピアノ独奏版(田中修一編作)が演奏されます。

・その圧倒的な演奏は会場最も後方にいた筆者にもダイレクトに伝わるものでした。伊福部昭の弟子である田中修一氏による編作は、師がピアノ版を書いたら? という思いに完全に応えるものであったといってもいいでしょう。

・その余韻が冷めぬまま千歳アイヌ民族の輪踊り(よく知られる「リㇺセ」でも間違いありませんが千歳地方では「ホリッパ」と呼ばれています)を会場の皆さんと共に。知らない踊りをいきなり全員で、というのは普通考えられないかもしれません。しかもそれなりに振り付けはあります。でもアイヌ民族の輪踊りにはすぐ人を参加させる何かがあります。大きいホールでは舞台でしかなかなかできない輪踊りですが、スカーツコートでは客席全体が踊り場となり、座って見られる方も含めて一体の「作品」が生まれました。

・今回の演奏会は昨年、筆者が伊福部昭ご長女・玲さん、玲さんのご長男・帥さんを鳥取に訪ね、以前から聞いていた伊福部昭記念館の具体的構想を伺ったことから始まりました。「鳥取の記念館開設を札幌でも応援したい。それには自分たちでしかできない内容の演奏会しかない」と。そして江原千咲子という新しい世代の演奏家・研究家との出会い、何よりもアイヌ民族の皆さんのご協力があり生まれた演奏会です。伊福部玲さんには「タプカーラ」ピアノ版のスコアのご提供から、他、様々なご協力を賜り深く感謝申し上げます。伊福部帥さんには特に鳥取では本当にお世話になりました。「タプカーラ」編作者の田中修一さんには演奏家に様々なアドバイスを賜りました。この場を借りて深くお礼申し上げます。国立音楽大学北海道同調会にも感謝申し上げます。国立音大出身の江原にとって、たいへん力強い後援となりました。

・そして来場されたお客様すべてに改めてお礼申し上げます。主催者側もまだまだ反省することがありますが、まずはなんとか無事に開催することができました。ソンノ シノ イヤイライケレ(アイヌ語で「本当にありがとうございます」)

文責・山田雄司

演奏会動画報告

https://www.youtube.com/watch?v=Bq8yJU0ZAGE

https://www.youtube.com/watch?v=Oa4Ensrk7pg&t=46s


https://youtu.be/0A4lpswbHt0?


si=5JkLuH1fJ8i1luRrhttps://www.youtube.com/watch?v=XDb7YFt-11Y



開催要項

 
2024年6月3日(月) 開演18時半(開場18時)会場:札幌市民交流プラザ SCARTSコート(〒060-0001 札幌市中央区北1条西1丁目 1階)*地下鉄東西線・南北線・東豊線「大通」駅30番出口から西2丁目地下歩道より直結。徒歩約2分 こちらをご参照ください
入場料 ¥2000
主催「アイヌ音楽と伊福部昭」実行委員会
お問い合わせ先 start.hokkaido@gmail.com (山田)
後援:伊福部昭記念館(鳥取市)・国立音楽大学北海道同調会・札幌市・札幌市教育委員会・北海道新聞社

演奏会プログラム(予定)

第一部:札幌で生まれた音楽(演奏と解説)
伊福部昭「ピアノ組曲」、早坂文雄「君子の庵」「エヴォカシオンⅡ」

第二部:アイヌ音楽と伊福部昭
・アイヌ民族の歌と踊り
ヤイサマ(即興唄)4曲
全道各地のウポポ(座り歌)
クリムセ(男性の弓の舞)
・伊福部昭「シンフォニア・タプカーラ」ピアノ独奏版(田中修一編作)第1楽章
・輪踊り(最後に皆さんで輪になって踊りましょう)
*内容に変更の可能性がありますことをご了解ください

主催者挨拶

「総ての芸術は、その民族の特殊性を通過して共通の人間性に到達すべきものと考えている。音楽も同様である(注1)」―伊福部昭
 十代の伊福部にとって、音更でのアイヌ民族音楽の体験は、生涯でもっとも感動した三つの音楽の筆頭にあがるほどのものでした(注2)。同時にアイヌ音楽を真似るのではなく、民族が違うと音楽も違うことを意識し、自己に忠実に鳥取の祖先からの血液をもって札幌で本格的な作曲活動に入ります。
 伊福部は東京音楽大学で、アイヌ民族に敬意を表し民族音楽研究所を設立します。その公開講座では全道各地のアイヌ民族が呼ばれ、トンコリ演奏にはじまり、踊り、歌の披露と伊福部自身による解説、ときには伊福部作品が演奏されることも。
 その公開講座をリスペクトし、今回は最初に伊福部作品、十代の頃からの音楽仲間である早坂文雄作品、どちらも札幌の地で書かれた作品を二人の研究家である江原千咲子が演奏します。そして今を生き活動するアイヌ民族が歌、踊りを行います。最後に伊福部がアイヌ民族と交流を持った地への愛情をこめて作曲した代表作を演奏します。お楽しみください。

注1 1991年 サントリー音楽財団「作曲家の個展91 伊福部昭」プログラムより
注2 2002年 幕別のアイヌ文化伝承者・安東ウメ子の伊福部昭宅訪問時、彼女に対して伊福部自身が語った言葉。

伊福部玲氏(伊福部昭氏ご長女・陶芸家)よりメッセージ

 父伊福部昭は、アイヌがシャアンルルと呼ぶ地で少年期を過ごしました.音更村村長の父親と、当時としては珍しくアイヌに招かれ、古い行事や伝承されていた古謡をまのあたりにし、アイヌからポンニシュパと呼ばれました.昭少年はこの名がお気に入りでした.シャアンルル地方では何かあると、嬉しい時も悲しい時も酒が振舞われ唄と踊が行われ、興が乗ると即席の詩を歌い延々と踊った.是は生涯忘れ得ぬ思い出となりました.戦後余りにも観念的な音楽の溢れる中に、アイヌの、音楽に対する初原的自発性に思いをいたし 「シンフォニア タプカーラ」を書き上げました.これは父の代表作で、タプカーラの再現を試みたものではありません。ポンニシュパの親しんだアイヌの歌や踊と共にある演奏会 楽しみです。玲

出演者

ピアノ 
江原千咲子

江原千咲子プロフィール
私立国立音楽大学音楽部演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業。 久保田美絵、金子恵各氏に師事。 卒業後、伊福部昭、早坂文雄各氏の音楽に魅了され研究を始める。 2018年に初リサイタル『早坂文雄と伊福部昭』を開催。私立成田高等学校・同附属中学校音楽部主催『スプリングコンサート』では2022年に『ピアノと管絃楽のための協奏風交響曲』(伊福部昭)、2024年に『ピアノ協奏曲第一番』(早坂文雄)にて共演。 また、Youtube『ねこべ音楽ちゃんねる』では伊福部、早坂各氏の映画音楽、純音楽を演奏、解説動画を製作。『伊福部リトミカ弾いてみた!』『早坂ピアコン弾いてみた!』では練習風景も公開するなど、独自の取り組みを通して音楽の魅力を伝えている。

アイヌ音楽
スズサップノ良子

スズサップノ良子プロフィール
スズサップノ (Ainu singer) 歌を中心にアイヌ文化を伝える。ソロライブ・他ジャンル音楽家との共演、小中学校などでのアイヌ文化授業、講演。世界各地の先住民族と多数交流。ラグビーワールドカップ札幌pre-game、Tokyo オリンピック2020 公式プログラム、レバンガ北海道ハーフタイム、野田秀樹舞台「東京キャラバン」、2023 札幌雪祭り六花の祈り、G7 環境相会議札幌レセプション、等の舞台にてメインヴォーカル。2021アイヌ語弁論大会/口承文芸部門最優秀賞。2020 フランス ドキュメンタリー映画 [till tomorrow] 、AbemaTV onelive出演。育樹祭 宮殿下御前にて伝統唄披露 

アイヌ民族有志