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なまあ氏

何十年ものりびとを観察してきた私が
人生の晩年に差し掛かり、
いま最も心に残るのは、
なまあ氏である。

彼を最初に目撃したのは、小田急線だったと思う。
40代後半くらいの男性で、
普通にジャケットを羽織っているが
その下半身は
ホットパンツ&生足。

あれは短パンと呼べるレベルの短さではない。
死語だろうとホットパンツとしか言いようがない。

スラリとむき出しの足はきれいだ。
彼は確信犯だ。
自慢の足なのだ。
見せたいのだ。
その証拠に、空いている時間帯でも、わざわざホームの白線近くに立ち、
周りに視線をやりながら、
時々ポーズを変えている。

彼はヘンなおじさんではない。
下半身以外は、表情も含めて大学の先生みたいなのはどうしてなのだろう。

本当は自慢の足をメインにファッションをまとめたいのだが、
社会生活を送る上で中庸を選んだ結果が、これなのだろうか。

いや。
これは中庸ではない。
挑戦だ。

自分が自分であるために、
やむにやまれず出した生足。

私は彼を「なまあ氏」と名付けた。

その後、京王線でも見かけた。
全部で5回は遭遇している。

そして時は流れ、
あれから10年。いや20年。
通勤電車に乗らなくなった私は
彼の姿を見なくなって久しい。

なまあ氏は、いまも生足だろうか。

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