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いつかきた道

栴檀は双葉より芳し。

三つ子の魂、百まで。

この二つの諺は、
私の頭の中のカテゴリーでは、
同じ引出しに入っている。

大人になって、ある才能を発揮して仕事をしている人が、
子供の頃からその分野に興味を持っていた、または秀でていた、という事はよく聞く。

私の家族の料理人も、
小学生の時に、ホットケーキをどうしたら美味く作れるか、近所の主婦に取材して回り、焼いて弟に食べさせていたらしい。

私にはそういう「栴檀」や「三つ子の魂」はなかったのだろうか。

それが、どうやら、あったようだ。
私は昔の事を思い出せない人間だが、
なんでも努力してみるものだ。

昔から匂いの良いものに惹かれていた。
小学生の頃に「香水」という小さな図鑑を買った。
名品と言われる香水の紹介があり、
花の生産地グラースの事や、香水の作り方なども載っていた。

小学生なので、香水は買えない。身近にもない。
夜間飛行、ミス・ディオール、ミツコ…美しい瓶と、想像を掻き立てる名前から、香りを思い描いて悶々としていた、
ような気がする。

渇望のあまり、ついには、
薔薇の花びらを蒸留して、香水を作ろうとした事があった。

この夏休みの自由研究はしょっぱい結果に終わった。
ちょっと匂いのある、ちょっぴりの水しか作れなかった。
どんなイカサマな作り方をしたのかも忘れた。

その後、成長と共に、お線香、オーデコロン、オードトワレ…と、手にするようになり、
やがてある時期から、

日本には
香道というものがあるらしいという事を知る。  

そして現在、
その道の師範をしているのだから、
あのしょっぱいバラ水も無駄ではなかった気がする。

*「洋酒入門」に続く。

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