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のりびとウォッチャー

おくりびと、に似ているが、
のりびと、である。
電車などに乗り合わせた人達のことを勝手にそう名付けた。

近年はみなスマホを見ているので、
目が合う事なく、とても観察しやすい。

雰囲気、服装、動作などで違和感を感じたり、逆に、お洒落だなぁと思った人物に目が行く。

先日もそんな理由でお向かいの座席の旅行者を観察していたら、
思わぬ伏兵が至近距離から出現した。

隣席の独り言だ。
短く小さな叫び。
言葉は聞き取れなかった。

チラリと確認すると、
若者で、イヤホンをつけて楽しそうにスマホを見ている。
緊張が解けた。

大丈夫です、悪意も危険性も認められません、
…と、京王電鉄の管制に報告を終え(妄想)、穏やかな観察態勢に戻る。

こういった調子なので、
私はよく電車を乗り過ごす。

この時は無事、都営新宿線から半蔵門線に乗り換えたが、
まさかの「独り言2連発」に遭遇した。

会社員風の男性が隣に座ったのだが、
彼は、もにょもにょと
マスクの中で絶え間なく何事かを喋り続けている。

ちょいヤバか?
チラリと目をやるが、
目つきはごく普通の人だ。
プレゼンの練習か?
祝辞のリハか?

私もよくドア前に立ち、外を見ながら、落語の稽古をしている。
唄も歌っている。

同類なのかどうか、
マスクの中のセリフを確認する術もなく、彼はすぐに電車を降りた。

さて、
時々は私も電車内でスマホを使う。
先日、ひとつメールを送信し終わり顔を上げたら、
斜め向かいに座っている男性が、
こちらを見てうっすら笑っていた。

これはしたり、と思い、
観察返しをしたのだが、
印象的だったのは彼の持ち物だ。
透明なビニールバッグに、展示品のように着せ替え人形が入っている。

じわりと興味が湧いたが、
この人はすぐに降りてしまった。

彼は私の何に笑いを誘われたのだろう。

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