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途中下車は狸坂で
東北への帰郷、その道程では
トイレの近い家族の度重なる休憩に
焦りまくって不機嫌にすらなっていた私だが、
そのバチが当たった。
今度は遠州への旅の際、
浜松駅で一人新幹線を降りた私は
バス停に向かって軽快に歩き始めた矢先、
己の感覚に不信を抱いた。
15分前に小用を済ませたばかりではないか。
この、トイレに行きたい感はなんだ…?
錯覚に違いない。
そう思ったが、
この判断が間違っていた事は言うまでもない。
バスターミナルに行くと、ちょうど目的地行きのバスが止まっていた。
迷わず乗ったはいいが、
15分後、いまや錯覚ではあり得ない切迫感が私を追い詰める。
なぜ、己の感覚を信じて駅で済ませておかなかったのか、自分。
…と、いい年をして小学生のような後悔に苛まれる。
車内のバス路線図を
首を伸ばして確認。
そして絶望する。
あと30分はかかる。
バス停を降り、前かがみに小走りしながら、真っ青になって宿に駆け込む未来予想図が走馬灯のように頭を駆け巡る。
それは、いやだ。
安らかな気持ちで、湖の景色に出会いたい。
その時、天啓のように
車窓から「この先300mにセブンイレブン」という看板を目撃する。
運賃を確認。350円。ある。
しかも誰か降りるとみえて停車ボタンが押してある。
こうして、
迷わず降りた狸坂。
まだ余裕を持って入店できた
広くて綺麗なセブンイレブン。
洗面所も清潔。
セブンイレブンにこんなに感謝した事はない。
心まで洗われた気分で個室を出た私は
お礼にしては、ささやか過ぎる小物を買って店を後にした。
次のバスが来るまで割と待ったが、
そんな事はどうでもよい。
1時間でも待てるし、文句も言わない。
そして、今後、家族がトイレ休憩して移動に乗り遅れても、決して不機嫌になるまい。
狸坂で私は生まれ変わった。