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|ROOM 3C|YAYACO YONEYAMA

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サロン「香水談話室」を主催するイラストレーター・ヨネヤマヤヤコの小部屋。
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YAYACO YONEYAMA|苦艾酒香水《2》ルタンスの文法

上写真セルジュ・ルタンス スペシャル リミテッド〈ドミノ〉(霧とリボン所蔵/Photo: Mistress Noohl) セルジュ・ルタンスドゥースアメール アブサン(ニガヨモギ)、シナモン、ティアレ、マリーゴールド  ドゥースアメールのパウダリックな質感はモロッコの石灰を塗った粉白壁のよう。斬りつけるような強烈な日差しから濃く影を落とす館に逃げ込む。回廊を巡り古びた調度品と書物が無限に並ぶ書斎に誘われる。ひんやりと薄暗い部屋には煙草の残り香も漂う。埃にまみれた古い本

YAYACO YONEYAMA|苦艾酒香水《1》緑色の血

アブサン時間5時半をすぎた頃に始まり七時半をすぎる頃には終わる 丘の上では終わりを見ない(H.P.ヒュー)  エデンの園から追放された蛇が通った小道に生えていたニガヨモギ。 長い歴史の中では強壮食欲増進効果や解熱、虫下しなどに処方される地味な薬草でした。スイスに自生していたアルテミシア・アブシンチウム(学名)を発見したフランス人医師により、霊薬とされる薬草136種を配合したアブサンが誕生したのは1792年。元々は自分用に処方万能薬として評判になり「緑の妖精」と呼ばれ親しまれ

YAYACO YONEYAMA|両性具有香水《1》曖昧なジェンダー

 かつての「ユニセックス」から「ジェンダーレス」に。  「ノンバイナリー」も含めた「アンドロギュノス」へ。  プラトン『饗宴』にある第三の性としてのアンドロギュノス。  男と女がくっついた完全体を目指せたら。  男でもなく、女でもない、あるいは、男でもあり、女でもあるそんな思いを込めて第2回目の香水談話室(2019年12月15日開催)では「両性具有香水」をテーマに掲げました。  アンドロギュノスとはギリシャ語で男性を意味する「アンドロ」と、女性を意味する「ギュノス」からつく

YAYACO YONEYAMA|菫色香水《3》パリの女王 ミシア・セール

 シャネル に「唯一の友」と言わしめたミシア・セールの名を冠した香水があります。  ミシア・セール。旧姓ゴドブスカ。  ポーランドに生まれ幼い頃リストの膝の上でピアノを引いていたやんちゃな少女はピアニストとなり、フランス新聞王の妻となり、前衛芸術家たちのパトロンとなりました。  ミシアの最初の夫であるタデ・ナタンソンは芸術雑誌『ラ・ルヴュ・ブランシュ』を創刊した気鋭の編集者。ミシアは雑誌の表紙を飾っていただけではなく原稿にも目を通し、毎晩のように展覧会やコンサートに出

YAYACO YONEYAMA|菫色香水《2》香水をつけるときは、リボンをつけるように

 菫色の小部屋に伺う時はいつも〈アニック・グタール〉ラ ヴィオレットをつけていきました。わたしなりの菫色のドレスコードのつもりでした。 アニック グタール ラ ヴィオレット ヴァイオレット・ヴァイオレットリーフ(葉)・ヴァイオレットステム(茎)・トルコローズ  アニック時代の香水瓶は金色のイメージ。ころんと丸みを帯びたゴールドのキャップにプリーツが施された紡錘体の硝子瓶にほぼ統一されていましたが、それぞれの香りのイメージによって色と質感が違っていたのです。リボンも基

YAYACO YONEYAMA|菫色香水《1》グランヴィル『花の幻想』

 2019年8月に開催した《香水談話室》第1回目のテーマは菫色香水。脳裏に浮かんでいたイメージはグランヴィルの描いた菫です。菫は太い地下茎を伸ばしコロニーを形成しながら広がって育ちます。密やかに組織網を広げていくかんじがして菫色連盟にぴったりだと思っておりました。  菫の花言葉は「modesty(謙虚)」「faithfulness(誠実)」。ギリシャ神話ではアポロンに見初められた慎ましやかな乙女が求愛を拒むために菫の姿に変えてもらった、あるいはゼウスが思いを寄せる少女イ

YAYACO YONEYAMA|秘密の花園

「どんな香りが好きですか?」 と尋ねられてうまく答えられない香水遊歩者へ—— 香りを纏うのと同じくらい 香調表現に陶酔することが好きな香水文学者へ—— 纏う香水と鑑賞する香水が共存する香水愛好者へ——  はじめまして。  この度アイリーン・アドラー率いるカルチャー・ソロリティ「菫色連盟」東京支部でのお留守番を請け負いました《香水談話室》主宰のヨネヤマヤヤコです。  幼少期書物で出会ったポプリにはじまり、南国で体験した香辛料や香油、思春期に自ら選ぶようになった香水—— 嗅