『夜空ノムコウ』をSMAPが歌いKinKi Kidsが別の道を選んだワケ
突然だが言いたい。
SMAPの『夜空ノムコウ』ってめちゃくちゃKinKi Kidsっぽくありませんか?
哀愁漂う曲調、胸を締め付ける切ない歌詞といったアイドルらしからぬしっとりとした曲。
「あれからぼくたちは 何かを信じてこれたかなぁ…」
「君が何か伝えようと にぎり返したその手は
ぼくの心のやわらかい場所を 今でもまだしめつける」
この繊細な歌詞と儚いメロディはKinKi Kidsでもヒットしたはずだ。
事実、『堂本兄弟』やジャニーズカウントダウンコンサートで、KinKiの2人はこの曲を披露している。そしてとてもピッタリだ。
時は1998年1月。SMAPもKinKi Kidsも飛ぶ鳥を落とす勢い。
『SHAKE』などのように明るい曲や『$10』のようなクラブミュージックが印象的なSMAPが『夜空ノムコウ』を代表曲にした訳は?
そこにSMAPとKinKi Kidsの違い、ひいてはSMAPのマネージャーとKinKi Kidsをプロデュースしたジャニーズ事務所のあの社長のアイドルに対するスタンスの違いが浮かび上がる。
SMAPは国民的アイドルであり、紅白の司会も務めた。SMAPマネからしたら、国民的な存在になるには「歳を取らせる」必要を感じていたのだ。
やんちゃな少年から爽やかな青年、憂いも知った上で笑うイケオジになる。その行程を経なければ、お茶の間公認のタレントにはなれない。
だからSMAPは『夜空ノムコウ』で青年になり、『らいおんハート』でプロポーズし、『世界に一つだけの花』で多様性を示した。『Triangle』に至っては世界平和まで唱えた。
こうして振り返ると、SMAPはしっとりした曲が要所要所で表題曲になっていることが分かる。
もちろん後半に『グラマラス』のような恋の歌もあるが、その曲を押し除けたA面曲は「恋」ではなく「愛」を歌った『This is love』である。
対してKinKi Kids。彼らは事務所社長の秘蔵っ子であり、キャプテンはおろか、エースの役割まで免除された節がある。
国民的アイドルでありながら、紅白の常連ポジションはSMAPや嵐が担い、KinKiの2人はユニットとソロ活動に専念できた。
しかし、常に最高級の曲を与えられる代わりに「オリコン初登場1位」を義務付けられた。これはお茶の間に親しまれるより遥かに重い十字架であり、当人たちのプレッシャーも想像を絶する。
KinKi Kidsのアルバム曲には、他のグループならシングル表題になっておかしくない名曲が揃う。
『欲望のレイン』『Bonnie Butterfly』『雪白の月』『愛のかたまり』など。
そこには、いつまでも青春を残して世界観を表現してほしいというプロデューサーの思惑がある。
私は、SMAPの『青いイナズマ』とKinKi Kidsの『欲望のレイン』は対をなすと思っている。
どちらも同じ、恋人を奪われた疼きをサビでは「青いイナズマ」とキャッチーに歌うSMAP。冒頭から「欲望は拒まれて」とはっきり官能的に表すKinKi Kids。
幅広く受け止められ、ハッキリと歳を重ねて「大人になるアイドル」で唯一無二となったSMAPと、いつまでも「少年」の面影を残しながら、同時に大人の色気と思索を纏うKinKi Kidsは、平成の日本が生んだ2つのアイドルの在り方の極地だったように思う。
直属の先輩後輩に当たる彼らの関係性の良さは、真逆のことを成し遂げた互いに対するリスペクトもあると思う。
今はジャニーズ事務所からSMILE-UP.になり、その事務所から木村拓哉を除くSMAPメンバーもKinKi Kidsの堂本剛も退所した。しかし、それぞれの才能が令和の今も輝いていることはファンとしては嬉しいものだ。
願わくば、このままKinKi Kidsが続き、SMAPメンバーの邂逅も見たいが、そこは「幸せならOKです」精神で応援したいものである。