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乃木坂46のアンダラが生んだ多様性

乃木坂46は「選抜」だけでなく「アンダーライブ」
略して「アンダラ」の活動が注目されている。

この「アンダラ」の良いところは、このグループに属するメンバーたちを単に表題曲のシングルメンバー選抜から漏れた「2軍」として扱っていないところにある。これは、アイドルとしては珍しいのではないか。

アンダラ制度の最大の功績は、独特な魅力を持つアイドル、特に林瑠奈や中西アルノのようなタイプを乃木坂メンバーとして所属しながら彼女たちの活躍の場を残したことにあると思う。

そもそも、ルックスは全員が華のある乃木坂メンバーのアンダラ組が選抜組に負けない抜群の歌唱力やダンススキルがあることが大きい。本人たちの実力で脚光を浴びたのだ。

その中でも、林瑠奈と中西アルノの乃木坂のカラー以外も色を見せられる才能をグループに抱えられたことは大きい。

個人的には林瑠奈の『THEゴールデンコンビ』と中西アルノの『Spicy Sessions』への抜擢のみでお釣りが来るくらいだと確信している。

昔からアイドルグループ、特に若さが人気や活躍期間に大きな影響を与える女性アイドルには露骨な「格差」があった。

モーニング娘。の初期はそれをエンタメにしていた節があるし、AKB48に至っては学年テストかと思うほどの順位付けが残酷なコントラストになっていた。

難しいのだ。アイドルである以上、どうしても華があるかどうかは一目瞭然なところだからだ。

ではなぜ乃木坂46は選抜とアンダラの2つの活動を成り立たせたのか。

これは意外な事実だが、ルックスの良いメンバーに拘って集めたことによると思う。

そうすることによって、少なくとも外見によるスター性の格差をほとんど無にした。アイドルにとって一番の壁「あの子の方が可愛い」を取っ払ったのだ。

そして、坂道グループでも人数やメディア露出の機会が最大なため、文字通り「チャンスは平等」というわけである。

ダブルセンターだった山下美月の朝ドラや久保史緒里の大河ドラマ出演だけでなく、同期の中村麗乃の舞台での活躍も可能とした。

くどいようだが、その最たる飛躍が林瑠奈と中西アルノだと思う。

林瑠奈は『ノギザカスキッツ』でやかんだけで大喜利を求められた際、バスケットボールのようにやかんを足で潜らせながら、

「これほんまに時給3,000円ですか?」

と聞いて、さらば青春の光の森田に、

「彼女だけ角度が違う」

と唸らせた。芸人同士というか、同業者が感心するセンスである。そして『乃木坂スター誕生!』ではその歌唱でMVPと呼ばれた。

多才でセンスがある関西型思考。女性ファンの多い宝塚のようなクール系の見た目とスキルを持ちながら、乙女チックでぬいぐるみ好きという性格のギャップ。

『ゴールデンコンビ』でも、下ネタには苦笑して、ライトな笑いには適度に食いつき、出番を与えられたら流暢に喋る。頭の良さが完全に出ていた。

『ゴールデンコンビ』で林瑠奈の魅力に好感を持った人は多いようだが、私のように林瑠奈を見たくて、この番組を見て楽しんだオタも多いようだ。

そして、中西アルノ。彼女の圧倒的な歌声は『Actually...』で一目瞭然だった。その後も外番組や『超・乃木坂スター誕生!』はもちろん、冠番組『乃木坂工事中』のカラオケ歌唱の時ですら見せ場にしてしまう。

彼女の歌声は、上手さにプラスして表現力があることが素晴らしい。歌詞の内容を解釈していることがわかる。齋藤飛鳥がダンスで表したことを中西アルノは歌という一番分かりやすい形で伝えてくれる。

『真夏の太陽』のカバーを聴いたファンがYouTubeのコメントに「この子には本当に好きな人がいたんだと思う」と書き込んでいた。

アイドルだって人間だ。芸能人だからといって恋をしたことのない人などまずいない。詮索するのも野暮な話だが、彼女の歌声を聴くとそのコメントを思い出す。

林瑠奈と中西アルノ。2人には「物語」がある。

アイドルとは自分がなるべく清廉になり「余白」を作る。その余白をファンがお金を支払い、塗りたくる。

選抜メンバー常連の賀喜遥香の写真集のタイトルのように「まっさら」であることがアイドルの正統派で、自分で物語を作ってしまうタレントは、余計なことをしたと外されてしまい居場所がなくなるのが常だった。

しかし、林瑠奈は『アトノマツリ』のMVを編集し、中西アルノはゴスペラーズと平成の名曲を自分の声で歌った。

2人とも言語化が上手く、特に中西アルノの音楽や歌声に関する評は堂に行っている。

この「面白い女の子」の活躍は、乃木坂テイストの期待を裏切らない正統派アイドルの遠藤さくら、賀喜遥香、井上和たちの安定したパフォーマンスに支えられている。

表題シングル曲にもカップリング曲にも魅力があることと同じように、乃木坂らしいメンバーと、少しそのテイストから外れたことでより輝く才能の両立が今の乃木坂46の魅力である。

乃木坂46の多様化は、「全員可愛い」ことにより広がった。ルッキズムと批判されることもあるが、悪いことばかりではないのだ。

個人的には、正統派アイドルの賀喜遥香がもっと「脱線」する姿が見たい。関西人を親に持つ彼女のトークはとても面白い。

少し制御している彼女の封印を解けば、卒業後のキャリアにも繋がりそうだ。そんなおせっかいなことも思ったりしている。

一期生は偉大だけれど、乃木坂は今も面白い。

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