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猫のこころ

一度掲載した記事ですが、多少内容に手を加え再アップしました。
私にとって大切な思い出の一つです。


<ニャン太郎との出会い>

 私は小学生の頃、猫を飼っていた。名前はまだないではなく「ニャン太郎」という猫らしい立派な名前があった。この名前で犬だとしたら、主人はよほど天邪鬼の人間であろう。
 
 ニャン太郎は元は野良猫であった。今は猫を飼うのにペットショップでの出会いが一般的のようだが、昭和40年代頃までは野良猫、野良犬がうじゃうじゃいた。
 そして、彼らは気に入った家があるとゴメンナサイネとばかりに、勝手に上がりこみ、そのまま居座ったものだ。ニャン太郎もその一人だ。この表現が正しいかどうかはわからないが、すぐに家に溶け込み、家族の一員になった。
 

<ニャン太郎の日常>


 ニャン太郎の一日は私の布団から始まる。何故かというと、何時も一緒に寝ていたからだ。
起きたら顔は洗わない。歯も磨かない。それは仕方がないのかもしれないが、すぐにご飯を要求する。目の前に大好物の鰹節が入った茶碗が差し出されるまで、ニャーニャーと鳴き続ける。そして、頂きますも言わないで凄い勢いで食べ始める。少しは感謝して欲しいものだ。
 何故かというと、ご飯の鰹節は私が削ったものだからだ。袋詰めの既製品と違い、鉋のような鰹節削り器を足の間に挟みギコギコと削る贅沢な一品。
それを主食にしたニャン太郎はグルメの猫になった。
 グルメはグルメらしく、品よく食事をして欲しいものだが、私が手を出そうものなら、ウーウーと唸り声を上げ睨みつける。この時ばかりは野生の本能が目覚めるのであろう。
 
 朝食が済むと毛づくろいを始める。あちこちペロペロ舐めてリラックスしている。
 30分程そうしていると、飽きたのか起き上がり、家の中を歩き始める。それが散歩に行こうとの意思表示なのだ。それでも、こちらが出掛けようとしないと、今度は激しくニャーニャーと鳴き散歩をせがむ。
 
 散歩は犬の特権だと思っている人がいれば、それは大間違いだ。グルメの猫は犬並みに散歩だってするのだ。
私が玄関で靴を履くと「よっしゃ」とばかり、私の横で出陣の準備を始める。そして、玄関のドアを開けると勢いよく駆け出る。
 
 犬の場合はお気に入りの道があり、毎日同じコースを歩いていくが、ニャン太郎は私が何処に行くのか玄関前で座って待っている。そして、私が歩き出すと私を追い抜き、まっすぐ走っていく。
 その先に交差点があると、どちらに行くのかしら?と考えているのか、その場に座って私を待っている。
 
 私が交差点を右折すると、ニャン太郎は立ち上がり、右に曲がり、再び私を追い抜き、次の曲道まで全力疾走するのだ。そして、その場に座り私の到着を待つ、これが私とニャン太郎の散歩なのだ。
 田舎道で今と違い、走っている車がほとんどないため、交通事故の心配もない。このように、毎日のびのびと過ごしていたものだ。
 
 ところで、昔の家の廊下には雨戸を収容する戸袋があった。
ニャン太郎が外で遅くまで遊びまわり(別に門限があるわけではないが)、玄関が閉まってしまった時、玄関を開けてくれとニャーニャー鳴いてせがむのではなく、蓋がない戸袋の上から家に入るルートを通り、そこから入るのだ。
 
 夜、私が寝ていて、ガリガリと木製の戸袋を駆け上がる音が聞こえるとニャン太郎が帰ってきた合図。
戸袋の上から入り、ストンと廊下に飛び降りる。そして、私が布団を少し上げると、布団に潜り込み、奥まで進み、私の足元でユーターンして来て、私の腕にチョコンと顔を乗せ、グルグルと鳴いて眠りに入る。
 翌朝、私が起き布団を上げると、布団の中間程に人間のように真っすぐに伸びて眠っている。
 
 この戸袋だが、外から家に入るだけでなく、逆に家の中から外に行くこともできる。ニャン太郎が夜中に利用するときは、大抵トイレに行くときだ。ニャン太郎のトイレは家の中にない。家の前の畑がトイレになっている。
 
 ある日、父親がニャン太郎を抱いていて、なかなか放してくれなかったために、トイレが間に合わなかったことがあった。何とか父親の手をすり抜けて戸袋に一目散に向かったものの、間に合わず、戸袋を駆け上がる途中で、戸袋の中に撒き散らしてしまった。
 哀れ、ニャン太郎は母親に捕まり、頭を何度も何度も叩かれた。その間、耳を閉じて必死に耐えていた。これは冤罪ではないのか。父親が手を放していたら間に合ったであろうに。鳴くこともせず罰を受けていたニャン太郎が可哀そうになった。
 
 話は変わるが、ニャン太郎は自分の名前を理解していたようだ。
ニャン太郎と呼べば、必ずニャーと返事をする。単に鳴いただけではないのかと諸君は思うかもしれない。だが、違うのだ。
ニャン太郎の他にも野良猫はいた。その中に私が可愛がっていた黒猫がいた。黒猫は家猫にはならなかったが、時々、家の近くで見かけた。
 
 ある日、黒猫とニャン太郎が出会ったことがあった。私は喧嘩になるか心配だったが、両猫は喧嘩をすることなく、じっとしていた。私の右側にニャン太郎、左側に黒猫がいた。
 そして、私がニャン太郎と呼べばニャン太郎がニャーと鳴き、黒猫と呼べば黒猫がニャーと鳴く。それを何度か繰り返したが、両猫とも間違うことなく返事した。このことからもわかる。
 

<ニャン太郎との別れ>

 ニャン太郎との思い出は尽きない。
ニャン太郎と過ごしたのは僅か3年間程であったが、私が飼った最初の猫だっただけに思い入れはある。
 
 私が6年生になった頃、ニャン太郎との別れの時がきた。お嫁さん探しに外出することが多くなったのだ。
 最初の頃は、一度出ると一週間ほどで戻ってきた。が、やがて、一週間が一か月となった。
 一か月ぶりに帰宅したニャン太郎は痩せこけ、真っ黒に汚れていた。お嫁さんが見つかったかどうかは聞くことは出来なかったが、帰るなりご飯をねだった。おそらく、ほとんど食事もせずにいたのであろう。
 
 家に帰り一週間ほど経つと、毛並みも奇麗になり、ふっくらとしてきた。その後、ニャン太郎は長期出張を二回繰り返した。
 そして、ある日の朝のことだった。ニャン太郎はいつものように朝ごはんを食べ、台所から外を眺めていた。この頃には台所から外に出ることが多くなっていた。
 
 いつもだったら、すぐに外に飛び出していたのだが、この日は違った。外を眺めてじっとしていた。出るかどうか迷っているようだった。私の視線を感じたのか、ニャン太郎はチラッと私を見た。そして、明るい外の光に向かって、勢いよく飛び出していった。それが、私がニャン太郎を見た最後だった。


私が書く文章は、自分の体験談だったり、完全な創作だったり、また、文章体も記事内容によって変わります。文法メチャメチャですので、読みづらいこともあると思いますが、お許し下さい。暇つぶし程度にお読み下さい。今後とも、よろしくお願いいたします。