たんぽぽのポ
ポッポッポッポッたんぽぽのポッ・・・子供が保育園に通っていた頃、よく口ずさんでいた。タンポポの綿毛が風に乗って飛んでゆく様を歌ったものらしい。先日、そのメロディーが思わず口をついて出た。ポッポッポッポッ・・・たんぽぽでなくて、私の腕の皮膚が風に乗って飛んでいってしまったのだ。あ~あ、もったいない。
これを読んでいる人は、何のことか、さっぱり意味がわからないに違いない。皮膚が飛んでいったって?オカルトか?何処で?どんな状況で起こったのか?そこに興味を持つであろう。だらだら文章で申し訳けないが、順を追って説明しよう。
ゴホン! 私は海釣りに行ったのだ。
そこは神奈川県の某海釣り施設。その日は六月にもかかわらず、気温三十度近い真夏日。天気予報では雨模様の一日ということだったので、日焼止めの準備はしていなかった。釣り場の柵に乗せていた私の両腕は、見る見る間に赤く変色していった。
男は浅黒い方が男っぽいと言われているが(?) 私は色白で紫外線にえらく弱いのだ。赤く焼けた部分と真っ白い部分のコントラストが見事である。これでオリンピックに観戦に行ったら、そのままで、紅白の日の丸みたいで、声を上げて応援する必要がないかもしれない。
そんな私だから早々に切り上げて帰ればいいものの、魚に見捨てられてしまったかのように、全く魚が釣れなかったため、夕方六時まで粘ってしまった。朝六時からだから、何と十二時間釣り場にいたことになる。
その結果、家に帰ってからが、大変だった。風呂に入って、腕を湯につけたら、私は瞬間的に腕を上げた。ヒリヒリして痛い。腕を洗うなどとんでもないことだ。これを医者に見せたら、火傷何度になるのだろう。それほど悲惨な状態になってしまった。私は風呂からあがり、傷薬の軟膏を腕にすり込んだ。それから数日間は痛みが消えなかった。
その一週間後、よせばいいのに、性懲りもなく、私は海釣りに出かけていった。今度は準備万端で、日焼止めクリームをたっぷりと両腕に刷り込んでおいた。
この日の釣り場も太陽光が降り注ぎ、真夏日となってしまったが、私は意気揚々と釣り場に立った。問題はそれからである。前回のように過度に焼けることはなかったが、皮膚が痒くなり、私は思わず、腕を掻いた。すると、私の腕から何かが飛び立った。最初それが何だか、わからなかった。
掻いた部分をよく見ると、何と皮膚が剥けていたのだ。そして、私の皮膚は風に乗って、ふわりふわりと飛んでいった。たんぽぽならば、遠くまで飛んでいって、何処かに綺麗な花を咲かせておくれ!となるのだが、私の皮膚では花を咲かせることは、ちょっと無理かもしれない。私は飛んでいった愛しい皮膚の行方を目で追っていった。すると我が皮膚君は隣で釣っていた人の頭に着地したのだ。
私はどうしたらいいのか分からなかった。すみません、私の皮膚を返して下さい・・・とも言いにくいし、困ってしまった。私は無言で、その人に向かって一礼した。その人は何故、私が頭を下げたのか分からず、目をキョロキョロさせていた。
その人が家に帰ったら、奥さんが「あなた髪に何か付いているわよ」と言って手で摘むことだろう。でも、それが一体何か分からずに、ご主人と顔を見合わせて、科捜研に分析依頼するに違いない。そして、数日後、フワフワの正体が判明したら、どのような行動に出るのだろうか?
釣り施設の防犯カメラを見て、某日某時間に誰が隣にいたか、確認するだろう。そして、犯人(?)が隣で頭を下げていた私と判ったら、慰謝料を請求されるかもしれない。それとも、フワフワ皮膚を持ち主の私に返してくれるかも。そうしたら、10%程ちぎってお礼として、渡そうかな。