吉川裕介『限界分譲地』(朝日新書)を読んだ
吉川裕介さんの『限界分譲地』を読んだ。私は2年くらい前から著者のブログの読者で、YouTubeチャンネル開設時からの視聴者でもある。
70年代に主に投資を目的として開発された千葉の分譲地について、実際に移住した著者によるレポート(湯沢のリゾートマンションや原野商法についての章もある)。都市や農村、大規模なニュータウンと異なり、実際に住む人が多くなく、これまで注目されてこなかった場所だが、間違いなく日本の現代史の一つの場所・風景:限界分譲地について、長年の調査の結果が丁寧に述べられている。そもそも資料自体が少ないので、論文的な体裁ではないが、著者のYouTubeやブログを見れば明らかなように、新聞広告の調査や関係者への聞き取りなどの裏付けはしっかりとしており、資料としての価値も高いと思う。
70年代といえばすでに50年前のことになり、関係した会社の多くは解散し、土地を購入した人たちも高齢になり相続も進んでいる。誰かを糾弾したり、悪とするのではなく、その当時の状況を掘り起こし、冷静に分析したうえで、現在困っている人に寄り添う立場の吉川さんの語りには、どこか昔読んでいた民俗学の本の感があった。
私は親戚含め土地への投機にも、郊外の住宅地への移住もなく、全く知らない世界だったので、新たな現代史を知ることができた。
また、内容と直接は関係がないが、吉川さんの文体は一文が長めで、その分接続しが少ない感があり、話し言葉を読んでいるようで読みやすい。率直に言って好き。
現代史に興味のある人や、関東在住など多少の土地勘がある方には特に興味深く読めるのではないだろうか。
【吉川さんのブログ、YouTube】
【著書】