暴力

 ゴミ箱に入れられた。それは中学生の時の記憶。自分の記憶だけれど、遠くに見える。私がいた学年は優秀な代だったらしい。皆真面目に勉強するそうだ。全寮制で、夜の11時まで寮の監督がついて見張られる。

 小学校から一緒だった女の子は、私の水を飲む音が嫌いだった。
 「どうしてそんなに音が鳴るの?」
 「静かに飲めばいいのに」
 やんわりと皆んな、私のことを鈍臭いと思っていた。学校までの坂道の角度が、毎日上がっていった。保健室に行って、授業から逃げた。

 「大丈夫だから、行けばいいんだって」
 保険医が私を教室へ押し込めた。すると、クスクスと皆んな目を合わせて笑った。ああ、大丈夫じゃないんだ。暫くして、私はゴミ箱に入れられた。

 「ねえ、膣の深さ何センチ?」
 今年の夏、私はそんな事を聞かれた。
 「あの人とヤったの?」
 ニコニコしなきゃいけなかった。けれど、何だかおかしいと思った。ずっと尊厳を失っている気分だった。ずっと。

 「私、絶対鬱になると思う」
 私はどの大学に受かってから、母にそう言った。鈍臭くなるのが怖かった。みんな出来る環境になんか居たくない。切磋琢磨するのなんて嫌だ、陰で私を馬鹿にするに決まっている。中学の時みたいに。

 その予感は的中した。デッサンの話ばかりする同級生がたくさん居た。浪人年数は?今まで何をして来たの?どのくらいかけるの?

 大学に入って、私はアートなんか絶対しないと思った。そんな競争ばかりのところを好んできたんじゃないんだよ、そう。そう。

 私は、尊厳を取り戻すために動いてきただけなんだ。苦しかった、ずっと。下着を盗まれる夢をずっと見る生活ももう辞めたかった。無理矢理学校に行かせようとする保険医が、私の服を捲った事を絶対に忘れない。体育祭の時に、私の胸を揉んだ事を意気揚々と自慢する名前も知らないあの人を絶対に許さない。一度苦しんだら、もうずっと苦しまなきゃ行けないこの世の中を、絶対に許さない。

 けれど、彼が私を連れ込んでから、ずっと毎日がおかしい。

 あの日の事は、何故だか空からしか思い出せない。大学生らしい思い出だね、とあの女の人は言った。大した事じゃないよ、とあのおじさんは言った。

 でも、私には大きな挫折なの。少しずつ希望を持とうとしていたのに、まだ無理だったのは、いくら何でも辛すぎるみたいだ。

 私の作品を評価される時、身が張り裂けるみたいに辛い。思い出した、私が作っていたのは作品なんかじゃないんだ。

 過去のトラウマと、ずっと向き合ってきただけなんだ。ずっと、ずっと。

 私は自分が好きだ。まだ生きようとしている自分が好きだ。苦しみから逃げない自分が大好きだ。

 毎日薬を飲まないと頭がグラグラして眠れないけれど、それでも私は頑張ってるよ。また、何かと闘えばいいさ。暖かいミルクでも飲みながら。

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