フランスクイズ✖️カードゲーム 解説記事

どうも、小企画長のテルルヨウ素です。
さて、文三19組駒場祭企画の「フランスクイズ✖️カードゲーム」をお楽しみいただけたでしょうか?

この記事は、当企画に用いたクイズの解説と、当企画作成者による雑記からなります。ご参加いただいた方は、お時間のある時に、ぜひ最後までご一読ください。

もし、このページにたどり着いた方で、まだ当企画に参加していない方がおりましたら、当記事の本編をお読みになる前に、ぜひ駒場祭期間中に532教室にお越しいただき、当企画に実際に参加していただけると嬉しいです。ありきたりなフレーズですが、「百聞は一見に如かず」ですから。

〜本編開始〜


①クイズの解説

では早速、20組の問いと答え、さらには1枚のダミー(?)からなる各ペアの写真とともに、クイズを一問ずつ振り返っていきましょう。作成にあたって様々なひっかけを設計したので、問題文と答えを縦方向に見比べて、組み合わせうるペアについて吟味してみても面白いかもしれません。

(おことわり:クイズの方はしっかり裏取りを行ったつもりですが、クイズ研究会所属経験のない筆者が作成していますので、多少の違和感はおおめに見てください。また、この記事の内容も正確性には気を遣っていますが、誤っている情報がゼロだとは保証しかねます。ご了承ください。)

1. Q.ババ抜きや神経衰弱などの遊び方ができるカードゲームの名前は、フランス語では何という?--- A.Cartes à jouer

実は、欧米の多くの国において「トランプ」がそのようなカードゲーム自体を指すことはありません。英語の場合は”Playing cards”、または単に”Cards”でも、日本語の「トランプ」の意味になります。フランス語の場合、”cartes”が「カード」、”jouer”が「遊ぶ」という意味になり、直訳するなら「遊ぶためのカード」といったところでしょうか。字義的には英語に似ていますね。一方、英語で”Trump”とは「切り札」という意味があり、一説では、明治時代初めに日本に来ていた外国人がカードゲームで遊んでいる際に、「Trump(切り札)!」とシャウトしていたのを聞いた日本人が勘違いして、カードゲーム自体をトランプと呼ぶようになったともいわれています。

2. Q.フランスで開催されたG7(サミット)のうち、最も直近のものに出席した米国大統領は?--- A.Trump

G7(主要7ヶ国首脳会議)は現在、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7ヶ国が、この順に主催地持ち回りで(原則)年一度開催されています。2023年には日本にて広島サミットが控えていることは知っている人も多いかもしれませんが、そこから順に数えていくと、2019年にフランスで開催されていることが分かります。この時の米国大統領はドナルド・トランプ氏です。まあバイデン氏やオバマ氏などといった選択肢は今回のカードにはないので、時期は別に大事でもありません。注意してほしいのはむしろスペルであり、トランプ氏は”Trump”と綴るということが正解を出す鍵になるでしょう。

3. Q.このイラスト(いらすとやの「貨物船」)は何を表している?(答えはフランス語)--- A.Tramp

一字でもスペルが違うと意味は大違い。フランス語の場合、”Tramp”とは「不定期貨物船」の意味になります。とはいえ、とてもマイナーな単語ではあるので、当企画の中では最後の方に消去法でペアを揃える問題になってくるでしょう。ちなみに、英語の場合だと”Tramp”は「浮浪者」という意味になります。ですから、間違えて英語で”Let’s play tramp!”などと言ってしまうと、「浮浪者ごっこをしよう!」とかいう恐ろしい意味になってしまいます。言うなら”Let’s play cards!”で英語圏の友達を誘いましょう。

4. Q.この写真が表しているフランス菓子の名前は?--- A.ババ

ババ抜きが原型ですから、ババを入れました。まあこんなに分かりやすく「ババ」と書いてあるカードはどうせ何かの答えだろう、とメタ読みされるのも想定内ですね。ババは18世紀にフランスのロレーヌ地方で誕生したフランス菓子です。一説では、歯痛に苦しむとある公爵が、乾燥して硬くなったパンを食べやすくするために、ラム酒に浸して食べたことから作られたといわれており、現在は生地を円環型または円筒型の型に入れて焼き上げ、ラム酒風味のシロップをしみ込ませたケーキのような菓子として知られています。ちなみに、洋菓子の「ババロア」とは何の関係もありません。

5. Q.写真のジュースを販売している、フランス国内で有名な飲料会社の名前は?--- A.JOKER

ババ抜きが原型ですから、ジョーカーも入れました。もちろんこれも答えカードなのです。日本では知名度がさほど高くないようですが、JOKER社のジュースはフランス国内でも輸出先でも「高級ジュースの代名詞」と言われるほど名を馳せているブランドです。とあるサイトの商品紹介を見ていると、この写真にある100%ブドウジュースをノンアルコールワインと称していました。恐るべきフランスのワイン文化。

6. Q.中世フランスの偉人、カール大帝がモデルとなっているイラストはどれ?--- A.ハートのキング(絵柄)

トランプ感を出すために、絵柄を1枚そのまま入れました。20枚の答えカードのうち、唯一のイラストをペアにすればいいので、実質的には1択クイズのような問題でした。実は、トランプのキングは全てモデルとなっている歴史上の人物が存在しており、スペードはダビデ王、クラブはアレクサンドロス大王、ダイヤはユリウス・カエサル、そしてハートはカール大帝をモデルとしています。クイーンやジャックもそれぞれモデルがあるといわれていますが、複数の説があるものも存在し、段々情報が怪しくなってくるので、紹介はこの辺にしておきます。

7. Q.(あるなしクイズ)  ある→アルジェリア、アイスランド、日本、中国 
なし→ナイジェリア、アイルランド、パラオ、インド 
フランスはどちらに入る?--- A.ある

「ある」の共通項は「国旗に赤色を含む」ことです。したがって、青、白、赤の3色からなるフランスの国旗は「ある」に属します。とはいえ、理由などは何も訊いていないので、あるorなしを選ぶだけで解く必要のない謎解きです。でもクイズ的には面白い問題を内包しているんですよね。「アルジェリアの国旗にはあるが、ナイジェリアの国旗にはない色は何?」というクイズでも、答えはただ一つ「赤」に定まるのです。「ヒント:国旗」を入れたのは、他の法則でも成り立つと言われないための一種の「逃げ」でした。完璧に裏取りをするのは難しい。

8. Q.エッフェル塔で撮られたこの写真(昭和天皇の皇太子時代の写真)の、矢印の人物の苗字は?--- A.なし

おそらくこの企画で一番意地悪な問題です。日本の皇族には苗字がないことを利用して何かクイズを作りたいとは昔から考えていたのですが、ようやくそれが叶いました。今回のカードには苗字にもなりそうな言葉がたくさんあった(トランプ、ミラベル、森……)上に、写真の画質が粗く、写っている人物が日本人かどうかですら区別がつかない状態だったので、このゲームに(いい意味で)混乱をもたらす要因の一つになったかと思います。テストプレイのときにはこのペアが一番最後に成立して、ゲームマスターの筆者が「この方は、皇太子時代の昭和天皇です。」と説明したのがいい感じのオチになったのですが、皆さんにプレイしていただいたときはどうだったでしょうか。

9. Q.世界での生産量の約7割をフランスが占める、初秋が旬の果物は?--- A.ミラベル

ミラベルは、国内では西洋スモモと呼ばれており、以下の写真のように黄金色で上品な甘さが特徴のフルーツです。

ミラベル

なし(梨)」とこの問題文をペアにした人は「ラ・フランス」に思考を奪われ過ぎているのかもしれません。梨は世界全体の7割以上を中国が生産しているのです。ちなみに、テストプレイのときには、「ミラベル」とは、筆者が考えた存在しない言葉なのではないかという疑惑をかけられ、しまいには手当たり次第にミラベルに合う問題文をペアにして出して試す大喜利大会が始まりました(笑)。こういう誰も知らないような謎の言葉を1つ入れると、案外面白くなるのかもしれません。

10. Q.「働きバチ」は全てメスであると知られているが、「働きバチ」を表すフランス語は男性名詞である。マルかバツか?--- A.×

まず、フランス語について知らない人向けに説明しておきますが、フランス語はあらゆる名詞が男性名詞と女性名詞に分けられます。ある名詞がどちらに属するかを見分けるための絶対的な基準はありませんし、動物を表す名詞でもオスかメスか関係なく、決まった性の名詞で呼ばれます。「働きバチ」はフランス語で、”abeilles ouvrières”であり、これは女性名詞ですので、このクイズは×が答えになります。メタ的には意外性がある答えが正解ですから、マルだと思った人も多いかもしれませんが、今回はあえてそれを裏切る問題を出しました。「働きバチはその性別の通り女性名詞です」なんて面白みはないけれど、メタ的な視点で考える傾向が強い人には一周回って面白いんじゃないかなと思ったり。

11. Q.カンヌ国際映画祭の最高賞を、史上最年少の23歳で受賞したフランスの映画監督の苗字は何?--- A.マル

「バツ」があるなら、当然「マル」も入れたくなります。カンヌ国際映画祭は1946年にフランス政府が開催して以来、毎年5月に開かれている世界で最も有名な国際映画祭の一つです。その最高賞であるパルム・ドールを史上最年少で受賞したのがルイ・マル(Louis Malle)氏です。1956年に海洋ドキュメンタリー映画『沈黙の世界』を海洋学者のジャック=イヴ・クストと共同監督したのが、彼の初の監督作品であり、第一作目にして受賞に至ったようです。

12. Q.この絵画のタイトルは、『フォンテーヌブローの(?)の眺め』--- A.森

この絵画は、19世紀フランスのバルビゾン派画家の一人、ジャン=バティスト・カミーユ・コローによる『フォンテーヌブローの森の眺め』という作品です。実際にタイトルの通り森の風景が描かれた絵画ですから、ペアを作るのは割と易しい問題だと思ったのですが、なぜかテストプレイ中には『フォンテーヌブローのJOKERの眺め』とかいう迷作が生まれていました。手札を使って大喜利がしたい人には使いやすい問題文カードだったかもしれません。

13. Q.現在、フランスの一般的な郵便ポストの色は何色?--- A.黄色

シンプルな問題ながら、選択肢が与えられていない状態で正確に答えられる人はおそらく少ないでしょう。しかし、この企画では実質、黄色or青の2択問題です。フランスでは、以前ポストは青色でしたが、1962年に、フランスの大手自動車製造会社Citroën(シトロエン)が、「悪天候でもはっきり見えて、親しみをもてる色にしたい」という思いのもとで黄色のポストが作られ、それが定着しました。今では郵便局の配達車も黄色に塗られているようです。

14. Q.フランスの作家シドニー=ガブリエル・コレットの代表作の一つ、『(?)い麦』(?)に入る色は?--- A.青

黄色も青も入りそうな穴埋めを持ってきました。シドニー=ガブリエル・コレットは20世紀フランスの女性作家で、豊富な恋愛経歴を活かした創作が特徴的です。『青い麦』は彼女の作品のうち、最も日本語訳の種類が多い作品として知られています。ちなみに、彼女のもう一つの代表作は『ジジ』というタイトルでした。当企画は途中までどのカードがダミーか分からない点では、むしろ「ジジ抜き」ですから、「ババ」を入れたからには「ジジ」も入れようなどとも考えましたが、結局こっちに落ち着きました。

15. Q.フランスの祝日の一つ、「第二次世界大戦戦勝記念日」は、(?)月8日である。--- A.5

答えが数字のゾーンに入ります。選択肢が多い分難しかったのではないでしょうか。フランス視点での「第二次世界大戦戦勝」とは、ドイツの降伏になります。ドイツは1945年5月7日に、降伏文書に調印しましたが、フランスで情報が正式に伝達されたのは翌日のことでした。フランス全国の教会の鐘が5月8日15時に打ち鳴らされ、正式に終戦が告げられて、ド・ゴール将軍はラジオで終戦を発表しました。心なしか、日本の終戦と事の運びが似ていますね。その結果、フランスでは5月8日が終戦記念日として祝日になりました。

16. Q.フランスの法律では、飲酒が可能になるのは1(?)歳と定められている。--- A.6

日本では、未成年者飲酒禁止法により20歳未満の飲酒を禁止しているのですが、もちろんこのボーダーラインは世界で普遍的なものではありません。フランスの場合、飲酒規制のボーダーとなる年齢は2段階あります。1段階目が16歳で、一人で酒類を購入することと、公共の場でアルコール度数3%以下の酒を飲むことが可能になります。2段階目が18歳で、あらゆる種類の酒が全て解禁されます。よって、飲酒が「可能になる」のは16歳からといえるでしょう。ワイン大国だけあって、飲酒に関しては日本より寛容なようです。

17. Q.フランスでの一般的な自動車のナンバープレートは、英数字合わせて(?)桁からなる。--- A.7

フランスでの一般的なナンバープレートは、以下の写真のように、英字2字ー数字3字ー英字2字の合計7桁からなります。そして左側にはEU諸国のナンバープレートに共通してついている青帯があり、「フランス」の略称として、Fと書かれています。右側の青帯にはフランス国内での地域圏が示されており、全体がこれだけから成ります。一見長いようですが、日本のナンバープレートの「数字4桁+かな1字+数字3桁」を7桁で表現しているので、むしろ効率はいいのかもしれません。

フランスのナンバープレート

18. Q.FIFAワールドカップで、過去にフランスが決勝トーナメント(ベスト16)に進出したのは(?)回である。--- A.8

前回のワールドカップ優勝国であるフランスは、過去15回の出場、8回の決勝トーナメント、2回の優勝を経験しています。カタールW杯がもうすぐ始まるのでタイムリーな問題ですね。筆者はあまりサッカーに詳しくないので、この裏取りをしているときに初めて、カタールW杯が11月20日に開幕することを知りました。もう少し早く開幕していたら、駒場祭の期間中にこの問題の答えが変わることもありえたわけですから、やはりクイズは生ものなのだと思い知らされます。

《19’. Q.東京タワーはエッフェル塔(アンテナ含む)より(?)m高い。--- A.9》

皆さんは見たことのない問題文ですね。東京タワーは333m、エッフェル塔は本体が300mで、アンテナが24m、よって9m差でした(過去形)。当初はこの問題を使っていましたし、これでテストプレイを行ったのですが、当記事を執筆するために事実確認を行っていると、今年に入ってエッフェル塔に6mのアンテナが新たに取り付けられたことが判明し、この問題をボツにせざるを得なくなりました。本当にクイズは生もの。18問目を書いていた時にはこんなことに気づきもしなかったもので、思いもよらぬ最速の伏線回収を果たしました。

19. Q.ナポレオン3世の出身地としても知られ、別名を「オペラ区」というパリの区は、パリ(?)区である。--- A.9

結局、「答えが9になるなら何でもいい」と思って急遽こしらえた問題です。幸いパリの20の行政区はすべて数字で表せるので、パリ9区一点張りで何とか作りました。もっと有名な建物でもパリ9区にあれば面白かったのですが、まあクラス企画を背負っているナポレオン・ボナパルトの親戚を新たにクイズに入れ込むことができたので、良しとしましょう。パリ9区と2区の境界に「オペラ広場」があることから、「オペラ区」とも呼ばれるそうです。

20. Q.秘(?)、成(?)、(?)典、(?)壇(和同開珎クイズ)--- A.仏

日本語におけるフランスの略字、「仏」ですが、あえてフランスとは何の関係もない問題にしてカードを作りました。できる熟語はそれぞれ、秘仏、成仏、仏壇、仏典になります。秘仏といえば、筆者にとって一番思い入れがあるのが、東大寺の執金剛神像ですね。とはいえ、筆者も見たことはありません。ただ、一年に一度の開帳日が筆者の誕生日と一致していて、像高が筆者の身長と一致していて、そして所属が「東大寺」か「東大」かという違いだけで、勝手に親近感を感じている以上の理由はありません。うん、脱線し過ぎ。

以上が20問の問いと答えになります。そして、残る1枚のカードがダミー、と言い切ったら話は早いのですが……


21. Q.只今、成立したペアは、全体で何組目?--- A.(タイミング次第)

実は、このカードこそが、このゲームの肝なのです。問題文は『ザ・タイムショック』の名物問題「今、何問目?」のオマージュですが、適切なタイミングで適切なカードに巡り合えるかが鍵となります。ペアとして成立する可能性があるものをまとめると、まずは、問題番号15〜19の数字5、6、7、8、9、そして、問題番号6のハートのキングで13、さらには、問題番号10の×はローマ数字の10とも解釈できます。ということで、この問題文は合計7枚のカードとペアを組みうるワイルドカードというわけです。運良くいずれかを、まさに正しいタイミングで成立させると、成立した数字を答えとする問題文がダミーの1枚に変わってしまいます。しかし、どれとも結びつかずに最後まで残ると、このカード自体がダミーとなってしまいます。つまり、ゲームを始める時点では、プレイヤーどころかゲームマスターでさえも何がダミーになるのか分からない状況だったわけです。まあ解説ではこの辺にしておきましょう。もう一歩踏み込んだ話は雑記の方に書きます。

以上、全カードの振り返りでした。


②雑記〜当企画の意義〜

改めて全カードを振り返ってみて、いかがだったでしょうか?クイズ自体の難度はかなり高いと思っていますし、ペアを作る上で多くのひっかけを作ったので、間違ったペアを出してしまうことも多々あったかと思いますし、もしかすると、奇抜な組み合わせを出して大喜利のように楽しむようなこともあったかもしれません。けれども、ご参加いただいた皆さんはそういった誤りをヒントをした上で何とか正解に辿り着いたのだと思います。これは一種の「間違えることを楽しむクイズ」と言ってもよい気がします。

今回、カードとして作成した20問のクイズは、ほとんど全てフランスと関係した問題でありながらも、フランスの政治、法律、歴史、料理、文学、美術、映画、ことば、スポーツなど、様々な切り口から作問を行いました。ある意味、知識のつまみ食いのような、とりとめのない雑学が扱われているわけですが、これはちょうど「駒場」において、様々な学問の入門段階をビュッフェのごとく愉しむ「前期教養課程」とパラレルな構造を成しているといえます。

さて、駒場祭に来られる方々には、様々な属性を持つ方がいらっしゃるとは思いますが、多数が東大を志望している学生だったり、東大に入学して、前期教養課程で進振り戦争に直面している方が多いのだと思われます。入試であれ、学内の試験であれ、他者と点数で競い合うことを強いられる立場にいると、どうしても間違えることを恐れがちになってしまうように思います。だからこそ、駒場祭における当企画では「間違えることを楽しむ」ことを1つのテーマとしました。(これは宣伝記事にも一言だけ書いています。)「せめてここだけは」という思いで、思う存分クイズに間違えることができる空間を作り上げました。1つのクイズに正解することは1回しかできないけれど、間違えることは何度でもできますし、間違えるたびに知的活動が増進するはずです。「教養」を間違えることを許さない空間であっては、人々は教養を前に萎縮してしまいます。ですから「教養」なるものに当企画のような愉しみ方、向き合い方もあるのだよ、と主張したい気持ちをここに込めているのです。そして、実際に当企画に対峙すると、間違えることを通して正解が見えていったのではないでしょうか。つまり、試行錯誤を繰り返すことこそが正解を見つける鍵になる、というメッセージを込めた企画ともいえます。

次は、この企画の肝である、「只今、成立したペアは、全体で何組目?」というカードに込めたメッセージについての話です。このカードは、解説にも書いたように、ゲーム中の状況に応じて複数の答えと結びつきうるものであり、いずれかとペアになることで、ゲームに変数をもたらすという特殊な効力を持っています。ゲーム中に答えがひたすら変化していく問いを入れることは、単に解説の方で書いた「クイズは生もの」ということを暗示しているともいえますが、このカードに関して重要なのは、「結びつきうるすべての答えは、対応する問いをそれぞれ別個に持っている」という点です。先ほど書いたように、駒場祭に来られる方々には、試験に振り回される生活をしている方が多いと思いますが、いわゆる「模範解答」への執着を多少は持っているのではないでしょうか。しかし、学問の世界ではもちろん、多くの問いは、正解を1つの「模範解答」に絞ることなどできないですし、逆に1つの「答え」によって複数の問題を説明できる場合だってあるでしょう。したがってこのカードは、学問の世界のそういった様相を暗示したものであり、「正解はいつもひとつ」といった主張へのアンチテーゼを込めたものです。(宣伝記事には「『正解はいつもひとつ』じゃない!?」と一言書きました。この疑問符こそがメッセージなのです。)そして、先述のように前期教養課程とパラレルな構造を持つクイズ群の中に、後期課程の学問の世界を象徴するこの1枚のカードを入れることで、当企画は、前期課程から後期課程、教養から学問、(全員ではないが)駒場から本郷、といった知的越境を表現しており、それを象徴的に体験していただく場でもあるといえます。もっとも、我々は何らかの問題を考えるにあたり、時間軸の流れにも敏感でなければなりませんし、それに合わせて柔軟に答えを改変、修正する必要があるのは、学問の世界に限ったことでもないでしょう。クイズだからといって、唯一解の存在にとらわれないことは、生きる上でも大事な視点だと思います。

ところで、文三19組は駒場祭において多くの小企画を実施しましたが、筆者に言わせれば、弊クラスの作ったものを一言でまとめるなら、「総合メディア」だと思っています。コンテンツのジャンルでいえば、音楽、料理、フィールドワーク、クイズ、パーティーゲームと、人気のエンタメコンテンツが揃っていますし、公開方法でみても、動画、web記事、紀行文、ボドゲのPDF配布、実体験できる参加型、と多岐に渡ります。これほど企画が多くなったのは、皆のやりたいことを十分実現しようとした結果ですし、各々それなりのクオリティ(?)で完成に持ち込めたとは思っています。しかし、この準備段階は決して順調とはいえませんでした。飲食模擬店の抽選に外れたところから始まり、皆で企画案を出し合い、各々小企画の計画をたて、予算と戦いながら実行に移し、協力者を募った上で編集やテストプレイを行い……それを経た結果を駒場祭にぶつけています。コロナ禍の影響もあり、先行き不透明な状況に直面することも多々ありましたが、何とか仕上げた結果が弊クラスの企画です。しかし、自分たちが実行したことに関する情報を発信するメディア側にとって、情報を受け取る側にどう伝わるのか分かりにくいのが難点です。発信者は受信者と何の情報も共有していない状況で、伝える工夫をしなければなりません……

ここで、当企画をプレイする最中の皆さんはどうだったか思い返してみましょう。初めは、クイズの答えもどれがダミーかも分からない先行き不透明な状況に直面したでしょう。そして、それでもなお試行錯誤の過程をヒントに、何とかペアを揃えていけたのではないでしょうか。そうです。当企画は、我々の準備段階で経験したことを縮図的に表象したものであり、我々が「総合メディア」のようなものを作り上げる際の体験の一部を、象徴的に、来場者に追体験していただく場でもあるのです。皆さんが能動的にこのカードゲームに取り組んだことで、クラス企画を作り上げた我々と少しは気持ちを共有することができたのではないかと個人的には思っています。その上で、文三19組の他の企画を覗いてみてください。一層趣深く感じるかもしれませんよ。

11月16日 
フランスクイズ✖️カードゲーム小企画長 テルルヨウ素

文三19組の他の企画を覗いてみたい方はこちらから!
【東大文科三類19組駒場祭企画2022】企画紹介ページ





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