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函数解析でみる量子力学

Wathematica Advent Calender 2日目!

Wathematica Advent Calender2日目!!
去年のアドカレを書いてから一年、新たに積み上げてきた数学と物理の話をがんばってLaTeXに纏めました!みんなみてね。

こんなLaTeXが打てるようになりたい!という人は以下の記事も見てくれるととてもうれしいです。

アドカレ資料のソースコード

以下、ソースコードになります。全部で350行約13000字…長い…(本当はパッケージとか自分で作った方がいいとは思うけど、そこまでする余裕はなかった…)

\documentclass[twocolumn]{ltjsarticle}%二段組の為にtwocolumnに指定
\usepackage{type1cm} %文字サイズ変更
\usepackage[top=20truemm,bottom=20truemm,left=20truemm,right=20truemm]{geometry}%余白の調整
\usepackage{framed}%\begin{framed}をつかうため。
\usepackage{graphicx}%画像挿入の為に入れてます。
\usepackage{amsmath,amssymb,physics} %数式特殊記号
\usepackage{amsthm}%定理環境
\usepackage{fancyhdr}%フッターの設定のため
\usepackage{datetime}%\themonthのためだけにいれた
\usepackage{url}

\renewcommand{\thefootnote}{*\arabic{footnote})}%脚注のフォーマットの変更

\renewcommand{\section}[2][]{%sectionコマンドの再定義
  \refstepcounter{section}#1 %カウントを1増加,
  \par
  \begin{framed}
  \centering\textbf{\arabic{section}. #2}
  \end{framed}
  \par
}

\renewcommand{\theequation}{\thesection.\arabic{equation}}%theequation式番号の変更
\makeatletter%定義の中に@があるとき必要な環境
\@addtoreset{equation}{section}%thesectionが増加したときequationをリセット
\makeatother

\newdateformat{monthyeardate}{%
  \monthname[\THEMONTH], \THEYEAR}

%pagestyleの設定%
\fancypagestyle{fancy}{%
\lhead{}%ヘッダ左を空に
\rhead{}%ヘッダ右を空に
\cfoot{}%ヘッダ中央下を空にする
\rfoot{Wasematica No.2,\ December \hfill\thepage}%この辺をいじくると名前が変えられます。
\renewcommand{\headrulewidth}{0.0pt}%ヘッダの線を消す
}

\newcommand{\booktitle}[1]{\textit{#1}}
  \def\mdash{\textemdash}
  \def\amslatex{{\protect\AmS-\protect\LaTeX}}

\makeatletter
\renewcommand{\@biblabel}[1]{#1)}%参考文献の書き方の変更
\renewcommand{\@cite}[2]{{#1\if@tempswa , #2\fi})}%参考文献の呼び出し方の変更
\renewenvironment{thebibliography}[1]
     {{\begin{center} \large\textbf{参考文献} \end{center}}
      \list{\@biblabel{\@arabic\c@enumiv}}%
           {\settowidth\labelwidth{\@biblabel{#1}}%
            \leftmargin\labelwidth
            \advance\leftmargin\labelsep
            \@openbib@code
            \usecounter{enumiv}%
            \let\p@enumiv\@empty
            \renewcommand\theenumiv{\@arabic\c@enumiv}}%
      \sloppy
      \clubpenalty4000
      \@clubpenalty \clubpenalty
      \widowpenalty4000%
      \sfcode`\.\@m}
     {\def\@noitemerr
       {\@latex@warning{Empty `thebibliography' environment}}%
      \endlist}
\makeatother

\theoremstyle{definition}%定理環境
\newtheorem{thm}{Theorem}
\newtheorem*{thm*}{Theorem}

\theoremstyle{definition}%定義環境
\newtheorem{dfn}[thm]{Definition}


\renewcommand{\maketitle}{
  %maketitleの再定義、数理科学風に書き換えます。この辺をいじくればタイトル名だったり著者名を変えることができます。
  \twocolumn[
  \noindent
  特集/ Wathematica Advent Calender \\%黒線の上の文章を\\前に書いてください
  \footnotesize{■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■
  \!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■\!\!■} \\\\
  {\LARGE 函数解析でみる量子力学}
  \vspace{2.5cm}\\
  {\Large @\_budyonny (物理学科B3)} 
%  \begin{figure}[h] \includegraphics[scale=0.15]{mono.png} \end{figure}\\
  \vspace{1cm}
  ]
}

%以下は私がよくつかうのでプリアンブルに定義したコマンド
%\newcommand{\bra}[1]{\left\langle#1\right|} %ブラ
%\newcommand{\ket}[1]{|#1\rangle} %ブラ
\newcommand{\dbra}[1]{\left\langle#1\right|} %ブラ displaystyle
\newcommand{\R}{\mathbb{R}}%実数
\newcommand{\C}{\mathbb{C}}%虚数
\newcommand{\E}[1]{\begin{equation} #1 \end{equation}}%\E{等式} と簡略化できる
\newcommand{\gazou}[2]{\begin{figure}[H] \centering \includegraphics[scale=#2]{#1} \end{figure}}
%↑画像挿入のコマンドはクソ長いので簡略化しました、
%\gazou{名前.png}{倍率}のようにすれば画像挿入できます。大きさを変える時は倍率の数字をいじくってください。


\begin{document}
\pagestyle{fancy}

\maketitle 

\section{はじめに}

  久しぶりに{\LaTeX}をやるとやっぱり打ち込む時間が掛かりますね。
  今回は函数解析の立場からみた量子力学についていろいろと探索して色々深堀してみようと思います。
  この文章はもともと”りゼミ
  \footnote{りぜみ公式アカウント X:\@ rizemi\_official}
  2nd”、及びspm27thでの夜ゼミの話や、先輩方と始めた「量子力学の数学的構造ゼミ」、「宮島関数解析ゼミ」を新B1,B2に広めるために書き溜めていた原稿が元になっています。
  あまり全部に触れるとそれこそ一冊の本になってしまうので、簡単なところだけさらう感じになります。この文章は清水量子力学を読んだことがある程度でしたら読めると思うので、ぜひB1の方も読んでいただければ幸いです。
\section{そもそも函数解析ってなに?}
  函数解析とは、無限次元の線形代数と言われることがあるが、これだけではピンとくる人の方が少ないので導入を述べよう。
  線形代数の次元を無限大にすると問題になるのは、個別の行列においてトレースを取る、対角化するといった線形代数で
  使っていたテクニックが容易には使えなくなる。そのような問題を解決するために、
  知りたい対象を個別に調べるのではなく、同様の性質を持つ対象(函数など)をひとまとめに「集団」として
  の性質を見ることが求められた。そうして20世紀初頭に生まれたのが函数解析である。その一方で物理側からも
  アプローチがあった。現在我々が使う量子力学の基本体系はハイゼンベルグ、ボルン、パウリ、シュレディンガー、ディラック
  などによって完成されたが、その時点ではδ函数が整備されておらず、数学的に疑問を残したままであった。しかしフォンノイマンは函数解析の手法を用いて(δ函数を使うことなく)量子力学を数学的に基礎づけたのである。
  今回はそんな函数解析の方から量子力学を眺めてみよう。
  量子力学では観測量は量子力学ではヒルベルト空間という完備な
  \footnote{物理学科向けの注:量子力学で完備性を要請する理由が不明瞭になりがちだが、このことを観測の立場から考えよう。量子力学では、射影演算子によって観測可能量の測定値が得られる。
    しかし、函数解析では射影作用素を定義するために、完備性が証明に必要な正射影定理
    (詳しい内容は文献 を見てください、雑にいうとヒルベルト空間をある方向の線形空間とそれに垂直な線形空間の直和に分割できるという定理)
    が用いられているからである。
  つまり、観測に対応した射影演算子をいつでも定義できるようにするためにただの内積空間ではなく
  "完備"な内積空間を要請をしているのであろう。さらに余談だが、内積のないBanach空間では、有限次元部分空間にしか射影が定義できなかったりするので、内積があること自体も結構強い性質だったりする。}
  な内積空間(簡単に言えば内積という写像$<>:H\times H\ni (\psi,\phi)\rightarrow \langle \psi ,\phi \rangle \in\R が定まる空間$)を考える。
  ここで完備な内積空間であるなら$\C^n$のような有限次元の空間(線形代数)さえ考えればいいのではという疑問が出てくるかもしれない。しかし、量子力学では(実験的に確かめられる)位置と運動量の不確定性を満たすように正準交換関係
  という作用素(あるいは演算子)の一種の非可換性が要請され、これを満たすような理論を考えるとき、有限次元の理論では不十分になってしまう。そのために無限次元も含めた空間が要請される。
  量子力学の教科書では
  \begin{equation}
    L^2(\C)=\qty{\phi\in\C\big|\int_{-\infty}^{\infty}|\phi(x)|^2 dx <\infty}
  \end{equation}
  \begin{equation}
    \langle \psi,\phi \rangle=\int_{-\infty}^{\infty} \psi (x) \bar{\phi}(x) dx
  \end{equation}
  という二乗可積分な函数の空間扱うことが多い。
  \footnote{量子力学の先にある場の量子論という分野では、エネルギーが高い領域において素粒子の生成消滅が可能である。それを函数解析的に扱うには、一つの粒子に対応するヒルベルト空間Hに対して,粒子が$1個(H),2個(H\times H),3個(H\times H \times H),\dots$
  といった状態すべてを記述できるようフォック空間
  $F(H)=\bigoplus_{n=0}^\infty \otimes^n H$が用いられる。
  }
  量子力学て言われる「物理状態を表す波動関数」というのはこの$L^2$の元に他ならない。
 \footnote{有限次元内積空間は必ずヒルベルト空間(つまりノルムについて完備)になるが、一般の内積空間はヒルベルト空間にはならない。$L^2$が完備性を持ってくれることは、数学の立場からしても無限次元ヒルベルト空間の具体例として大切になってくる}

\section{ケットに対してブラは一意に作れるのか}
 よく量子力学の文脈では状態ケットとブラに対して
  \begin{equation}
    \ket{\psi}^\dagger=\bra{\psi}
  \end{equation}
  という表現をするが、これは有限次元では当たり前であろうが、無限次元になった途端に非自明になるのは想像に難くない。実は、これを保証する定理があるのである。
  \begin{thm}{(Riezの表現定理)}
    任意の線形汎函数$F\in H^*$に対し、ただ一つのベクトル$\Phi_F \in H$が存在し、
    $F(\Psi)=\langle \Psi_F,\Phi \rangle,\Psi\in H,$と表され、さらに$\|F\|=\|\Phi_F\|$が成り立つ。
  \end{thm}   

\section{作用素の定義域}
  量子力学では線形作用素(線形演算子)($\hat{x},\hat{y}$など)
  \footnote{量子力学の文脈では作用素のことを演算子と言う。
    演算子、作用素のいずれも英訳はoperatorであり、どっちも同じものなのです。}
  が物理量に対応する、まずは定義を述べよう。
  \begin{dfn}
    H,KHilbert空間とし、$D(A),R(A)$をHの部分空間とする。
    \begin{equation}
    A:D(A)\ni \psi\rightarrow A(\psi)\in R(A)
  \end{equation}
   を作用素といい、特に
  \begin{equation}
    \forall \alpha ,\beta \in \C,\forall \psi,\phi\in D(A),A(\alpha\psi+\beta\phi)=\alpha A \psi +\beta A \phi
  \end{equation}
  が成り立つとき、Aを線形演算子という。また、$D(A)$を演算子の定義域といい、$R(A)$を値域と呼ぶ。
  \end{dfn}
  量子力学の演算子は広い場合、無限次元の行列ととらえることができるが、量子力学では多くの場合、有限次元の場合をそのまま無限次元に拡張します。
  \footnote{数学科は驚くかもしれないが、有限なものを無限な物に身勝手に拡張するのは物理屋あるあるなのである}
  上で見た通り、函数解析では演算子も普通の函数のように内積(というある種の線形汎関数)が発散しないように定義域をちゃんと与えなくてはいけない。
  ここで以下のような定理がある。
  \begin{thm}{(閉グラフ定理)}
    線形作用素Aが閉である、すなわち
    \begin{equation}
      \psi_n\rightarrow\psi\, \Rightarrow A\psi_n\rightarrow A\psi \quad (n\rightarrow\infty) 
    \end{equation}
    としたとき、Aが非有界、つまり
    \begin{equation}
      \sup_{\psi \neq 0}\frac{||A\psi||}{||\psi||}=\infty
    \end{equation}
    が成り立つならば、Aの定義域はヒルベルト空間全体ではない。
  \end{thm}
  上の定理よりとくに(閉)作用素が非有界になる時、作用素の定義域をちゃんと気にしなければならないのは明らかであろう。
  定義域は、定義域内で作用素で写した像が有界になるように定義するのが自然である。
  \footnote{高校数学で$y=\tan x$と言う函数を考えたときに$x=(\pi/2)$が定義域に入らないことを思い出そう。}
  例えば量子力学に出てくるヒルベルト空間として今回は簡単の為に一次元の波動関数を扱うための空間
  $L^2(\R)$を考え、位置作用素という量子力学でよく使われる作用素を考える。
  位置作用素を
  \begin{equation}
    \hat{x} \psi (x) =x \psi (x) \quad x\in \R
  \end{equation}
  と定める。この時、位置作用素は$\L$全体では定義されない。なぜなら位置演算子は非有界な閉演算子であり、閉グラフ定理より定義域は$L^2$全体とはならない。実際、
  $\psi(x)=(1/x)\bold{1}_{[1,\infty)}$とすれば、
  \begin{equation}
    \int_{-\infty}^{\infty} |\psi(x)|^2 dq =1<\infty
  \end{equation}
  より$\psi\in L^2$であるが、
  \begin{equation}
    \int_{-\infty}^{\infty} |x\psi(x)|^2 dx =\infty
  \end{equation}
  より作用素をかけたあとに内積が発散してしまう。

\section{作用素のスペクトル}
  行列には固有値があったように、作用素にはスペクトルと言う概念が付随する。スペクトルには主に以下の4種類からなる。
  \footnote{「$\ker(A-\lambda)=0\rightleftarrows A-\lambda :単射」$に注意、また、$R(A-\lambda)$が稠密であるとは$H$の任意の元を$R(A-\lambda)$の元(あるいは収束列)を使って表現できるというイメージをもつと読みやすいかもしれない。}
  \begin{dfn}
    \begin{align*}
      &Aの固有値\sigma_p(A)\\
      &\equiv(\lambda\in\C |\exists\psi\in H,\,A\psi=\lambda \psi)
      =(\lambda\in\C |\ker(A-\lambda)
      \neq\{0\})\\
      &Aの連続スペクトル\sigma_c(A)\\
      &\equiv(\lambda\in\C |\ker(A-\lambda)=\{0\},R(A-\lambda)は稠密,(A-\lambda)^{-1}は非有界)\\
      &Aの剰余スペクトル\sigma_r(A)\\
      &\equiv(\lambda\in\C |\ker(A-\lambda)=\{0\},R(A-\lambda)は稠密ではない)
    \end{align*}
  \end{dfn}
  さらに、次の定理を紹介しよう
  \begin{thm}
    \footnote{証明は\cite{新井1} P124をみよ}
    Hが有限次元ヒルベルト空間ならば、H全体を定義域とする任意の線形演算子のスペクトルは固有値のみからなる。
  \end{thm}
    これを考え得れば、量子情報などにおける有限次元ヒルベルト空間では演算子が固有値(離散スペクトル)しか持たないのであるので僕らの知っている線形代数のようなノリでも全然かまわない。
    しかし、無限次元ヒルベルト空間では固有値を持たないような作用素も考えられる。以下、例を挙げよう。
    $S:l^2=D(S)\ni (a_1,a_2,\dots)\rightarrow S(a_1,a_2,\dots)=(0,a_1,a_2,\dots)\in R(A)$という、無限個の数列空間$l^2$で数列を一個右に動かす右シフト作用素を考えよう。
    Sの単射性は$Sa=0\rightarrow 0$よりすぐにわかる。しかし、$(1,0,0,\dots)\in(l^2)$は$R(S)={(0,a_1,a_2,\dots)|a_1,a_2,\dots\in}$の元であらわせない。よって$R(S)$は稠密ではない。
    したがって$0\in\sigma_r$という固有値ではない(剰余)スペクトルが得られることが分かる。

\section{作用素の自己共役性}
  作用素は(とくに非有界閉作用素のとき)本来定義域を考えなくてはならないことを前々節において見た。ここで、物理をやる人にとっては次のような気になる点が出てくるはずである。
  例えば物理量$A$に対応する演算子$\hat{A}$(自己共役の定義は次に述べる)が定義域の外にあるとき、
  物理量は観測可能になるのかといった問題が出てくる。実は作用素の自己共役性と言うものを考えれば、このことは考えなくてもよくなる、ではまず定義を述べよう。
  \footnote{あんな、エルミートって三種類あんねん。}
  \begin{dfn}
    $A$をHilbert空間上の作用素とする。全ての$\psi,\phi\in D(A)$にたいして
    \begin{equation}
      \langle \psi ,A\phi \rangle =\langle A\psi ,\phi \rangle
    \end{equation}
    が成り立つとき、Aはエルミート作用素であるといい、エルミート作用素Aの定義域が稠密、すなわち、
    \begin{equation}
      \overline{D(A)}=H
    \end{equation}
    のとき、Aを対称作用素
    \footnote{一般のエルミート作用素は共役演算子A*をもつとはかぎらないが、対称作用素であれば、共役演算子A*が定義できることに注意したい。}
    と言う。さらに
    \begin{equation}
      D(A)=D(A^*)
    \end{equation}
    の時、Aは自己共役作用素であるという。
  \end{dfn}

  一般の(対称)作用素の定義域は、一般に共役作用素の定義域より狭いが、それがたまたま一致する(雑に言ってしまえば$A$も$A^*$もそっくり同じになる)とき、自己共役であるというのである。
  演算子の自己共役性を考えるモチベーションとしてはほかにもある。有限次元の線形代数での行列の対角化の無限次元も含んだ形で一般化が成り立つのは自己共役作用素に限り(!?)、時間発展、空間並進などの生成子は自己共役でなければならないのである。
  さらに、うれしいのは次の定理として述べられる
  \begin{thm}
    AH上の閉対称作用素としたとき\\Aが自己共役であるための必要十分条件はスペクトルが$\R$の部分集合となることと同値である。
  \end{thm}
  物理的に言えば、物理量が
  が観測可能(得られる物理量に対応した閉対称作用素
  \footnote{物理量に対応する位置作用素等の作用素のだいたいが閉対称演算子になることが知られている。} 
  のスペクトル(固有値)が$\C/\R$の元ではなく、$R$の元)になることと、作用素が自己共役になるのは同値になるのである。
  これは実験で得られる測定値がちゃんと実数に収まってほしいという物理的な要請を数学的な自己共役性の議論に落とし込めることを意味してるのではないだろうか?
  詳しいことを省くが、物理においては物理量が観測可能である(つまり対応する作用素が自己共役であってほしい)という要請から定義域を適宜狭めたりする。
  ポテンシャルの壁などもある意味(ハミルトニアン作用素)の自己共役性のために適宜設けている作用素の定義域の例の一種と考えることもできる。
  \footnote{実際、粒子が自由に動ける状態V(x)=0では自己共役性が消え、これは自由に動く粒子が測定できないことと捉えなおすこともできる。
    具体的な系における作用素(ハミルトニアン作用素、位置作用素、運動量作用素)の自己共役性について知りたいときは、\cite{田崎},\cite{近藤1}を読んでほしい。}
  %%では実際にどうなるのか具体的な系で考えてみよう。
  %これはすなわち「一次元の自由粒子の位置は観測できない」と言うことに対応する。
  %まとめると量子力学における(位置演算子、運動量演算子などの)非有界演算子は。、位置演算子の例でみたように、定義域を程よく狭めることで自己共役性を保証出来たりする。
 % \footnote{物理の観点からすれば、観測可能な状態にするために定義域を適宜設けているという考え方でよさそうな気もします。だからいちいちポテンシャルの壁等の境界条件が与えられた時には、その定義域が自己共役性を保証するものとして、いちいち気にしなくてもいいような気もします。}

\section{δ函数の諸問題}
  ここでは連続固有値をまとめて$\ket{a}$と表すことにします。物理の分野では$\bra{a'}\ket{a}=\delta_(a,a')$と規格化されることを思い出そう。この時、特に$a'=a$の時を考えれば内積は発散する。これを踏まえると
  連続固有値の固有値はHilbelt空間の元とはならない。しかしこれには物理屋らしい解決策がある。一つは様々な波を重ね合わせて、ある程度位置と運動量の幅が狭い波束を考えれることで有限の内積に収まってくれるのである。
  \footnote{
    おそらく??てなる人もいると思うので、少しだけ補足すると、内積が有限だが、その極限がδ函数になるような函数列を考えるのである。このように極限としてδ函数を考えるのは、偏微分方程式の弱解の列を考えるときにも見かけるのだが同じノリなのだろうか??(何か知ってたら教えてください....)
  }
  別の方法としては扱うHilbelt空間をより大きくする
  (つまり、Hの部分空間Dで内積が発散するならば、其れよりも大きい空間とその共役空間を考えればいいのです。)
  ことも考えられる。

\section{関数解析から作用素環へ}
これまでで量子力学とヒルベルト空間上の作用素の関係を見てきたが、そこに体の構造のようなものも考えられないかと思う。
しかし、一般には(det=0の行列には逆元がないように)作用素には一般には逆元はない、じゃあ割り算はあきらめて環の構造を考える。
そこでは4節で述べた作用素の定義域の面倒くささがついて回るので、定義域がヒルベルト全体になる有界線形作用素に限定する。
さらに、6節で見たように量子力学の観測理論と作用素の自己共役性は切っても切り離せない。そこで、自己共役な作用素さえ考えればいいように*演算という共役をとる演算で閉じることを要請しよう。
このような性質をみたす環を*環という。さらに*環に作用素のノルム条件$|a^*a|=||a||^2$という(ノルム位相による)条件を足すと$C^*$環
というものが出てくる。一方、*環にそれより強い条件(強収束の位相)を加えるとvon-Neumann環というものが出てくる。
\footnote{逆に*演算とノルムを持つ完備な環からヒルベルト空間を再構成できる(GNS構成法),そのあたりの話は\cite{河東3}\cite{新井2}に述べられている。}
量子情報との関連(密度行列のトレースで定まるvon Neumannエントロピーの一般化など)もあったりする。


\section{あとがき}
\cite{田崎} は(函数解析を全く知らない)物理向けにこの内容について具体例を多く踏まえながらわかりやすく述べている。
\cite{近藤1} は函数解析の側面を強めに出してる量子力学の教科書である。しかし、証明等は略されているのでそこは\cite{新井1}を参考にした。
また \cite{清水} は初学者にわかりやすい説明を心がけた公理的な立場の量子力学の本であるであるが、発展的内容もおおい。(第6節で参考にした)
\cite{ランダウ} は絶版本だが、ブラケットにとらわれず基本的な量子力学を明解に簡潔に述べた名著である。
\cite{宮島}は関数解析の辞書的な本で現在ゼミで重宝している。
\cite{羽鳥}は冒頭の函数解析の導入話を書く時に参考にした。
\cite{山崎}\cite{河東1}\cite{河東2}は量子力学と作用素環の関連について述べてる。



\begin{thebibliography}{99}
  \bibitem{田崎} 
  田崎 春明、『演算子の定義域と自己共役性』\\
  \url{https://www.gakushuin.ac.jp/~881791/qmbj/files/QMB_AppendixA_20210129.pdf}
  \bibitem{近藤1} 
  近藤 慶一、『量子力学講義Ⅰ-物理の一般原理と数学的定式化-』(共立出版)
  \bibitem{近藤2}
  近藤 慶一、『量子力学講義Ⅱ-原子から量子もつれまで-』(共立出版)
  \bibitem{新井1}
  新井 朝雄、江沢 洋『量子力学の数学的構造 I』朝倉物理学大系 7(朝倉書店)
  \bibitem{新井2}
  新井 朝雄、江沢 洋『量子力学の数学的構造 II』朝倉物理学大系 8(朝倉書店)
  \bibitem{新井3}
  新井 朝雄 『物理現象の数学的諸原理』
  \bibitem{清水}
  清水 明、『新版 量子論の基礎 その本質のやさしい理解のために』 (サイエンス社)
  \bibitem{ランダウ}
  ランダウリフシッツ、『量子力学=非相対論的理論= 1』(東京図書)
  \bibitem{宮島}
  宮島静雄、『関数解析』(横浜図書)
  \bibitem{戸松}
  戸松玲治、『作用素環論入門』(共立出版)
  \bibitem{羽鳥}
  羽鳥 理、"関数解析学に親しもう"、「数理科学」20234月号
  \bibitem{山崎}
  山崎 雅人、"量子力学における数学とは何か"、「数理科学」20241月号、\\
  \url{https://member.ipmu.jp/masahito.yamazaki/files/2024/2024_Jan_science_what_quantum_mathematics.pdf}
  \bibitem{李}
  李 宰河、"量子力学と数学 物理量概念にまつわる数理"、「数理科学」20235月号
  \bibitem{河東1}
  河東泰之、"作用素環の考え方",『数理科学』20174月号、\\
  \url{https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~yasuyuki/suri1704.pdf}
  \bibitem{河東2}
  河東泰之、”作用素環と量子情報”,『数理科学』20186月号、\\
  \url{https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~yasuyuki/suri1806.pdf}
  \bibitem{河東3}
  河東泰之, "ヒルベルト空間と作用素環",『数理科学』 2019年、\\
  \url{https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~yasuyuki/suri1909.pdf}
  \bibitem{かそう}
  かそう、”高校数学からはじめる作用素環論入門の入門”\\
  \url{https://mathlog.info/articles/upOiAsoegyL5nIRQxW4c}
\end{thebibliography}

\end{document}



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