見出し画像

ニワカだから熱弁できるヒップホップの魅力

需要があるかわかりませんがこのテーマでまとめてみました。背景は2024年の夏フェス終了時に一部マスコミから「洋楽離れ」が取り沙汰されてその理由の1つとして「ヒップホップがつまらないから」という意見がSNS上で散見されたことです。

僕は筋金入りのヒップホップリスナーではなく聴き始めてたかだか3年のいち音楽好きに過ぎません。でもだからこそ少し前までヒップホップが苦手でロックやR&B/ソウル中心に聴いていたリスナーがいかにこのジャンルに惹かれていったのか?…についてポイントになったいくつかの作品を通じてその過程を記憶が鮮明なうちに書き残すことで、

「興味があるけど何から手をつけていいのかわかりません(泣)」
「そもそもどこがいいのかわからん。わかるように説明しろや!💢」

…と言ったニーズ(あるのか?)に応えられるのではないかと思ったわけです。「ロックもいいけどヒップホップもいいよね❤️」そんな人が1人でも増えれば望外の喜びです。では早速。



1.わかったフリ期

最初にヒップホップのアルバムを通しで聴いたのは3年前。1990年マラソンでのA Tribe Called Quest(ATCQ)の長いタイトルの1st。ジャジーで知的な雰囲気。
All You Need Is Love(The Beatles)
Sir Duke(Stevie Wonder)
Walk on the Wild Side(Lou Reed)
Runnin’ Away(Sly & The Family Stone)
がサンプリングされていてそれだけでも嬉しかったのを覚えている。でもまだハマってない。

A Tribe Called Quest/People’s Instinctive Travels and the Paths of Rhythm(1990)

次に聴いたのはBeastie Boys。ロック好きにも人気のある白人ユニット。かなり気に入った。でもまだハマらない。

左:Check Your Head(1992)
右:Ill Comunication(1994)

次に聴いたのは超有名作Nasの「ILLMATIC」
東海岸の永遠のクラシックと言われる作品だがATCQやBeastie Boysと異なりロック風味のない手加減なしのヒップホップで僕にとっては最初の試練だった。当然まだハマらない。

Nas/ILLMATIC(1994)

…この頃は年間マラソンでアリバイのように年間で1、2枚ヒップホップ作品を選んでおざなりに聴いて無理矢理いいところを探して感想を書いたりして正直苦痛でしかなかったのだった。
(1990年代のヒップホップシーンが実はGolden Eraと呼ばれる黄金時代だったことを僕が知るのはもう少し先のこと)


2.いいかも期

●ソウルクエリアンズ
そんなUKロックとネオソウルさえ聴いていれば大体満足だった頃の僕の前に颯爽と現れたのが水瓶座生まれの男たち「ソウルクエリアンズ」。R&B/ソウルとヒップホップの垣根はあって無きがごとし。生演奏中心のグルーブ感。これはいいかも!

The Roots/Things Fall Apart(1999)

Bobby Caldwellの“Open Your Eyes”をサンプリングした”The Light”が最高です↓

Common/Like Water For Chocolate(2000)

●エレクトロニカ・ヒップホップ
Snoozerに「米国アンダーグラウンドを代表する傑作ヒップホップアルバム」と紹介されていてこんなのもヒップホップって呼んでいいんだ?って思ったのがこちら。何だか一気に気がラクになった。これもいいかも!

Prefuse 73/One Word Extinguisher(2003)

どっちかって言うとこっち↓に近い音楽だと思うんですけどね…意外と適当だ…

Boards Of Canada
左:Music Has The Right To Children
右:Geogaddi

3.どハマり期

そうこうしているうちに大波がきました!
●Outkast
アトランタ出身のBig BoiとAndré 3000によるヒップホップデュオ。渋いチョイスのサンプリングもなくゲットーでの苦労話もなく、メンバーが好きなファンクやロックをひたすらぶち込んでごった煮にしたような楽しさ。豪快なようで緻密さも感じられるところが凄い!

Outkast/Stankonia(2000)
Outkast/Speakerboxxx/The Love Below(2003)


●N.E.R.D
ファレル・ウィリアムスとチャド・ヒューゴによる腕利きプロデューサー集団ネプチューンズが母体のN.E.R.D。「ロックファンにリーチするヒップホップ/R&B」の一つの理想系だと今でも思ってる!

N.E.R.D/In Search Of…(2002)
N.E.R.D/Fly Or Die (2004)

●Madlib
敏腕アングラヒップホッププロデューサーMadlibと惜しくも2020年に亡くなった仮面ラッパーMF DOOMの共作によるMadvillainy名義の名盤。ローファイなトラックと不敵なラップが紡ぎ出す禍々しく怪しい世界。22曲で46分。短めの1曲1曲がクールで全体でもクール!

Madvillainy/Madvillain(2004)

●J Dilla
星野源がテレビ番組で紹介してて知ったJ Dilla。その死の3日前に発売された生前最後の作品。
インストヒップホップのクラシックとして今なお燦然と輝く。各1分程度の31曲がシームレスに繋がる43分、曲単位ではなく繋がりと揺らぎを楽しむべきものだと理解した。

J Dilla/Donuts(2006)

このへんになると歌詞/リリック関係なく楽しめるのですっかり肩の力を抜いて楽しめるようになりました♫


4.お勉強期

そんなタイミングで迎えたのが2023年ヒップホップ生誕50周年。関連した書籍や雑誌の特集号を入手して少し歴史をお勉強。いろいろ聴いた中で特に印象に残ったのがこのあたり。

●Public Enemy
チャック・Dによる社会派ラップと専属プロデュースチームによる先鋭的な音作りでロック系のメディアからも高い評価を得たという。今でいうならKendrick Lamarみたいな感じかな、と勝手に想像している。

Public Enemy/It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back(1988)

●Dr. Dre(ドクター・ドレー)
「車社会の西海岸仕様にチューニングされたギャングスタ・ラップ」と知り早速車で聴いてみた思い出深いアルバム。その結果は?…ぜひ試してみてください笑

Dr. Dre/The Chronic(1992)

●Notorious B.I.G.
東西抗争に巻き込まれて命を落とした「ビギー」の死後すぐに出たアルバム。“Hypnotize”という曲がハーブ・アルパートの1979年の大ヒット曲”Rise”をサンプリングしており感動した。

Notorious B.I.G./Life After Death(1997)

参考にしたのはこちら↓です。ありがとうございました!もちろんまだまだ未聴の作品はたくさんあるのでゆっくり楽しく聴いていきたいです🎵

左:別冊ele-king HIP HOP 50 ISSUE
ヒップホップ誕生50周年号
中:文化系のためのヒップホップ入門
右:ミュージック・マガジン2023年9月号

5.そして今…

2010年以降はトラップに覆い尽くされつつもオルタナR&Bに近いものロックに接近するものBLMを背景にコンシャスな内容のものと重層的で個人的に興味は尽きない一方で興味を持てずにいる人にはますます手に負えないような…2017年から2020年の作品は未聴ですが、現時点で自分がよいと思ったものやヒップホップリスナー以外にも比較的受け入れられそうなものを中心に紹介したいと思います。

●Kanye West
禍々しくも凄まじい迫力!ロックからの影響・引用も色濃くN.E.R.D.あたりから来てYves Tumorあたりに繋がっていく過程での一里塚マスターピースというか…↓

Kanye West/My Beautiful Dark Twisted Fantasy(2010)

ポストパンクやインダストリアルロックを取り入れ最終的にミニマライズするためリック・ルービンの力を借りた作品↓

Kanye West/Yeezus(2013)

●Drake
内省的でマッチョじゃないヒップホップ/R&Bを展開。テン年代のポップミュージックを方向付けたとまで言われる一枚。速度遅めでテンション低めでフワフワしてこれぞ「非ギャング系・ザ・文化系ヒップホップ」って感じ。

Drake/Take Care(2011)

●21 Savage & Metro Boomin
アトランタ拠点のラッパー21 Savageが当時まだ新進気鋭のプロデューサーだったMetro Boominと作った作品。抑揚のないラップとスローなトラップビート(ブーンブーンの重低音とチチチチチ…の小刻みなハイハットが特徴)の組合せ。

21 Savage & Metro Boomin/Savage Mode(2016)

●Future
この年のトラップシーンのド真ん中に位置しているとおぼしきものを他にも何枚か聴いた中で強度を感じた1枚。全部似たような曲じゃんと思いつつスムージーでクセになるこのジャンルの魅力が凝縮されてる!

Future/Purple Reign(2016)

●Nico Segal
かつてDonnie Trumpetと名乗っていたシカゴのトランペッターが同郷の盟友Chance The Rapperと組んで制作した多幸感に溢れる作品。”Sunday Candy”は必聴!

Nico Segal/Surf(2015)

●Chance The Rapper
上記「Surf」をChanceと一緒に作ったNico Segalが参加しており本作はその地続きにある。ジーンとくるゴスペル。KanyeにNonameにJamila Woodsとシカゴ勢を揃えた地元愛。ジャケは我が子を見つめる顔っていうのも好き❤️

Chance The Rapper/Coloring Book(2016)

●Little Simz
アルバムトップ表題曲のイントロの仰々しさにまず口あんぐり。ゲストのCleo Solが歌い上げる女性讃歌“Woman”の美しさに息を飲む。当時上り調子のプロデューサーInfloがこの実力派英国女性ラッパーを素材にやり切ったアルバム。個人的に2021年ぶっちぎりのAOTY1位選出でした。

Little Simz/Sometimes I Might Be Introvert(2021)

●Little Yachty
デビュー当初は“モゴモゴ言う“マンブルラップと称されたスタイルが本作ではサイケロックと見紛う内容に変容し世間をあっと驚かせた。

Little Yachty /Let’s Start Here.(2023)

6.あとがき

いかがでしたでしょうか。
2020年の時点ではRadioheadやOasisやBlurや何ならTaylor Swiftの「folklore」を聴いてりゃ大体満足していた人間がゆっくりとヒップホップにハマっていく過程が描写されてて恐ろしいですね〜。

「Publicと言えば?」という謎かけに対して昔なら「Image Limited!」と即答していたと思いますが今では「うーん、Enemy!」と答えるぐらいには染まってるんじゃないかと思います。

本稿の目的である「ヒップホップの魅力をヒップホップが必ずしも好きでない人に伝える」が達成されたか確たる自信はないですが、

・歌詞/リリックは分かった方がもちろんベターだがそこまでこだわらなくても大丈夫な作品もたくさんある。(…ということを伝えたくて敢えてKendrick Lamarを外しました)
・元々R&B/ソウルとは隣り合わせにあるジャンルだがロック寄りのものも意外とたくさんある。
・半世紀かけて発展・拡大してきたので一括りにはできない。Beastie Boysとトラップなんて遠すぎ!
・最近はさすがにジャンルの人気がピークアウトしているように思うがトラップとBillie Eilishを例に取るまでもなく他分野に多大な影響を与えている。
・これだけ拡大したジャンルなのだからポピュラー音楽聴くなら避けて通るのはもったいないかも知れませんよ?

…大体こんな内容を直接的間接的に読み取っていただけたなら目的は達成されたんではないでしょうか。最後までお読みいただきありがとうございました!

いいなと思ったら応援しよう!