逢魔が時(僕とおばあちゃんの話)

烏が鳴く鋭い声が聞こえ、僕はぎくりとして顔を上げた。目の前の古い大木の上に目を凝らしたが、薄暗くなった空の下ではそのシルエットしか判別できない。辺りはしんと静まり返って、風の音すら聞こえない。
気づいた時には僕らは夕闇の中にいた。夕日を背にして建っている愛宕神社の屋根にはまだまだ明るい陽光が差しているものの、その下の境内には誤魔化しようのない夜の闇が迫っていた。
「日が沈む前には絶対家に帰るんだよ」
祖母は家を出る前に、神妙な顔つきで僕に言った。
「特にこの時期は直ぐ日が沈むからね。ぐずぐずしていたらすぐ真っ暗になるよ。そうしたら障るからね。絶対に5時には帰るんだよ」
「分かったよ、お婆ちゃん」
 誓っていい加減な気持ちからそう答えた訳ではない。
 僕は祖母の言いつけを破るつもりなどなかった。幼いながらに祖母の言う決まり事には理由があり、それはどれも破ったら次はない類のものである事を理解していた。理解していたはずなのだが、遊んでいる内にその考えは何時の間にか僕の頭から抜け落ちていた。
 僕の不安げな顔の意味を察したのだろう。境内の前で人形遊びをしていた彼女は立ち上がると、視線をそらしながらこう言った。
「大丈夫だよ、まだ空は明るいし」
「でも、直ぐ暗くなるよ。それにほら、森は真っ暗だよ」
 僕はそう言って森を指さしたが、彼女は笑って答えた。
「大丈夫だって」
 自信ありげに言う彼女に僕は逆に心配が増した。
彼女の尖らせた口から出る「大丈夫」に根拠があった事は一度もない。寧ろ、大丈夫ではない時にしか彼女はその言葉を口にしない。実際、スマホの時計は五時を過ぎていた。
何故駄菓子屋の後で一盃森になど寄ってしまったのだろう。真っすぐに帰れば間に合っただろうに。今更ながらに僕は後悔していた。
直ぐに帰らなくてはいけないのだが、帰り道の一盃森には、夜特有の奇妙な静寂が横たわっていて、僕は怖気づいていた。祖母は滅多に怒ることはない人だったが、僕が決まり事を守らなかった時は容赦のない叱り方をする。決して怒鳴ったりはしないのだが、普段怒らない人が怒るときはそれだけで精神をすり減らすものだ。スマホを見ても今の所着信は無いようだが、それは単に祖母がスマホを使いこなしてないと言うだけの理由なので、全く安心できるものではなかった。
だが恐ろしいのは祖母に怒られるから、と言う理由からだけではない。次第に暗くなっていく森に身を置いていると、心細くて怖い気持ちになる。肩が妙な具合に硬くなっていき、取り立てて寒くもないのに鳥肌が立つ。世界が完全な闇に呑み込まれるまで恐らくものの数分とかからないだろう。
そして世界が闇に呑まれると言う事は僕らもそうなると言う事だ。僕らの存在が闇に呑まれる。毎日経験している夜が来るという事が、今日はとても恐ろしい予感に満ちている。
 再び烏が鳴いた。罠にかかった子供を嘲笑うような甲高い声だった。
 僕は身震いがした。
 隣の柚ちゃんの肩もよく見ると少し震えている。
「大丈夫だよ。大丈夫・・」
柚ちゃんの唇が震えている。急速に迫る闇に彼女も何か感じているのだ。このままだと良くないことが起こる。僕は額に冷や汗をかいていた。
「早く帰ろうよ、柚ちゃん」
僕は情けない声を出した。それを聞く彼女の顔も青白かった。夜の闇が僕らの直ぐそばまで近づいていた。
「分かった、そんなに翔太が言うなら帰るよ!」
彼女は僕の手を取ると愛宕神社の境内から小走りで逃げ出した。ぐいぐいと引っ張られて僕は何度か躓きそうになりながらも必死で彼女についていった。荒れ放題の石段に積もった紅葉は僕らが一歩踏みだす度にザクザクと音を立てて潰されていく。
石段の中ほどまで来た所で、彼女は突然止まった。
急に彼女が手を放すものだから、僕は躓いて転びそうになった。階段の手すりに掴まって何とか態勢を整え起き上がると、僕らが降りている階段の中央踊り場のあたりに、立派な格好をした中年の男性が立っていることに気づいた。
その男は自分がここにいる事は当然と言った様子で、穏やかな笑みを浮かべていたが、先程までこの森には僕ら以外の人間がいる気配はしていなかったはずだ。一体この男は何処から現れたのだろう。
「春宮翔太君だね」
 男がこちらに近づいてくる。
「あ、はい」
男が急に話しかけてきたものだから、思わずそう答えた。何故僕の名前を知っているのだろう?男は覚えのない顔をしている。知らない人間が自分の名前を知っていると言うのはあまり気持ちの良いものではないが、男の格好のせいかあまり違和感がなかった。
それに、事情があってこの福島市に引っ越したばかりの僕には知り合ったばかりでよく顔を覚えていない大人が多い。
男は僕の1メートルほど離れた所で立ち止まった。人と話をするには少し遠い距離だった。声が聞こえない訳ではないが、打ち解けた話をする距離じゃない。それに相手の表情がこの暗い場所ではよく見えない。僕の方から近づこうとすると、柚ちゃんが手を引っ張って止めた。
見ると、彼女の顔は蒼白だった。僕の手を握る彼女の手も震えている。何故怯えているのだろうか。一体何に?僕が戸惑っていると、男が話しかけてくる。
「治子さんを知っているかい?」
 その名前に聞き馴染みがなかったので、一瞬人違いで話しかけられたのだと思ったが、男が口にした次の言葉でそうではなかった事が分かった。
「春宮治子さん。津世興生会で役員さんをしている人なんだけど」
治子は僕の祖母の名前だ。しかし、祖母の本名を普段意識しないので忘れていたのだ。僕にとって祖母は「おばあちゃん」である。大概の人も僕に対して祖母を本名で呼ぶ事などなかった。それは確かだ。とすると、この目の前の男はやはり初めて会う男だ。この男は誰だろうか?
そして、興生会は僕の祖母が務めている団体の名だった。祖母はそこで宗教的な活動をしている。基本的には悩み事を聞く事が多いようだが、偶にお祓いのような事をしていて、かなり名のある人のようだった。僕も手伝いのようなものをする事があったが、基本的には雑務が多く、何時も祖母は忙しそうにしていた。
僕が頷くと男は、「じゃあ、お祖母ちゃんのお家まで案内して貰えるかな」と言った。
これを聞いて僕が二つ返事で了承したのはこんな立派な人の前では祖母も僕を怒ることが出来ないだろうという子供じみた打算が原因だった。どうやら目の前の男の人は祖母と大切な話があるようだし、上手くすれば全て誤魔化せるかもしれない。浅はかな考えだと今でも思うが、浅はかでない子供などいるだろうか。
さて、ここまで思い出して不思議に思うのだが、あの後柚ちゃんはどうしたのだろうか。先程まで手を握っていた筈の彼女が記憶からその存在ごと消えているのだ。いくら思い出しても別れを告げた覚えすらない。その後もまるで僕は彼女の存在を忘れたかのように行動している。ひょっとしたらその時の記憶で、何か忘れている事があるのかもしれないし、或いは「怒られずに済む」と言う安堵のあまり、当時の僕は彼女の存在を忘れて行動していたのかもしれない。どちらも有り得ることに思える。
一盃森を降りた所で、僕はある事を思い出して足が止まった。祖母は5時を過ぎるまでに直ぐ帰りなさいと言った後で、「もし夕暮れ時に話しかける人がいても決して返事をしてはいけないよ」とも言っていたのだ。だがそれを思い出すのはあまりに手遅れと言うものだった。一度案内した以上、断る訳にもいかない。それにちゃんと覚えていたとしても、あからさまな不審者ならいざ知らず、あのように立派な格好をした大人を無視するなど子供の私には出来なかっただろう。
僕は振り返って男の顔を見た。「どうしたんだい?」にこにことしているその顔は細長く、やけに鼻が長い。そして目が細い。このような暗い場所では開いているのか閉じているのかも分からないくらいの細目だ。このような特徴的な顔をした男は興生会の集まりにいなかったはずだ。それどころか、これまでに見た如何なる顔とも違う。強いて言うなら、狐に似ているな、と僕は思った。
「おじさんは誰?おばあちゃんと知り合いなの?」
 僕が今更ながらの質問をぶつけると、男は眉間に皺を寄せ、大きく口を開けた。それが笑い顔だと分かるまでは少し時間がかかった。
「昔からの知り合いでね。治子さんには色々お世話になったんだよ。だからお礼がしたいのさ」
「そうなんだ」と答えて再び歩き出したが、その返事に僕の知りたい情報はなかった。質問には答えつつも、大事な所は全てぼかしているような、そんな喋り方だった。それに男のはりついたような笑顔にも違和感があった。この男は何かおかしい。
とは言え、返事が納得できないからと言って大人相手に更に突っ込んだ質問をする程の社交性は僕にはなかった。立派そうな大人に質問をするだけでも結構な労力を要したのだ。
夕暮れの住宅街は森の中とは違い、まだ幾分明るかった。だが怪しげな気配がそこかしこにあった。夕日に照らされた電柱や、住宅、古いプレハブ小屋の陰から何かが手招きしている。西の空はまだまだ明るいのだが、僕らが向かう東の方の空は既に夜だった。僕は夜の闇に向かって歩いているような不思議な感覚がした。
県立美術館の前まで来た時だった。電車が来ていたので、僕らは踏切前で一旦立ち止まった。遮断機が下り、電車が轟轟と音を立てて僕らの目の前を通り過ぎていく。その時、獣の唸り声のようなものがすぐ後ろで聞こえた。振り返ると、男はにこにことしてこちらを見ていたので、やはりこの男は立派そうに見えても何処か怖い所があると思った。
電車が通り過ぎ、遮断機が上がると唸り声は消えたが、背後の嫌な気配は消えなかった。次第に僕は自分が途方もなく恐ろしい事をしている気がしてきた。
誰も人のいない横町の広場に差し掛かった頃、何処からともなく太鼓の音が聞こえた。祭りがやっている様子はなかったので、辺りを見回したが人の気配すらしない。すっかり闇に染まった町に威圧的で不気味な音が響き渡っていた。
背後で男が呟いた。
「みんなで踊ろう」
僕が振り返ると、男は笑っていなかった。細い目でじっと僕を見つめて繰り返しこう言った。
「そう、みんなで踊るんだ。おばあちゃんも君も」僕は何と言っていいか分からず、前を向いて早足で歩きだした。
 広場を横切り家に近づくにしたがって、段々と太鼓の音は大きくなっていった。
 美術館の先、高架線を越えた直ぐに信夫山に続く長い長い坂道があって、その先に祖母の家はある。信夫山は完全に夜の闇の中だった。
 坂道の先には石畳の古い階段がある。斜めに歪んだり所々欠けていたりするその階段を上っている最中また男が呟いた。
「私たちは誰とでも踊るんだ」 
 僕は気分が悪くなってきた。喉元から吐き気がこみあげてきて、頭もガンガンと痛む。太鼓の音はますます大きくなっていく。異様な状況だったが、僕は具合が悪すぎて何も考えられなくなっていた。ただ我が家へ向かう階段を一段一段登る事だけを考えていた。
 階段の先は展望台に向かう車道に繋がっているが、途中にある頭の取れた石地蔵が並ぶ少し先に細道がある。そのすぐ先にあるその家は大正、昭和、平成と3つの時代を乗り越えた純日本家屋で福島市の街を見下ろす崖の上に立っている。
 細道に入って直ぐ祖母の存在に僕は気づいた。祖母は案の定怖い顔で家先に立って僕を待ち構えていた。
 僕を見た祖母は目を吊り上げ、今にも怒鳴りだしそうだった。僕は息も絶え絶えながらも、ただ祖母の怒りを逸らすために、後ろのいる人間の説明をしようとした。
「ああ、お婆ちゃん、この人ね・・」
 僕が何かを言いかけると祖母が何かを投げつけてきた。それは砂のようなものだった。何をするのかと祖母を見ると、彼女は鬼のような形相をして僕を睨んでいた。どれだけ怒っている時も静かな表情を崩さない祖母がこのような顔を見せるのは初めての事だった。よっぽど怒っているのだろうと僕は思った。やはり、こんな時間まで遊んでいた事を怒っているのだ。
「ごめんなさい」
 僕は大声で謝ったが祖母は砂をぶつけてくるのをやめない。口の中にも砂が入って咳き込んでしまう。喉が焼けるように痛くなる。僕はひたすらに謝ったが、祖母は投げつける砂も尽きたのか僕を叩き始めた。
 しかもただ叩くのではなく、背中を強く叩いた。祖母は決して僕に手を挙げた事はなかった。生まれて初めて祖母に叩かれて僕は悲しくなって泣き出してしまった。
 僕が泣いても祖母は容赦せず、何度も僕の背中を叩いた。そして最後には桶に入った水を頭にかけた。
 ああ、これはもう許してもらえないな。僕はそう考えた。
 あの男はどうしたのだろう。何故何も説明してくれないんだろうと恨めし気に後ろを振り返ったがそこには誰もいなかった。祖母の剣幕に圧されて帰ってしまったのだろうと僕は思った。
 祖母は濡れたままの僕を家へ上げると、風呂に入るように言った。ようやく許してくれたのかと思ったのだがその声は強張ったままだった。
 脱衣所で服を脱いだが、その時僕は今まで砂だと思っていたものが塩であったと分かった。体中に白い石のような粗塩がついていた。そう言えば口の中もザラザラと塩辛いし、肌もひりひりする。
 祖母の家の風呂場は天井に裸電球が点いているだけで、それも酷く弱い光なので薄暗い。しかしそれを嫌だと思った事は一度もなかった。不思議と、その部屋にいるだけで何時も満たされた気持ちになるのだ。窯炊きのその風呂はとても火力が強いせいか、真冬でも暖かい。それだけでなく、闇の中には日本的な優しさがある気がした。その闇は外の闇とは真逆で常に何者かに守られているような、そんな感覚がある。
部屋の真ん中に円筒状の木桶がある。既にお湯が沸いているようで、湯気が立ち上り薄暗い風呂場に充満している。
 さあ、入ろうとするとお風呂には葱のような青い植物が糸で束ねられて浮かんでいた。酷く臭いので僕は取り出そうとしたが、祖母が硝子戸の向こうから「取り出してはいけないよ」と怖い声で言った。
 どうやら僕を見張っているようだ。
 まだ怒っているのか。それともこれは罰の続きなのだろうか。諦めて僕は臭い風呂に入る事になった。
 非常に強い臭いで最初は頭が痛くなる程だった。だが暫くすると鼻が慣れたのか或いは壊れたのか臭いがあまり気にならなくなり、身体の緊張も先程までの具合の悪さも、お湯の暑さに溶けて行った。まるで線香花火のように細やかな電球の灯りをずっと眺めていると、コンコンと何かを叩く音がした。
 最初は硝子戸の向こうの祖母かと思ったが、方向が違う。
 それは木桶の上、丁度僕の真上にある小さな窓から聞こえた。そこから、誰かが覗いていた。窓はスリガラスであったし部屋自体もあまりに暗いのでそれが誰なのか分からないのだが、僕は何故かそれがあの男である気がした。
「いるんだろ?」
 さっきの男の優し気な声とは似ても似つかない、不安を誘うような声だった。今まで聞いたどんな声とも違う不快な声。人の言葉を喋っているにも拘らず、人の声に聞こえない。まるで動物が無理をして人の言葉を喋っているかのようにも聞こえる。
「俺と一緒に踊ろうぜ・・」
 熱いお風呂に入っているにも関わらず、その声を聴いていると冷や水を被せられた気分になった。祖母を呼ぼうと口を開いたら、硝子戸の向こうから祖母が言った。
「声を出したらいけないよ、返事をしたらいけないよ」
 僕は何も言えず風呂の中で震えていた。
 コンコンと窓を叩く音は続く。五分程するとその音が止んだ。窓にも何の姿も写らないのできっと男は去ったのだろうと思ってホッと息をなでおろした途端、恐ろしい声が辺りに響き渡った。
「さあ・・・・おおお・・おど・ろうううぅ・・・ぜっ!」
 もうそれは明らかに人の声ではなかった。獣の唸り声だった。獣が人の言葉を喋っているのだ。お湯の表面が震える。恐怖で叫び声を上げそうになった時、祖母が叫んだ。
「声を出すな!」
 そう言うと祖母は何事かをブツブツ呟いた。それは祖母が仏壇の前で毎朝唱えている経によく似ていたが、それよりも早口で力強いものだった。
 それ以降、男の声は聞こえなかったがコンコンと叩く音は聞こえた。何度か途絶えた後も思い出したように音が復活した。ずっと入っていると、頭がぼうっとしてきた。元々僕は長湯する方ではない。慣れない長湯のせいで、男に対する恐怖も消えて行った。
 もう耐えられえないと思った頃、ようやく祖母から上がって良いと言われた。
 木桶から出ると立ち眩みがした。身体が自分のものでないようで、頭の中も霧がかかったように真っ白だ。何とか風呂場から出ると僕は脱衣所でしゃがみ込むようにゆっくりと崩れ落ちた。
 その後祖母が朦朧とした僕の身体を拭いて服を着せてくれた。
 僕はまた怒られるかと思ったが、何故か病気の時みたいに丁寧に扱われた。僕はこの調子なら怒られる事はないだろうと安心した。
 その日の夜は、祖母の一緒の部屋で寝るように言われた。怒られる所か、全くあの件について触れられるのは不思議なことだと思った。
 和室で祖母と寝ていると、柚ちゃんの事を思い出した。そうだ、彼女と別れた覚えがない。まだ僕の意識はぼうっとしていたけれど、僕はその事を言わなくてはいけない気がした。
 うわ言の様に彼女の事を言うと、祖母は布団から起きだしてこちらを見た。その顔は蒼白だった。
「確かだね?一盃森で消えたんだね?」
「消えたって言うか・・思い出せないんだけど」
 何だか怒られそうな気がしたので僕はこう付け足した。
「どうさよならしたのか覚えてないんだ」
 祖母の顔が歪んだ。その意味する所は今でも良く分からない。
 その夜はずっと外で太鼓の音が聞こえていた。
 僕はその後三日三晩熱を出して寝込んでいたから。夢とも現ともつかない中で、柚ちゃんがあの男に手を引かれ何処かへ連れ去られていくイメージが何度も浮かんだ。それが事実だったような気すらするのだが、そもそも僕があの男を祖母の家に連れて行ったのだから、それは矛盾するイメージだった。にもかかわらず、僕は柚ちゃんがあの男に連れ去られたような気がして仕方なかった。
 熱が引いてからは学校には行けるようになったが、学校の皆が僕に対してよそよそしくなった。柚ちゃんはその日から今日まで行方不明のままだ。
 結局あの男が何者だったのか、祖母とどう言う関係だったのかは聞けないままである。

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