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【女性向け】シチュエーションCD風

おひとりさま


あ……おとりさまですか? いらっしゃい。
すみません、うち、あと30分で閉店なんですが。  
……よかった。じゃあここにかけて。
ラストオーダー、本当は終わっちゃってるんだけど、お腹すいてます?  
うん、じゃあお通し代わりに、何か作りますね。  
お酒は何に、あ、はい、わかりました。  
この時間だと、お仕事の帰りかなにかですかね?  
お住まいはこの近く?
……僕、ですか?  僕は……そうですね、気づいたらこの街にいて……居着いちゃったって感じですかね。  
この街の人間ではないです、まあ色々……。
ともかく。  
お仕事帰りじゃない深夜のお客さんって珍しいんですよね。  
ほら、この街って特に、観光する場所もないし。
……はい、できましたよ、ありものですけど、アラビアータとお酒。  
先代の店長から受け継いだメニューなんです。  
おいしい? ふふっ、良かった。  
え……? ああ、先代とは親子とか言うんじゃなくて。  
うーん、説明が難しいな。  
拾ってもらったっていうのが一番近いかな……。
まあとにかく先代は引退して、今は僕が雇われマスターです。  
これ、うちの名刺です、よかったら通ってくださいね。  
え、お客さんの名刺……?
ありがとうございます。
料理教室……の先生されてるんですか。  
アラビアータ大丈夫でしたか?
っていうか、あれ……なまえ……。
うちの店と同じ……えっ?
君……探してた……って、僕を……?
え、だって、ずっとってこと……?
君と僕が会ったのって...…小学生の頃、だよね?  
……僕のこと、覚えててくれたの、ずっと?
僕ももちろん!  
……っ、だから、店の名前を君の名前に変えて……でもまさか会えるなんて...思ってなかったから。  
ごめん、僕、今動揺してるよね、ごめん。
――あの日。  
母親のお供で連れてかれた料理教室で、君に会って……って、もしかして君、あの料理教室の……。
そう、やっぱりあの先生の娘さんだったのか。  
で、今はあの教室を君が継いだんだね。
僕?
……僕は、とても自慢できるような人生は送ってきてない。  
この店の先代に拾われて、最近やっとまともになってきて……でも。  
でも僕がバーテンダーになって料理を作ろうと思ったのは、  あの日君に会ったから。  
僕が「大人になったらシェフになる!」って言ったら、すごく応援してくれたよね。  
それが嬉しくて……まあ、すぐには頑張れなかったけど。  
でも僕は、あのときの君がいたから今やっと、ここまで来れたんだ。  
……そうだよ、――あれが僕の、初恋だった。
……え、君も……?
――そっか、ふふっ。
この街にたどり着くまで、この店に拾われるまで、いろんなことがあったけど……。
自棄になって、ろくでもないことも沢山してきたけど、すべてはまた君にこうして会うためだったんだな。  
……ところでお客さん。  
今は「おひとりさま」ですか?
……僕? そんなの、こうやって確認するくらいだから、決まってるでしょ?
……うん。じゃあさ。  
――これから一緒に、二軒目いきませんか?

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