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【男子学生】短編

心機一転!



【吉川】
「あー入学式、ちょーダルかったー。どーっこいしょ」
【山岸】
「あの……吉川くん、そこ、僕の席なんですけど」
【吉川】
「ん? おまえ誰?」
【山岸】
「山岸っていいます、席、間違えてるんだけど……」
【吉川】
「ああー、マジか、俺の席、一個うしろか」
【山岸】
「はい……」
【吉川】
「あ? なんで顔そらすの?」
【山岸】
「い、いえ別に」
【吉川】
「あー! 思い出した! おまえ小学生の時一緒だったヤギーじゃん」
【山岸】
「そのあだ名は卒業したんです」
【吉川】
「チビでヒョロのヤギー! あれ、俺と身長変わんないじゃん。へー。おまえデカくなれたんだ。よかったじゃんヤギー」
【山岸】
「だからそれは卒業したって……」
【吉川】
「とりあえず席返すわヤギー、これからよろしく」
【山岸】
「ヤギーはやめてください」
【吉川】
「つーかなんで俺に敬語なの?」
【山岸】
「別に、昔そんな接点なかったし……とにかく、僕の席ですから、ここ。失礼します」
【吉川】
「ヤギーが前の席かー。懐かしいな」
【山岸】
「……あれ?」
【吉川】
「ん? どしたんよヤギー」
【山岸】
「山岸です」
【吉川】
「はいはい、山岸くん」
【山岸】
「いや、気のせいだと思うんですけど、なんか教科書、国語だけ見つからなくて……おかしいな……」
【吉川】
「おーいみんな! ヤギー、じゃなかった山岸の教科書……」
【山岸】
「やめてください! 黙って!」
【吉川】
「あ? なんでだよ」
【山岸】
「君にはわからないだろうけど、昔からこういうのよくあるんです。教科書とか上履きとか、いつのまにかなくなったり。騒げば騒ぐだけ面白がられて、もっとやられる。教科書はなくしたことにするから、黙っててください」
【吉川】
「ヤギー……、おまえさ」
【山岸】
「や・ま・ぎ・し! 山岸です!」
【吉川】
「おまえ、全然卒業できてねえじゃん。いじめられっこのヤギーのまんまじゃん」
【山岸】
「それは……」
【吉川】
「ああもう、おまえは黙ってろ」
【山岸】
「吉川くん!」
【吉川】
「おいおまえら! 山岸の国語の教科書見なかったか! なんかみつからねえらしいんだ。 誰か間違って持ってたりしねえか? 俺じゃなくてこっちの影薄い方の山岸だよ、ちょっと探してみてくれ! 国語の教科書だ!」
【山岸】
「吉川くん、もういいですから」
【吉川】
「よくねえよ」
【山岸】
「僕、騒ぎを起こすのは本当に……」
【吉川】
「おまえはもうヤギーじゃねえんだろ? 小学校の時、俺はおまえがいじめられんの見てたよ。でもなにもしなかった」
【山岸】
「吉川くん……」
【吉川】
「それはおまえが何もしなかったからだ。だまってやられっぱなしの意気地なしは嫌いだったんだ」
【山岸】
「……っ! 僕だって、好きで黙ってたわけじゃ!」
【吉川】
「じゃあ今声出せよ。じゃなかったらこれからも、俺はおまえのこと、ヤギーって呼ぶ」
【山岸】
「……なにそれ……」
【吉川】
「ヤギー」
【山岸】
「山岸だってば! ああ、もう。すみません、みなさん、僕の国語の教科書知りませんか!」
【吉川】
「ほーら、できんじゃねえか」
【山岸】
「か、からかわないで。……って、え? あなた、隣の席の? ……床に落ちてたから……自分のだと間違えて……? あ、ありがとう……」
【吉川】
「なんだ、あっさり見つかったじゃねえか」
【山岸】
「た、たまたまかもしれないし。第一、僕は中学の面子と別れるために、この私立に来たんです。なんで吉川くんがいるんですか」
【吉川】
「俺、こんな見た目だけど頭いいから」
【山岸】
「知ってますよ! 小学校のテストで一度だけ負けましたから!」
【吉川】
「あー。だから俺のこと覚えてたんだ」
【山岸】
「違います、君は目立つから」
【吉川】
「ヤギー」
【山岸】
「山岸ですっ」
【吉川】
「山岸、俺も卒業したかったんだよ。”ヤンキーの吉川”から。転校した中学で色々あってさ……」
【山岸】
「……あの、その金髪でですか?」
【吉川】
「いきなり髪の色変えるのって勇気いるだろ!?」
【山岸】
「君さっき、僕に勇気出せみたいなこと、言ったばかりですよね!」
【吉川】
「人ってすぐには変われねえんだよなあ。まあこれから三年あるしさ、お互い一緒に”卒業”してこーぜ、ヤギー」
【山岸】
「山岸ですっ!!」

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