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【歴史乙女ゲーム】短編

◼背景:謁見の間 差分:夕◼  

平家と源氏、両家が雑使の私を欲しいと法皇様に申し出た数日後。
私は法皇様と並んで座り、清盛様、義経様と向かいあっていた。
【ヒロイン】
(大変なことになってしまった。スマホを二人に見られたりしなければ......)  
この三人にこれ以上現代の知識を教えたら、歴史が変わってしまう。
けれど平安時代で一人、やっていける自信はなかった。
【後白河法皇】
「ヒロインはただの雑使。平家にも源氏にも、仕えたい女など幾らでもいるはず」
「その辺から拾ってくればよかろう」
法皇様は微笑み、声色もいつもと変わりない。
だけれど深い色をした目でじっと、清盛様と義朝様を牽制する。
【平清盛】
「それが本当にただの雑使なら、なぜ法皇様はそこまでご執心されるのですか」
「法皇様に仕えたい女の方が、平家に仕えたい者より遥かに多いはず」
睨みつけるような目でとは対象的に、清盛様は静かに言う。
【源義朝】
「時に女の身体は男を狂わす。ヒロイン、お前がここまで早く、法皇様に取り入るとは思っていなかった」※ 表情 笑い
【ヒロイン】
「な......っ」
義朝様の品定めするような視線に、頰がかっと熱くなる。
【後白河法皇】
「義朝、お前の目は節穴か。これのどこにそう言う気分になれる」
(うっ。そこまではっきり言わなくても)
【源義朝】
「法皇様の話をしてるんですよ。俺は女なんぞに惑われたりしない」
【平清盛】
「義朝、ならどうして、お前は『女なんぞ』のヒロインが欲しい?」
鼻で笑ってみせる清盛様に、義朝様は舌打ちする。
【源義朝】
「ちっ。いちいち面倒くさい奴だな。俺はお前じゃなくて法皇様と話してんだよ」
【平清盛】
「俺も話があるのは法皇様だけだ。まともに話もできない奴は黙っていた方がいい」
【源義朝】
「なんだと!」
【ヒロイン】
(まただ)
かっとなった義朝様は清盛様の胸元を掴み、二人はもみ合いになる。
冷静沈着な清盛様だけれど、やっぱり義朝様相手だけは、いつものようにいかないらしい。
【後白河法皇】
「子供の喧嘩だな」
ため息をつき、法皇様は二人の悶着をやれやれと見つめる。
(清盛様と義朝様は、小さな頃から平家と源氏の嫡男。生まれながらのライバルなんだよね)
(でも、どこか……)
【源義朝】
「馬鹿は休み休み言え!」
【平清盛】
「ほう。馬鹿にその台詞を言われるとは思わなかった」
言い合う二人の間には、競い合って来たからこその絆のようなものを感じる。
【ヒロイン】
(法皇様の言うようにこの二人、本当は仲がいいんじゃ……)
そんな思いを、ふいに鋭い声が遮った。
【後白河法皇】
「戯れは外でやれ」
【平清盛】
「……」
【源義朝】
「……」
清盛様と義朝様は我に返り、気まずそうに視線を外す。
【後白河法皇】
「下品な武士どもめ」
「御所内で言い争いをするような輩が、朝廷の雑使を貰い受けようなど百年早い」
「ヒロイン、来なさい」
【ヒロイン】
「あ、はい」
私の手をとった法皇様は立ち上がり、奥の間へと入ってしまう。
【平清盛】
「……!」
【源義朝】
「ヒロイン!」  
清盛様と義朝様はそれを止めようと声をあげたが、法皇様が振り向くことはなかった。

◼背景:ヒロインに与えられた部屋 差分:夜◼

夜になり、私はなかなか寝付くことができないでいた。
【ヒロイン】
(もしずっとこの御所に置いて貰えるとして......)  
法皇様の追求をかわし続け、現代の知識や品物を隠し通せる自信がない。
【ヒロイン】
(かと言って、元の時代に帰れる方法なんて全然わからないし)  
着物の懐に隠したスマホを取り出すと、ついに電源が切れてしまっていた。  
真っ黒な画面に、不安で泣きそうな自分の顔が写る。
【ヒロイン】
(お父さん、お母さん。家に帰りたいよ)
襖が開く音がしたのは、その時だった。
【後白河法皇】
「ヒロイン? ……泣いているのか」
【ヒロイン】
「っ! いえ、ちがいます。あっ!」  
持っていたスマホに気づき、慌てて懐に戻すと、頰に一筋涙が伝うのがわかった。
【後白河法皇】
「……」
法皇様は無言で膝をつき、こちらに向かって手を差し伸べる。
【ヒロイン】
「本当に何でもないんです、これは……!」  
スマホを取られると思い、身体を縮めると、法皇様はなぜかため息を吐いた。
【後白河法皇】
「そんな顔をするな」
法皇様の手は着物の懐ではなく、私の濡れた頰を拭う。
【後白河法皇】
「この世で、私が持たぬものはない」
「その石板(※スマホ)も、こうしてお前ごと私の手のうちにある」
「私はあの武士たちのように、何も急いではいない」
言葉を続けながら、法皇様の手は温めるように、私の頰を覆った。
【後白河法皇】
「だから、……お前まで、私を怖がるな」
悲しそうに見つめられ、言葉に詰まる。  
朝廷に仕える人は達、独断的な法皇様を恐れているか、よく思っていない人達ばかりだ。
(平気な顔をして見えていたけど、法皇様はそれに、傷ついているの?)
武士や庶民を押さえつけ、権力を維持しようとするのには、きちんとした理由があるのかもしれない。  
法皇様はもしかしたら、それを『やらなければいけない』と思っているのかもしれない。
【ヒロイン】
「法皇様は怖くありません。......本当は優しい人だと思います」  
頰から伝わって来る温もりに、自然とそんな言葉が出ていた。
【ヒロイン】
「井戸から出られた時も、私を汚くて臭いから洗えと言って、斬られる所を助けてくれました」
「私には政(まつりごと)はわかりませんが......」  
言いかけた所で、ふわりと法皇様に抱きしめられた。

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(……!)
いつもはわずかに流れてくる香のかおりがぐっと近づく。  
直衣ごしに、法皇様の鼓動を感じる。
【後白河法皇】
「私の側にいてくれないか。ヒロイン」
法皇様の声は少し細くて、鼓動はわずかに早く聞こえた。
【ヒロイン】
「……? 私は、この御所の雑使です」
【後白河法皇】
「……ふ。そうだな。では次期官女として、私を支えて欲しい」  
なぜか少しおかしそうに笑って、法皇様は続けた。
【ヒロイン】
「!」
漫画で読んだ知識が正しければ、官女は位の高い役職の女性。
法皇様を場合によってはプライベートでも支える人たちだ。
【ヒロイン】
「でも、私なんかが、務まるか」
御所ですれ違う官女さん達は皆優秀で、いかにもデキる女という雰囲気だ。
(それにプライベートでも支えるって、どこまでがプライベートなんだろう……)  
想像して、法皇様に抱きしめられているのと相まって、顔が熱くなってくる。
【後白河法皇】
「……」
黙り込んでしまった私に、法皇様はふっと頬を緩めて身体を離した。

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【後白河法皇】
「驚かせてしまったようだな。繰り返すが、私は急いでいない」
「落ち着いたら、答えを聞かせてくれないか」
【ヒロイン】
「はい……」
静かに頷いてから、法皇様は部屋を出て行くのだった。

◼時間経過◼

法皇様が去り、うとうとし始めた頃。
がたりと庭の方から不審な音がして、私は起き上がった。
(え、なに?)
がさり、がさりと何かが部屋の方に近づいてくる。
【ヒロイン】
「だ、誰かいるの?」
障子に近づいたその時ーー。
【ヒロイン】
「ーーっ!!」
素早く障子が空き、腕を捕まれたことに驚く間もなく、抱きかかえられた。
【源義朝】
「静かにしろ」
耳元で囁くその人が義朝様だとわかった時には、庭に連れ出されていた。
【ヒロイン】
「なに、どういう……」
抗議しようとするが口を塞がれてしまう。

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もがこうにも、屈強な腕力の前には、身動きすらままならない。
【源義朝】
「言うことを聞かないなら、この前の続きをするぞ」  
台詞に、この時代に来たその日に、義朝様に押し倒されたのを思い出す。
(私に魅力がないって、法皇様に言ったのに)
そこまで思ってふと気づく。
(そうだった。この人にとって、『女』は個人じゃない。モノなんだ)
(恋愛感情がないから、誰に対しても魅力なんて感じない)  
ただ、自分のモノにすると決めたからそうするだけ。
そう思うと、なんだか無性に悲しい気持ちになる。
御所の庭を横切った私たちは、京の街に出た。
【源義朝】
「柄にもなく、許しなんぞ貰おうとしたのが間違いだった」
「お前は最初から俺のものだ。これからそれを思い知らせてやる」

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ニヤリとする義朝様に、用意しておいたらしい牛車の中に押し込まれた。

◼背景:牛車の中 差分:夜◼

【源義朝】
「出せ」
その言葉ともに、牛車が動き出してしまう。
【ヒロイン】
「義朝様っ、あの」
【源義朝】
「なんだ? 朝廷の力はこれから先、どんどん弱くなる」
「俺のような武士に従うのが、これからの世の生きる道だぞ」  
牛車を止めて欲しいと言いかけるが、射るような目で抑えられてしまう。
【ヒロイン】
「でも、法皇様には親切にして頂いて......」
【源義朝】
「あの男のことが好きなのか?」
【ヒロイン】
「えっ」
突然被せるように言われて、一瞬固まってしまう。
【源義朝】
「そうなのか」
なぜか怒ったようにまくしたてる義朝様に、なんと返せばいいか混乱する。
【ヒロイン】
「好き……かと、言われると……」
(まさか、恋愛に興味なしの義朝様から「好き」なんて単語が出てくるとは思わなかった)
【源義朝】
「好きなんだな。……そうなんだな」
(だ、断定されちゃった!)
【ヒロイン】
「あの、待ってください」
【源義朝】
「待つかこの馬鹿が! あの野郎、いつのまに手を出して……」
「ふん。まあいい……」
「あいつよりこの俺の方が、よほど優れていることなど、すぐに証明できるからな」
【ヒロイン】
「あっ」
肩を掴んで引き寄せられ、帯を掴まれてさすがに我に返った。
【ヒロイン】
「は、離してください」
【源義朝】
「何をされるのか位はわかるようになったか。安心しろ。時に女が男を狂わせるように」  
そこまで言って、義朝様の空いた手は、着物の裾を割り侵入してくる。
【源義朝】
「男も女を狂わせることができる。……俺なしでは生きられぬようにしてやる」
【ヒロイン】
「……っ」
耳元で囁かれるとぞくりとして、動けなくなる。
(うそ、このまま......)  
義朝様が覆いかぶさってくるのと、牛車が勢いよく止まるのはほぼ同時だった。

◼SE:牛車の止まる音◼
◼背景:牛車の中 差分:夜◼

【源義朝】
「ちっ。なんだ?」
【ヒロイン】
「あ......」  
義朝様の肩の向こうに見えたのは、意外なその人。
【平清盛】
「ーー下衆が」
【源義朝】
「ぐ......っ!」
【ヒロイン】
「わっ!」
清盛様が、義朝様を私から引き剥がし、牛車の外に放り出す。

◼背景:京の町 差分夜◼

【平清盛】
「貴様らのような東武士がいるから、武士の地位が貶められるのだ」
「欲しい物は力ではなく頭で手に入れろ。そうでなければ、朝廷には勝てない」
清盛様は言いながら、私を支えるようにして牛車から降ろした。  
外にはずらりと、兵士の軍勢が牛車を取り囲み、武器を持っている。
【源義朝】
「なんだ、これは」
義朝様は軍勢を睨みつけ、悪態をついた。
【源義朝】
「いいか。それは俺のモノだ。なんでお前がここにいる」
【平清盛】
「誰の元へ行くかは、ヒロインが決める」
【ヒロイン】
(……!)
清盛様はきっぱりとそう言ってくれる。  
身分に関係なく、一人の人間として見てくれることに、胸が温かくなった。
【平清盛】
「源氏が京で派手な牛車を借りたと聞いてな」
「大した貴族との付き合いもない田舎武者が牛車を借りる目的なんぞ、限られたものだろう」
【源義朝】
「相変わらず、俺の邪魔をするのだけは得意だな」
【平清盛】
「ヒロインは御所に帰す」
【源義朝】
「はあ!? せっかくここまで持って来たのに何言ってんだ馬鹿が」
【平清盛】
「馬鹿はお前だ。今の法皇は、ヒロインが御所を出たいと言えば許す」
「いや、正確には止められない」
【ヒロイン】
(え? どういうこと? 私、法皇様に命令されて……)
【源義朝】
「何言ってんだ。あの、この世の何もかもが自分のもんって顔してる男が」
「気に入った物を手放す筈ないだろう」
【平清盛】
「気に入っているから手放す。もういい。お前にはわからない」
「義朝。ヒロインが本当に欲しいなら頭を使え」
「そうしなければ俺は、いつもお前の邪魔をしにくる」  
清盛様はそう言って私の手を取り、道の先に見えている御所に向かって歩き出した。
【源義朝】
「くそ。だからお前は、わけがわからねえんだよ!」  
平家の軍勢に囲まれたまま、義朝様は声を荒げた。

◼御所の庭◼

清盛様に連れられて、御所へと戻ってくる。  
騒動に気づいた人はいないようで、どこかほっとしながら部屋の前に着いた。
【ヒロイン】
「あの、ありがとうございました。改めて」
【平清盛】
「あなたを助けたのは、平家にとって有益な物を守る為だ」  
清盛様は表情を変えずにそう言った。
【ヒロイン】
(……少し、寂しい言い方だけど)
「それでも嬉しかったです。本当に、ありがとうございます」
清盛様に貰った言葉の一つ一つを思い出すと、自然に笑顔が溢れていた。

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【平清盛】
「……っ」
すると清盛様なぜか気まずそうに目をそらし、頭を掻く。
【平清盛】
「俺はあの石板(※スマホ)や、源平合戦、壇ノ浦の戦いとやら……」
「起きてもいない戦の謎を解き明かすまで、諦めるつもりはない」
「どんな手段を使っても必ず、あなたを納得させ、平家に来て貰う」
「あの話や石板にはその価値がある。……ただ、それだけだ」

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言い切ると、清盛様は踵を返し、御所を出て行こうとする。
(それはわかってる。でも、嬉しかった)
(平安時代が、この人のおかげで少しだけ怖くなくなった)
【ヒロイン】
「あの......っ」
つい声をあげると、清盛様は振り返り、最後にこう言った。
【平清盛】
「また明日くる」
「平家と源氏、朝廷。どこに行くか、よく考えて欲しい」

◼了◼

※このあと、平家ルート、源氏ルート、朝廷ルートを選択し、個人ルートに入るイメージです。

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